第二夜、第三夜
! 電話のコール音
「はいもしもし。あら、どうしたの」
「今日は遅くなるって?」
^ 涙ぐむヒロイン
「なんで泣くのかって、ようやくあなたが報連相を覚えたのが嬉しくて。泣き真似?そりゃそうに決まってるでしょ。あなたが思ってるほどセンチメンタルじゃないの」
「まあわかったわ。私は先に寝てるから。帰り道は気をつけてね。それじゃ切るわよ」
! 通話の切断音
% 時間経過
! 蝶番が軋む音2回
! ロックを掛ける音
! 忍んだ足音と床が僅かに軋む音
! 開き戸を開ける音
! 電灯のスイッチを押す音および蛍光灯の発火音
! 忍んだ足音
! 鞄を置く音
! メモを取り上げる音
「お疲れ様でした」
「ご飯は炊いてあります」
「冷蔵庫の中に焼き鯖が入っています」
「鯖を温める場合はレンジ600Wで1分程度が目安です」
「味噌汁が飲みたい場合はインスタントが台所に出ています」
「あまり食べすぎないように」
! メモを置く音
! 調理音: 飯盛、レンジ温め
% フェードアウトしつつ
! 食事音
% 時間経過
! 電話のコール音
「はいもしもし。あらそう、今日も遅くなるの。立て続けに大変ねえ」
「わかったわ。それじゃ、お先に休ませてもらうから。気をつけてね」
! 通話の切断音
% 時間経過
! 抑えた蝶番が軋む音2回
! 抑えたロックを掛ける音
! 努めて忍んだ足音
% 扉越しのヒロインの音源
「ですから、お父様は今いないんですよ」
「どうして?血の池地獄に堕ちたの?」
「そんなはずありません!お父様は一途なお方、色情に流されるなど考えもよらぬことです」
「えー?本当かなー?」
「 miccha-sati(ミッチャ・サティ/邪念、妄想)はおやめなさい。畜生道に落ちますよ」
「そんなこと言って、嫉妬から愚痴に陥りそうになってるのはお母様じゃない」
「そのようなことは!
「正道にいるなら論駁できるはずなのに、お母様ったらおかしいんだー」
「この、小賢しいことを …… 」
! 開き戸を開ける音
% ダイニングの椅子に座っているヒロイン
^ 慌てて左手を背に隠しながら振り返るヒロイン
「お!か、えりなさい。早かったじゃない」
「そう、早くに用事が片付いたのね。良いことだわ」
! 開き戸を閉める音
「あ、あらら。見つかっちゃったの。恥ずかしいわね。この指人形は、その、あれよ。掃除中に見つけて、つい懐かしくなっていじくってただけ」
「なにか演ってくれって、いきなり言われても台本もなにもないからムリ!そう、ムリよ!」
「そうそう、確かに実家の寺で開いていた子ども会で使った人形だったわね。でもこのお人形は両方女の子だから、あの頃演っていたものの中だと何ができるかしらねえ。かぐや姫とか?」
「仏教説話ってあなたねえ、大抵の主人公がお釈迦様かそのお弟子様じゃないの。女の子の人形にやらせる役じゃないわよ」
「は?血の池地獄?って、
^ 勢いよく立ち上がるヒロイン
「こ、
「あなたが今行ったことは、私の言葉を盗むに等しいのよ。盗むという字は皿の上のものを羨んで欲する姿、欲する心はすなわち己が手にない物へ手を出さんとする衝動に他ならない。しかし、与えられずして手にしたものは所詮は自己の下にないものであって、それがどうしてあなたの下にとどまると思えるのか。易行なるがゆえに難信、欲するがままに行うは易いことだけれど、それを信じて真に己のものにすることは難しいものなの」
(((fw
「そもそも真に物を得るということは難行であるがゆえに易信なるもの。私達がパートナーとしての絆を確かなものとしたのは、年月をかけて行うは難き相互の努力を重ねた果てのこと。その努力を互いに知り、己が内にもまたその蓄積があるからこそ絆の存在を疑うことなく、信じるのは容易いことなのよ。けれどその易さに甘えて無思慮な行いを安易に為すはまた邪行にして信頼を損なうこと。すなわち正道から外れた行いよ」
「
)))
「な、何よ。話を遮って」
「途中から話がずれてた、ってのは。まあ、その。認めるわよ」
^ 勢いよく座るヒロイン
「ああもう!そうよ、照れ隠し!あなたが一人芝居を盗み聞きなんてするものだから!」
「そうやって悪びれもしない謝罪ならしないほうがマシ!」
「スネてんじゃなくて、怒ってんのよ」
「は?浮気は根っからの誤解?んなこたぁ解ってるわよ。お芝居って言ったでしょ、お芝居」
「事を見定めるに重きを、って、また妙なところばっかり覚えてるんだから。けれど、御生憎様。本当に誤解なんてしてないんですもの」
「でも、本当にそう危ぶんでいるなら、その、あまり肝を煎らさないでほしいわ」
^ 抱きしめようとする手をやんわり払うヒロイン
「こら、この手は何かしら。さっきも言ったけど、安易な道というものは
「はいはい、良いから。夕飯は?食べてきたのね?」
「でもこの子達はどうしようかしら。いや、これまでは一人遊びなんてしてないわよ。ただ単に、今日の昼間に掃除をしてたら、棚の奥から出てきたの」
「そうそう、懐かしい子と一緒に、懐かしい物も出てきたのよ」
^ 立ち上がるヒロイン
「ほら、これこれ。アルバム。私が子ども会のボランティアをやってた頃だから、
! ページを捲る音
「懐かしいわねぇ、あなたと出会ったのもこの頃だったかしら。あんまり足繁く通うものだから、いつの間にかあなたも准ボランティア扱いになっちゃって。誰が目当てかなんて女衆の間ではちょっと噂になったけど、まさか私とはねえ」
「はいはい、解ってるわよ。大学の卒論書くので来てたんでしょ。まあ結果的にそれだけじゃなくなったけどね」
! ページを捲る音
「私?私は姉さま狙いだと思ってたわよ?私は当時から性格もあんまり変わらないしね。今でも万人に好かれる性格とは思っていないから」
「姉妹で真逆というのはお話の中だとままある話だけど、実際に姉さまは人当たりも良かったからねえ」
! ページを捲る音
「そうそう、この写真みたいにおそろいの蝶の髪飾り、違いは小さなガラスの色だけなのに、付けても印象がまるで違うんだもの」
「 ……ちょっと、何で肩を跳ねさせたのか詳しく聞こうかしら?いや、爆発ってそんなことでごまかされるわけが、爆発だわ」
「やぁだもう、姉さまったら、寝癖で髪の毛爆発してるじゃないの。こんな写真誰が取ったのよ。まあ姉さまは姉さまでズボラなところもあるけれど、この写真は可愛そうねえ」
! ページを捲る音
「このあたりの写真は、私達がお付き合いを始めたあたりかしら。初々しいわねぇ、若返るわ」
「
「何よその呆れた目は。女の子、
「その苦笑いをやめなさいってば。やめて。やめろ。やめんか貴様」
@ パートナーの両頬を手のひらで押しつぶすヒロイン
「
^ ヒロインの呼吸音
「あー、あー、暑いわねー!こら、ニヤけるな、ニヤつくな、ニヤリとするな!」
「うっさいわね!気持ちまで若くなっちゃったのよ!」
「ああもう、若い、若いわー!若い!」
「何処へってこの時間でしょ、先に寝るのよ!おやすみ!」
! 開き戸を開けて慌ただしく閉める音
% しばらくアルバムをみつめるパートナー
! アルバムをめくる音が何度か
! アルバムを閉じる音
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