第37話 用心棒

「ギャアーッ」


 用心棒で雇われた侍が、次々と倒されていく惨状を目の当たりにし、ミズノ氏は屋敷から逃げ出す。


「さーて。喰らうとするか」


 一瞥したキザミが、畳の上に倒れている侍の首根っこを掴んで持ち上げた時に、


「ちょっと、なーに邪魔してくれてるのさ?」


 その時に女性が一人、角からゆっくりと出て来た。


「おっ、まだ獲物がいたのか!」


 掴んでいた侍を、地面にたたきつける。


「誰が獲物だって? 薄汚いガキが」


 あらわれたのは、オコウだ。

 しかし、様子がおかしい。


「そりゃあ、お前にき───」


バシュン


 キザミが、しゃべっている途中に、風が起こり、キザミの右手が吹き飛ぶ。


「ギャアッ」


 一瞬にして、右手が飛んだことに混乱するキザミ。


「口のきき方ってもんが、あるだろう?」


 口角を上げるオコウ。


「なんだキサマ! どうやった!? どうやってオレの右腕を落とした!?」


 右手の手首を押さえるキザミ。


「ギャアギャアと、わめくんじゃないわ。これから、じっくりと一人ずつ食べていこうと思っていたのに」


 悔しそうに、そう言うオコウ。


「なんだ、お前も鬼か?」


 ヘラヘラと笑うキザミ。


「お前みたいな、下等生物と一緒にするな。ヘドが吹き出す」


 怒りを、あらわにするオコウ。


「なんだとぉ!」


 顔じゅうに、血管が浮き出すキザミ。


「寄るな。ブチ殺すぞ」


 軽蔑するように、見下ろすオコウ。


「なにぃ、やってみるか!?」


 左手の人差し指を、オコウに向けるキザミ。


「ハッ」


ズブシュッ


 キザミの、左肩から先の腕が吹き飛ぶ。


「ガッ! たしかに、強ぇな」


 あせりを見せるキザミ。


「次は、そのウルサい首をはねてやる」


 ゆっくりと、右手を伸ばすオコウ。


「ハァハァ、されてたまるか!」


 飛んで、天井を突き抜けるキザミ。


「チッ。逃げたか」


 深追いを、あきらめて、残った者を食べようとしたオコウだったが、


ピーーッ

ピーーーッ


 外が、騒がしい。


「おかっぴきか。仕方ない」


 こっそりと食べる計画が台無しだ。

 スッと、姿を消す。


「こりゃ最悪だな………」


 ヘイゾウが、惨状を見て落胆する。


「ミズノどのは、よくこの状況で逃げ延びたな」


 ミズノ氏が、番屋に駆け込んで呼んで来た。


「肝心の鬼は、どこでしょうか?」


 銭形が、ヘイゾウに聞く。


「そう遠くまでは行ってないだろう。探せ!」


「ハッ!」


 ヘイゾウの指示で、飛び出す銭形。


「げしゅにんを、なんとしても挙げなければ………」


 足元に転がる死骸を見つめるヘイゾウ。


「また、やられちゃったんですか?」


 あたっちとクニヤスが、騒ぎを聞きつけて屋敷に入る。


「リリちゃん。残念ながら、またキザミにやられたようだ」


 悔しそうに言うヘイゾウ。


「次々と、襲われて殺されていくわ………」


 がく然とするあたっち。


「ちくしょう!」

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