第47話 助太刀

「勝てぬにしても、一太刀だけでも浴びせてくれようぞ!」


 鋒を、養老怪姫に向けるハタノ。


「ふーん。それなら、わたくしも」


 三味線のネックを持って振ると、胴から三方に鉄のトゲが出る。


「なんだそれは。ただの三味線ではないだと!?」


 三味線を、ブンブンと振り回すのを見て、得体の知れない恐怖を感じるハタノ。


「あなたの方は、ビックリしたみたいね」


 余裕の、ほほえみを見せる養老怪姫。


「うるさい。その程度で、動揺などするか!」


 怒鳴りつけるハタノだったが、図星で動揺する。


「どうだか」


 見透かす養老怪姫。


「いくぞ! ハァァア!」


 剣で、突きをするハタノだが、


「なんの。その程度か」


 鉄で出来たように固い三味線に、はじかれる。


「ぬかせ! ハッハッハァーイッ」


 次々と、突きをあびせるハタノ。


「効かぬと、言っておろうが」


 ことごとく、はじきかえす養老怪姫。


「ぐぁーッ」


 養老怪姫の蹴りが、ハタノの腹に当たり吹き飛んで壁にめりこむ。


「もうおしまいか。口ほどにない」


 あざ笑う養老怪姫。


「まだまだァ」


 奮い立つハタノ。


「ハッハッ、なにッ」


 三味線のトゲが、ハタノの腕に刺さると同時に、養老怪姫の腹に尺八の針が刺さる。


「どうだ、一太刀くらわせたぞ」


 肩で、息をするハタノ。


「ハッ! 女が襲われている」


 たまたま通りかかり、その様子を見たサーシャが、脱兎のごとく走る。


「待て、サーシャ!」


 ねずみが止めるが、聞かない。


「ヤアアア!」


 ハタノと養老怪姫の間に、スゴい早さで入ると、ハタノに拳をぶつけるサーシャ。


「うわッ! なんだこいつ!?」


 地面を、何回転もするハタノ。


「助けるわ」


 背後の養老怪姫に声をかけるサーシャ。


「お主。そなたの目には、わたくしが負けて

おったとでもうつったか?」


 養老怪姫の、お腹のキズは、もうふさがっている。


「でも、おなごが襲われて、助けないわけには」


 そう言うサーシャに、


「なんじゃお前は? その女の仲間か?」


 ハタノが確認する。


「仲間とか、そういうのじゃないが、道理がある」


「待て、そいつは───」


 と、言いかけるハタノだが、


「問答無用!」


 聞く耳を持たないサーシャ。

 拳を、振り続ける。


「クッ!」


 防戦一方のハタノ。


「ハッ! ハッ! ハッ!」


 拳を、突き続けるとハタノも、まともにくらいだす。


「やめろ!」


 かなり、きびしい状況のハタノ。


「やめない」


「フフフ。どうなるか楽しみね」


 腕組みして、見物する養老怪姫。


「あれは、もしや高野衆の………ならこいつは」


 ねずみが、養老怪姫に対して構えると、


「あれ、もしかして気付いちゃった?」


 口角を上げる養老怪姫。


「お前、何者だ」


 ねずみが聞く。


「ハッ! ヤアッ」


 拳を、くり出し続けるサーシャ。


「ぐあっ!」


 まともにくらうハタノ。


「おい、サーシャ! 敵は、そいつじゃない!」


 ねずみが、制止する。


「なにっ!?」


 振り返るサーシャ。


「グヘッ、だから言ったろ………あいつは、竜の化け物だ」


 養老怪姫を、指差すハタノ。


「この女が、竜だと!?」


 ねずみが、養老怪姫との間合いを開ける。


「あーあ、バレちまったか」


 三味線を、振り上げる養老怪姫。


「気をつけろ。そいつは、人を喰うぞ」


 と、ハタノが言うと、


「なんだと………それが、まことなればここで滅する!」


 ねずみが、刀を抜く。


「フフ………アハハ」


 いきなり、高笑いする養老怪姫。


「なにが、おかしい!?」

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