第41話 からくり

「養老怪姫を追って、方々をさまよい人々から聞いたところ、竜が人に化けていると」


 ハタノが、ゆっくりと庭から屋敷に土足で入って来る。


「なに、竜が?」


 ヤギュウも、配下の者を使って竜を探していたが、人に変幻しているとは思ってもみなかった。


「その竜に、我々の仲間が喰われてしまったと」


 廊下で立ち止まり、ヤギュウとグミちゃんを見下ろすハタノ。


「む………」


 険しい顔つきになるヤギュウ。


「その顔を見るに、竜に心当たりがあると見える」


 核心を突くハタノ。


「………たしかに、その竜を知っておる。と、答えればいかがいたす?」


 答えを、はぐらかすヤギュウ。


「さすれば、力ずくで聞くのみ」


 腰の刀に、手を伸ばすハタノ。


「なんだって!?」


 倒れていたグミちゃんが、急に立ち上がるが、立ちくらみで頭を押さえる。


「グミちゃん。これは、我らの問題。手出し無用じゃ」


 ゆっくりと、立ち上がるヤギュウ。


「んー。まぁ、そういうことなら特に手出ししないけど」


 サッと、座ってヒザを曲げるグミちゃん。

 両手を、後ろに伸ばして様子を見る。


「では」


 刀を抜くヤギュウ。


「ハァァアア」


 サッと刀を抜き、斬りかかるハタノ。


「くッ………なんの」


 刀で受けるヤギュウ。


「ハッ。くらえ」


 横に振り抜くと、ヤギュウの左手をかする。


「ッ………お主は、勝てぬぞ」


 間合いをとるヤギュウ。


「なにぃ」


「ここは、ワシの屋敷じゃ」


 口角を上げるヤギュウ。


「だから、なんだと言うのだ!?」


 ジリジリと、間合いをつめるハタノ。


「ハハハ」


 壁が回転して、ヤギュウの姿が消える。


「おのれ、逃げるか」


 壁を、さわって確認して回転させると、細い廊下があり、その先にヤギュウがいる。


「追い付いてこれまい」


 廊下を走るヤギュウ。


「待てぇ!」


 ここでは、狭すぎて刀が振り上げられない。


「ほっ!!」


 軽く跳ねるヤギュウ。


「うぎゃあ! 足がぁ」


 床が開いて、その下にマキビシがある。

 そこに、片足がついて刺さるハタノ。


「フッフッフ。だから、勝てないと………なにぃ!?」


 穴を見下げるヤギュウだが、


「………このぐらいでぇぇ」


 穴から、這い上がるハタノ。


「ウソじゃろ!? そんな───」


 たじろぐヤギュウ。


「この程度、痛くはないわ!」


「くッ。逃げるか」


 走って逃げるヤギュウ。


「逃げるな」


「さぁ、来い」


「まだ、罠があるか。しかし、そんなことは死んでいった仲間のことを考えれば屁でもないわ」


「その気合いやよし」


「ハァァ」


 あと少しで、ヤギュウに刀がとどきそうなところで、


「クッ」


「もらったァー。なにッ」


 ヤギュウがヒモを引くと、天井から槍が一本降って、床に刺さると顔を柄にぶつけるハタノ。

 それを見て、懐からバクダンを取り出すと、壁のロウソクから導火線に火をつけて、ハタノに投げつける。


ドゴーン


「ぐふぅ」


 顔色が、真っ黒になるハタノ。


「やったか」


 仁王立ちして、立ち止まるハタノを見てそう思うヤギュウだが、


「まだまだァ」


 全身を、毛羽立つように身震いさせ、歩き出すハタノ。


「これで、しまいだ」


ズブッ


 ハタノの下腹部に、ヤギュウの刀が刺さる。


「ク………ァ」


 力つきるハタノ。


「ハァハァ」


 倒れるハタノを、抱き上げると、


「ふぅ。グミちゃんたのむ」


 グミちゃんの前に、ハタノを寝かせるヤギュウ。


「は~い」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る