第7章

第43話 お供え物

「はい、なんでしょう?」


 と、ミツクニさんが聞くと、


「流しで、三味線をひいています。一曲どうでしょう?」


 クルリと、背中に回していた三味線を、手元にもどす女性。

 赤い珊瑚の首飾りが、キラリと見える。

 どうやら、数珠のようね。


「イイね。お願いする」


 ミツクニさんが、そう言うと、


「まいど」


 演奏を始める女性。


「おお」


 見事な演奏に、聴き入る。


「いかがでしたか?」


 ニコッと、笑う女性。


「スゴくよかったよ」


 と、クニヤスが絶賛する。


「ありがとうございます」


 真顔で、頭を下げる女性。


「はい、これ」


 懐から、財布を取り出して、ガバッと小銭を渡すミツクニさん。


「わっ、こんなにたくさん。ありがとうございます」


 白い歯がこぼれる。


「イイのイイの」


 ミツクニさんは、自分が聴きたかったんじゃなくて、クニヤスに聴かせたかったのかな。

 考えすぎかな~。


「スゴいですね」


 クニヤスが、舌を巻く。


「ありがとうございます。では」


 食事処を出ようとする女性を、目で追う男どもがいる。


「おう、あれ」


 お猪口ちょこを片手に、アゴで合図すると、一斉に立ち上がる男ども。


「フフフ」


 それを横目に、昼でも薄暗い裏路地に入る女性。


「おい、待ちなお嬢ちゃん」


 六人くらいの男たちが、女性を追いかけて来る。


「はい。どうされました?」


 口角を上げて、振り返る女性。


「懐が、うるおっているみたいじゃねぇか。よこしな」


 半笑いで言う下衆。


「あぁぁ」


 よろめくように、スゴい速さで走る女性。


「待て、このアマ」


 全速力で、追いかけるゴロツキ。


「このあたりだね」


 建物の少ない、うらぶれたところまで来ると、歩みを止める女性。


「ハァハァ、観念しやがれこのクソアマ───」


 と、言いかけた男だったが、


「フフフ。観念するのは、あなたがたですよ」


 女の正体は養老怪姫で、みるまに口が大きくなっていく。


「なんだこの」


 たじろぐ男たち。


「いただきます」


「ぐああぁぁ」


 頭から、丸飲みされる男。


「ひぃ………アニキ!」


ズチュ


「ふぅ。次は、あなたね」


 口を、右手でぬぐう養老怪姫。


「ギーヤーー」


 一斉に、一本道を我先に逃げていく。


「ハッ!」


 逃げる先に、養老怪姫の姿。


「え゛っ。あっちだ、あっち」


 また一人、養老怪姫に飲み込まれる。


「ゴクッ」


 口を、モグモグする養老怪姫。


「薮だ、そっちに逃げろ」


 道を逸れて、クモの子を散らすように逃げる。


「ふぅ。観念しなさい」


 また、先回りする養老怪姫。


「ギャアー」


その頃


『………誰も、いないよね』


 クニヤスの家の、押し入れが開いて武者フウウが出てくる。


『よーし。お腹減ったから、食事にしよう』


 そう言うと、仏壇の前まで行って、反対向きにあぐらをかいて座る武者フウウ。


『いただきまーす』


 武者フウウの背中の腰あたりが開いて、ちっちゃい手を合わせ、クニヤスの先祖に祈ると、お供え物の饅頭まんじゅうを、パクパクと食べるフェアリー。


「ぬッ」


 その様子を見るネコ。


『エッ………』


 固まるフェアリーフウウ。


「見たニャ」


 口角を上げるネコ。


『えーっ、なんのこと?』


 中に、急いで戻って両手を振る武者フウウ。


「饅頭が、一つ減ってるニャ」


 饅頭を、指差すネコ。


『う゛っ………お願い、黙ってて』


 立ち上がって、頭を下げる武者フウウ。


「それが、ニャーにお願いする態度かニャ。こっちは、それで疑われたニャ」


 お供え物の饅頭が、時々なくなるので、疑われたネコ。


『お願いです。この通り』


 土下座する武者フウウ。


「フーン、わ───」


 腕組みするネコ。

 その時、


「ただいま」


 クニヤスが、家に帰ると、


『おっ、おかえり』


 武者フウウが、横たわるネコを、なで回している。


「あれ、押し入れから出てたんだ」


 あたっちが、聞くと、


『うん。ネコが、かわいいからッ』


 ガサッガサッと、手を動かす武者フウウ。


「鎧武者は、お腹が減ってるらしいニャ」


 痛みに、たえかねて言うネコ。


『エ゛ッ』

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