第四夜

! 蝶番が軋む音2回


! ロックを掛ける音


! 足音と床が軋む音


「おかえりなさい。あら、お土産?」


「誕生日プレゼント、って驚いたわね。覚えていてくれたの」


「ええ、もちろん皮肉よ」


「半々で、去年と同じく慌てて百貨店でチョコレートボックスでも買ってくると思っていたものだから」


「はいはい、ごめんなさいね。これでも喜んでるわよ。その、ありがと」


^ 立ち上がるヒロイン


「それじゃ、謹んでいただきますわっと。箱の中身はなんじゃろな、っと。あれ、これって」


「あの、この蝶の髪飾り。近頃に見た覚えがあるのですけれど、説明いただけませんこと?」


「いいえ、贈答の品に怒りを覚えるなどとてもとても」


「けれど、おかしなこと。私の実家とこの家の間は、高速道路に乗っても 1時間はかかる距離。そして、この髪飾りは実家の蔵にしまってあり。行方も知れなかったと思うのですけれど、今日は普段通りのお帰りでしたわね」


「ええ、そうでしょうとも。仕事を休んだなどと最初から思いも寄りませぬ。けれど、それならどうしてこの髪飾りがこちらにあるのでしょうね」


「ああ、なるほど。コンビニ受け取りで郵送。そういう術もありましたわね。いつの間に配送業者の新アカウントをお作りになったのかしら?」


u苦しいわよ」


^ ヒロインの深い溜め息


「どうせそんなところだと思ってたわよ。道理でこの一月、電話をかけても出ないはずね」


「それで、なんだってこんなトンチキなことを?」


^ ヒロインのうめき声


「姉さまったら、まったく。いつまでも少女趣味なんだから」


「あのねえ、まずはっきり言っておきますけど。私、サプライズは好きじゃないの」


「当たり前じゃない。隠し事なんて、する方もされる方も心に澱みが溜まるものよ。どうせそれも姉さまに嗾けられたんでしょう」


「まあここは呑んでサプライズは良いけれど、なんだってこの髪飾りなのよ。そりゃ思い出の品だけど、私は大した思い入れもないわよ?」


「は?あなたが惚れたときに私が蝶の飾りを付けていたから?」


「待って、待ってちょうだい。あなた、たしか私に告白するときにその、『懸命に子どもと向き合う姿が好き』っとか、言ってたわよね」


「そりゃ覚えてるわよ。小っ恥ずかしいことを言う人もいるものだと感慨深かったもの」


「で?惚れた後に好きになった?シラフなら嬉しい言葉だったのでしょうけどねえ!」


^ ヒロインの深呼吸


「まあ良いわ。深堀りしたいところだけど、今は良いとしておくわよ。けれど?そのために?夜な夜な私の実家まで?」


bッ鹿じゃないの?」


「私の気持ちも考えずに我欲を優先し、いたずらにこの心乱したその行い、大欲非道と言ってなお余りある!そこへ、って何よ」


「姉さまが? 2t… 少し待ってて」


! 電話のコール音


「もしもし?姉さん?あ、これはどうもお祝いいただき恐縮で。ってそうじゃないのよ」


(((fu


% よしなに応答時間を含みつつ


「姉さん!あの人に変なこと吹き込んだでしょ!やめてよ、姉さんが言うとトンチキもそれらしく聞こえるんだから」


「そりゃ嬉しかったけどねえ、嬉しかったから怒ってんでしょ、こっちは!」


「や、まあ確かにセンチメンタルになって故郷のことは姉さんに零したわよ?でもあの人に言わなくたって」


「三方一両損どころか私達だけ三両払って姉さんの六両総取りじゃないのよ」


「だいたいが、なんでサプライズなんかにしたのよ。私がそういうの嫌いって知ってるでしょ?」


「そりゃまあ、言われても帰らなかったかもしれないけど。伝えるぐらい」


「反対しただろうことは、否定できない …… 」


「だからって!それとこれとは別。どうしてもって言うなら宅配にしてくれればよかったじゃない」


「は?蔵を干す時に二の蔵と混ざった? uさか体よく使って」


「そこまでの乱心ではなかったことだけは安心したわ」


「大体なんでこの髪飾り、わ、ちょ、ちょっと待、言わないでよ!」


「え、もしかして言った?あの人にそれ言ったの?」


「隠し事と秘め事は別!だから男女の機微がわからないのよ!」


「あ、ああ。言ってないのね。いや、その、言い過ぎたわよ」


「ぐっ、外道と言ってやりたいのに寺を継いでもらっている事実が言わせない」


「はいはい、解ったわよ。善処するわ」


「帰郷?それは、まあ、そっちも善処するわよ」


「あーはいはいはい。おやすみなさい」


「余計なお世話よ!」


)))


! 通話の切断音


^ ヒロインの深く長い溜息


「姉さん、じゃなかった、姉さまにも困ったものだわ」


「まあ親戚付き合いはまだあんまりしてないから意外でしょうね。でも、姉さまってわりとあんなスチャラカなのよ」


「姉さま、人当たりは良かったからねえ」


「では改めて」


^ ヒロインの咳払い


「そこへ直れ!」


「それはそれ、これはこれである!疾くと姿勢を正すが良い!」


@ パートナーの後ろに回り込むヒロイン


「斯様な所業、誠に、誠に …… 」


^ パートナーの左首元にキスをするヒロイン


wwりがと」


^ 首元から離れるヒロイン


「誠に独りよがりと言う他ないわ。男女の情愛というのは離別の苦と合わせてあるもの。それは天命であると同時に、人の成す事の現れでもある。そして、男が人であるように女も人。人心の交わりが多生の縁であるように、情愛の交わりも縁の一つ。なれど縁には良縁も悪縁もなく、ただ縁を紡ぐ人それぞれがそれと見なしているに過ぎないわ。だからこそ、良縁たらしめるには良く交わることこそが寛容」


% フェードアウトしつつ


fというのにあなたは己の狭まった視野を盲信して交わりを怠り、結果として私の心を激しく乱した。更には私の姉の邪念妄言を信じ、それに従うことが喜びであると信じたのでしょう。しかし、物事の正しさは喜びから離れて初めて気づき、わかるもの。喜びにいるうちは決して智慧を得るようには安らいではおらず、内にある言葉のみで考えているのだ。だがはっきり言っておくと、あなたの中にある言葉の全てがどれほどのものだというのか。そのことに意識無意識に気がついていたからこそ、後ろめたさがあり、後ろめたさから私へ伝えることを怠ったのではないの?けれどそれはまさに交わりを拒むことであり …… 」

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