骨と風
彼は目が覚めると住処となっている洞窟をのそのそと出た。
腹が減ったな……
昨日の狩りに参加しなかった彼は、分け前をもらえなかった。
だが彼にとってそんな事は些細な事で、それよりも気持ちの良い音が浮かんだので、気分がいい。
仲間の男たちは毎日熱心にマンモスや獣の狩りに出かけている。
女たちは集落の近くで木の実を集める。
そうして取れた物を分け合いながらこの集団は飢えずにいられていた。
もちろん彼もそれには参加しているが、どうにも気持ちが湧き立たない。
仲間たちは獲物を狙う時、喜びに目を輝かせているが、彼にとっては生きるための行動に過ぎない。
しなくて済むならそうしたい。
だが、しないと分け前をもらえず飢え死にするので、仕方なく楽しそうな「ふり」をしながら狩りに参加する。
だが、それよりも時々フッと頭の中に浮かんでくる、何とも言えない気持ちの良い音。
それを口に出して聞いているほうがいい。
不思議だが、そうしているとある時は心が沸き立ち、ある時は眠りに誘われるような安心感があったりするのだ。
他にも上手く言えない色んな気持ちになるが、共通しているのはその音が頭の中に響くときは、一番気持ちいい。
それは朝、起きた時や草原の遥か向こう、または空をぼんやりと見ている時にフッと浮かんでくる。
だが、集落の仲間からは気味の悪いうなり声だと文句を言われたため、それ以降集落の連中の前では口に出さないようにしている。
確かに誰もこんな変なうなり声なんて出さない。
気持ちいいと感じているのは自分だけ。
きっと自分はおかしいのだろう。
彼はその日の狩りには参加した。
幸運にも彼の投げた石が獣へのとどめとなり、狩りの一番の功労者として褒められ、その夜の食事では一番大きな肉をもらった。
気分がいい。
やはり、狩りで手柄を上げてこそだ。
自分もこれからはもっと狩りを頑張ろう。
いつまでもこんな気味の悪いうなり声を楽しんでいてはダメだ。
そう思い、彼は自分の洞窟に帰った。
その途中、彼の耳になんとも言えない気持ちのいい音が聞こえた。
何だ?
ふと音のほうに目を向けると、そこには一本の骨が落ちていた。
悪霊か……?
恐る恐る近づくと、どうやらその骨に風が吹き込んで、音を出しているらしい。
これは……気持ちいいな。
彼は震える手で骨を取る。
呪われるかもと怖かったが、あの気持ちいい音が忘れられない。
彼は恐る恐る骨に空いた小さな穴に口を当て、息を吹き込んだ。
するとさっきと同じピー、と言う音が聞こえ、彼は気持ちよくなった。
さっきの大きな肉をもらったときより気持ちいい。
彼はその骨を大事そうに抱えて洞窟へ戻った。
時々息を吹き込みながら。
【終わり】
△△△△△△△△
今日も来てくださって有難うございます。
何だかスッキリしないお天気ですね……
でも、かなり秋めいて来たので気持ちも落ち着きます。
どうぞ、ご注文のジャスミンティーとマロンムースとショコラを使ったケーキになります。
わあ! 当店のジャスミンティー気に入って下さったんですね。
嬉しい……実は私、家でもしょっちゅうジャスミンティーを飲んでて大好きなんです。
なので、お客様と分かち合えるのが幸せです。
ところでライム、今日は物凄く昔の光景を持ってきたのね。
こんな古代の……ビックリした。
あ、すいません。お客様を置いてけぼりにしてしまい。
才能が評価される要因として、本人の努力や周囲とのご縁がもちろん大きな物ですが「運」も中々に捨てがたいですよね。
周囲を圧倒する才能があっても、それが世に出るか埋もれるかは運。
生まれた家庭環境や国、健康状態、同世代のライバル。
そして……時代。
現代はパソコンによって楽譜を読めなくとも、バンド仲間との折り合いをつけることが出来なくとも、自ら1人の純粋な才能で楽曲を作り、世に問う事が出来る。
小説でも、投稿サイトによっていつでもいくらでも自由に多数の人の目の前に発表できる。
それによって開花し、世に出た才能も多数ある。
でも……例えば昭和の時代であればそれらは極めて限られた場所やタイミングとなり、創作者にも相応のスキルと行動力が求められた。
そんな環境で埋もれた才能がどれだけいたのでしょう。
今回見て頂いた「彼」も生まれる時代が違っていたら……
才能とは美しく、優しく、そして残酷なものなのかも……
でも、彼は幸せそうなので、こんな事を言うのも今に生きる私のエゴなのかもですね。
あ、私個人的に今回見て頂いた光景は感じ入るものがありました。
え? なぜって?
ふふっ、実は……私、最近小説に挑戦しているんです。
……え! 読ませて欲しい!?
だ、だめです! お恥ずかしい。
もっと……ふさわしいタイミングに恵まれたら……検討します。
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