第39話 浜

「この辺なら、大丈夫そうね」


 ひたすら、南の方まで飛んだら、大きな砂浜のある海岸にたどりついたグミちゃん。

 三角形の空間を、砂浜に降ろすと、


「さあ、出て来なさいキザミ!」


 半透明な、三角形の壁を外すと、中に巻き込まれた荷物が、ガラガラと崩れる。


「………あのぅ」


 その中から、人影が出てくるのだが、


「エッ!? 誰あなた?」


 グミちゃんが、知らない人物が出てくる。


「わたしは、キザミという者ではない」


 そう、男が言うが、


「そりゃあ、見たらわかるけどさ」


 少し、あせるグミちゃん。

 他の部分に、キザミがいないか確認するのだが、見当たらない。


「わたしの名は、ダンジュウロウと申す」


 名前を名乗るダンジュウロウさん。


「ダンジュウロウさん。どうやら、ワタシはあなたを人違いで連れて来ちゃったみたいね」


 苦笑いするグミちゃん。


「あの、でしたら出来れば元の場所まで戻していただけると助かります」


 丁寧に言うダンジュウロウさん。


「えぇ~。コスパ悪いな」


 すぐ戻って、キザミを捕らえたくて、イライラするグミちゃん。


「こす………なんでしょうそれは?」


 耳なじみない言葉が、気になる。


「あなたを、魔法の杖に乗せると、速度が出せないでしょ? ワタシは、めちゃめちゃ急いでいるのよ」


 と、グミちゃんが言うと、


「そう言われましても、一銭も持たないのに、こんな海っぺりの何もないところに、放置されましても困ります」


 腕組みするダンジュウロウさん。


「もぅっ。仕方ないわね」


 魔法の杖に跨がって、後ろをポンポンと叩くグミちゃん。


「へへ、ありがとうござります」


 魔法の杖に跨がって、グミちゃんにしがみつくダンジュウロウさん。


「それじゃあ、めちゃくちゃ飛ばすから、しっかり捕まっててよ」


「はい、どうぞ」


「むぅ。ハァァァ」


 力をこめて、舞い上がる。


「おおおっ、夢うつつかと思えば、飛んでおる」


 半透明な空間の中で飛んだのとは、全然違う刺激に、子供のように笑うダンジュウロウさん。


「いくわよー」


「ははっ。ギャア」


 ものすごい速さで飛ぶので、めまいをおこすダンジュウロウさん。


「あまり騒ぐと、ふり落とすよ」


 コワいことを言うグミちゃんに、


「ぐぐぬぬ!!」


 あまりの風圧で、答えることが出来ない。


「さあ、ついたわ」


 上空から見ると、人々があわただしく捜索している。


「………」


 しかし、気絶して反応の無いダンジュウロウさん。


「ありゃ。まぁ、仕方ないわね」


 人目に、見つからないように降りると、


「さっ、ここに寝かして、っと。………ここにいるぞ~!」


 舞台裏の、目立たない奥に寝かせると、大声で呼ぶ。


「あっ、本当だ。旦那様! 起きてください!」


 観客席の上から、様子をうかがうグミちゃん。


「旦那様! あぁ、よかった」


 一座の者たちが、一斉に様子を見に来る。


「ぁぁあ、今、空を」


 うわごとのように言うダンジュウロウさん。


「なにを言っているんですか、旦那様?」


 おかしくなったのかと、気を使う役者たち。


「いや、空を飛んだんだよ」


 ありのままを言うダンジュウロウさん。


「しっかりしてくださいまし」


 女性が、ダンジュウロウさんの肩を揺する。


「いや、ホントだって」


 真剣な顔をするダンジュウロウさん。


「ちょっと、ゆっくりなすってくだせぇ」


 別の役者が、ダンジュウロウさんを立たせて、寝室まで運ぶ。


「ふぅ。なんとかなったわね」

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