第48話 つなよし

「だって、あなた弱そうだから」


 養老怪姫が、見下すようにねずみを見る。


「ムッ。くらえッ!」


 刀を、振り下ろすねずみ。


「フッ」


 華麗にかわす養老怪姫。


「なにっ!?」


 すばやく間合いを広げて行く養老怪姫を、追うねずみ。


「あなたたちの相手をするのは、この子たちよ。出てきなさい」


 そう言うと、養老怪姫の上に無数の黒い丸が出現して、中から手足の無いワニのような怪物が出てきて、養老怪姫の上を飛び回る。


「なッ!? クチナワが、飛んでいるだと?」


その頃


「あぁ、すずめか」


 ふすまの向こうに気配を感じた将軍ツナヨシ。


「はい。ツナヨシさま。人払いを」


 そう、すずめが言うので、


「うん。そのほうら、下がれよ」


 閉じた扇子を動かすツナヨシ。


「はッ!」


 正座したまま、頭をコクッと下げて部屋からゾロゾロと出て行く家来たち。


「ここしばらく、妖怪の数が市中から減っておりましたので、補充を指示いたしております」


 ツナヨシのそばに、ヒザをついて座ったすずめがそう言うと、


「そのようなことを、よがたのんだかの?」


 と、言うツナヨシ。

 かけた術が、とけかかっているので、


「それは、お互いさまで」


 術を、かけなおすすずめ。


「そうか。あれら妖怪も、生き物と言えば生き物か」


 目が、うつろになるツナヨシ。


「そうです。今さら、引き返せませぬ」


 そう、すずめが言うと、


「そちの提案じゃ。よきにはからえ」


 特に、反論することなく、受け入れるツナヨシ。


「はッ。将軍さま、これにて」


 立ち上がって、去ろうとするすずめ。


「遊んで行かぬのか?」


 すずめの足を、ギュッと掴んで引き寄せるツナヨシ。


「はい。急ぎの用がありますので」


 すずめの胸を揉むツナヨシ。

 障子に、部屋の中をうかがうような影。


「そうか。待っておるぞ」


 すずめを放すツナヨシ。


「はッ。これにて」


 天井裏に、消えて行くすずめ。


「うむ」


 ボンヤリと、虚空を見つめるツナヨシ。


「………恐れながら、よろしいのでござりましょうか、あのような者の話などを鵜呑みにされて」


 察して、部屋に入る老中ろうじゅう


「お主も、老中になって久しいな」


 真顔になるツナヨシ。


「えっ、そこまで長くは………」


 マズいことを言ったと思った老中だったが、時すでに遅く、


「どうじゃ。しばらく紀州にでも行って、骨休めしては?」


 江戸から出ろと言うツナヨシ。


「なっ、申し訳ござりませぬ。なにとぞ平にご容赦をッ!」


 土下座する老中。


「おい、旅に出るらしい。支度を手伝ってやれ」


 家臣を呼ぶツナヨシ。


「ははァー」


 数人の家臣が、老中の両脇を抱えて、引きずっていく。


「お待ちくだされぇぇぇ」

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