第42話 高級料理店

「今日は、食事処にでも食べに行かぬか?」


 クニヤスの家まで帰ると、家の前にミツクニさんがいる。


「えぇ、朝から人探しして、少々つかれましたからイイですね」


 クニヤスは、普段出歩かないのに連日動いて、顔色に疲労がにじんでいるわ。


「そうか、例のアレじゃな」


 歌舞伎の動きをするミツクニさん。


「そうです」


 うなずくクニヤス。


「あの~、ミツクニさん」


 ミツクニさんの視界に、あたっちが入っていない気がして、聞いてみる。


「うん、どうしたんじゃ?」


 不思議そうな顔をするミツクニさん。


「あたっちも、一緒に食事処に行ってもよろしいでしょうか?」


 と、言うと、


「なんじゃ、行きたいのか?」


 ちょっとトゲのある言い方を、笑いながら言うミツクニさん。


「はい。ダメですか?」


「まぁ、イイでしょう」


 大袈裟なミツクニさん。


「ありがとうございます、ありがとうございます」


 あたっちも、大袈裟に感謝する。


「それじゃ、クニヤスくん。行こうか」


 ニコッと、クニヤスを見るミツクニさん。


「はい」


「待って」


 二人を、追いかけるあたっち。


「ここですか?」


 あたっちの親が、この辺をうろつくなと、つまり値段が高めの店が並んでいるところで、裕福な商人などが通う場所ね。


「そうじゃ」


 一際、大きな食事処の前で立ち止まる。


「わぁっ、一回来てみたいと思っていたんですよね。いつも、前を通るとイイにおいがして───」


 いつか、食べに行きたい店だったの。


「クニヤスくんは、来たことあるかな?」


「オイラも、はじめてですね。ミツクニさんは、よく来るのですか?」


 と、クニヤスが聞くと、


「ああ、ちょくちょく来ておる」


 普段から、利用しているんだね。

 ミツクニさんって、何者なの。


「へぇ~、儲かっているんですね」


 クニヤスは、あまり深くは気にしていない様子。


「いやいや」


 首を、横に振るミツクニさん。


「イイなぁ~」


 正直、うらやましいよ。


「クニヤスくん。好きなの選びなさい」


 お品書きを、クニヤスに見せるミツクニさん。


「えーっと」


「あたっちにも、お品書きを見せて」


 あたっちは、ヨダレが止まらないよ。


「クニヤスくんが選んだ後でね」


 目を、光らせるミツクニさん。

 笑っているようで、笑っていない。


「うん、早く選んでクニヤス」


 待ちきれないよ~。


「まぁ、ちょっと待ってよ」


 と、クニヤスが挿し絵を見ながら選んでいると、


「ゆっくり選びなされ」


 そう言うミツクニさん。


「エェェ」


 ホントにぃ?


「うわ! スゴい」


 それぞれが、選んだ料理が運ばれて来る。


「さあ、どうぞ召し上がれ」


 ミツクニさんがクニヤスに言う。

 ミツクニさんの前には、ボタン肉の煮物。クニヤスの前には、刺身の盛り合わせ。


「でも、リリのがまだ来てないし」


 クニヤスが言うとおり、あたっちの注文した鴨がまだ来ていない。


「あー、イイのイイの。待ってるから」


 そのうち来るんじゃあ………

 狩りに行ってるのかしら。


「それでは、先にいただくとしようぞ」


 ミツクニさんが、手を合わせる。


「「いただきます」」


 二人とも、うまそうに食べるなぁ。


「あ~~~」


 両手を、交互に上下するあたっち。


「リリ、食べにくいよ」


 モグモグしながら、あたっちに言うクニヤス。


「ごめんちゃい」


 食べにくくしてるの。


「さあ、お待たせ」


 鴨せいろが来る。


「わーい、あたっちの」


「どうぞ~」


 身を、乗り出すほどに伸ばして受けとる。


「いただきま~す」


 手を合わせて、一口食べようとすると、


「お客さん」


 女性が、声をかけて来る。


「えっ、誰だろう?」

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