休日午後
^ ヒロインの鼻歌
! タブレットの操作音
「さて、あとはタンスに服をしまって、の前にシーツはそろそろ乾いたかしら」
^ こちらへと近づくヒロイン
「あら?」
@ 左後ろからパートナーの手元を覗き込むヒロイン
「椅子に座って何を見ているのかと思えば、旅行代理店?あなたのお休みが取れれば行きたいところだけれどねえ」
「週末日帰りプラン、あれは酷かったわね。お互い勝手がわからないものだから、全てが後手後手で疲労感が一番の思い出だもの。何?リベンジでもしたいの?」
「そう?見ているだけで楽しい、というのはちょっと私には解らないかな。なんでって、そりゃあ百聞は一見にしかず、絵に描いた餅の書より数粒のあられの味よ」
「
「風景写真を見て楽しんでるんじゃないなら、なんだってのよ?え、行程表?」
「私にはわからない世界だわ。百歩譲って、時間の割り振りでロケーションの壮大さを感じる、ってのは良しとするとしてもよ?移動時間を含めてなんとかやりくりして、可能な限り詰め込んで連れ回そうとする必死の努力が面白いって、わからない趣味ねえ。男の子ってみんなこうなのかしら」
「はいはい、男女関わりなくの由緒正しい鑑賞ね。人非人で悪うござんした」
「別に自分を卑下しちゃいなけど、私の趣味には合わないってだけよ」
「私の趣味は、そうね」
@ 身を乗り出し、しなだれかかるヒロイン
「やっぱり大物で三泊はしたいわよね。それもあくせく移動するんじゃなくて、一箇所に宿を構えてデンと楽しむの」
「これなんか良いわね、竜田川の紅葉。あの辺りから下っていけば門前町だし、宿もよりどりみどりじゃないかしら。せっかく風靡なところに行くならそうね、侘びた風情とはいかなくても湯の張ってあるような落ち着いた所が良いかも」
「良いものは何度見ても良いけれど、せっかくなら近くの三室山なんかにも登ってみて散策してみたりして。山の方は桜が有名で時期はずれるけど、景はともかく観が損なわれるということもないでしょう。盆地の端だから見るものも多いんじゃないかしら」
「そうそう、景勝地を回るのも良いけど、法隆寺の方まで出て寺社巡りってのも良いかもね。少し遠いけど、足を伸ばせば石舞台古墳なんかもあるし、いにしえのクリエイターの妙を鑑賞するってのも悪くない。うん、悪くないわ」
^ 息を呑んで黙るヒロイン
「なによ。え?淑女らしからぬ語勢って、忘れてっていったじゃないのよ!もう!」
「謝るくらいなら混ぜっ返さないでちょうだい。まったく。それでなに?」
「いや、あなたねえ。私の実家が寺だったからって、寺を見飽きるなんて事あるわけ無いでしょ。毎日米を食べてるからって、寿司なり釜飯なりは別として美味しいのと同じよ」
「だいたいね、法隆寺の左官ったらすごいんだから。幾度もの天災人災に耐えて残る版築の土壁ときたら!」
「補修って、そりゃされてるだろうけど同じ技なんだから同じ壁よ」
「そういうものなの!ロマンよロマン。これこそ男女関わりなくの由緒正しきってやつね」
「そういえばロマンと言うなら利根川も捨てがたいわね。え?なんのロマンだって、そりゃもちろん江戸川よ」
「利根川の東遷、荒川の西遷、口に出すのは簡単だけど、実際にやっちゃうのはやっぱりロマンよね」
「やっぱりあの辺りの上水なり水系なりは、徳川家の執念が見えて面白いわ」
「ぐ、まあ?確かに?水系巡りともなれば宿一つに腰を据えてともいかないけれど、それはそれよ!」
「ええい、微笑むなって。いっそバカにされたほうが幾らかマシよ」
「実際に笑われたらどうするって、そりゃぁ、もちろん。こうよ!」
@ パートナーの両頬に指を押し入れるヒロイン
^ ヒロインの笑い声
「見事なひょっとこ顔ね。ほらほら、なにか言ってご覧なさいな」
「は?キス顔に見えるかって
^ パートナーの頭を軽く叩くヒロイン
「まったく、昼間から馬鹿言ってないの。こっちまで意識させられるんだから。まったく、まったくもう」
@ 体を離すヒロイン
! 小走りの足音
% ヒロインの音源が遠ざかりつつ
「さ、家事を済ませないと。お仕事お仕事」
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