第6章

第36話 夜襲される屋敷

「オコウさん」


 少し、腰の曲がった女中が、新入りの女中を呼ぶ。


「はーい、ただ今」


 オコウという名の女中は、首に赤い珊瑚さんごの数珠をかけている。


「洗濯ものの取り込みは、もう終わったのかえ?」


 と、腰の曲がった女中が聞くと、


「はい、終わりました」


 ニコッと笑う新入りの女中。


「そう。それじゃ今度は配膳をお願いね」


 次々と、仕事をさせる。


「はい」


 イヤな顔ひとつせずに、こなしていく。


「あー忙しい。今月に入って女中が三人も姿をくらますなんて」


 普通なら、あり得ない事態だ。


「そうですよね」


 苦笑いする新入りの女中。


「でも、あんたが入って大助かり」


 曲がった腰を、トントンと叩く女中。


「オコウさんって、どこかで女中をされていたんですか?」


 他の、若い女中が聞くと、


「いえ、見よう見まねで」


 言葉を、にごす新入りの女中。


「へぇ、スゴい」


 感心する先輩女中。


「いえ」


「さっ、運んどくれ」


 そうめんと、おかずが三品。


「はい」


 膳を、部屋まで運ぶ。


夕食ゆうげにございます」


 声をかけて、障子を開けると、


「おぉ、もうそんな時でござるか」


 屋敷の主、ミズノ氏が書物を読むのをやめて、顔を上げる。


「はい」


「おお、今日はそうめんか。ここ数日で、一気に暑くなって、食欲が落ちていたのでちょうど良い」


 寒暖差に対応するのが、疲れたようだ。


「さようでござりまするか」


「うむ、いただきます」


 おいしそうに、そうめんをすするミズノ氏。


「そろそろ、膳を下げに行ってちょうだい」


 しばらくして、取りに行くように言われて、


「はい」


「膳を、お下げいたします」


 部屋の前で、正座するオコウ。


「おう」


「では」


 膳を持って、部屋から出て行くオコウ。


「ふぅ。今日は、早く眠るとす───」


 ミズノ氏が、布団を用意していると、


ゴトッ


 廊下で、物音がしたと思ったら障子が開いて、鬼が入ってくる。


「なにやつ!?」


「ちょっと、失礼するよ。オレの名は、キザミ」


「貴様、どうやって入った?」


 立ち上がって、中腰になるミズノ氏。

 チラッと、自分の刀を見るが、置かれてある。距離は三メートル。

 相手のスキがないと、取るのは難しい。


「どうやってだって? チョチョイと飛び越えて」


 右手を、ヒラヒラさせるキザミ。


「見回りの者がいただろう!?」


 ジリジリと、刀に寄っていくミズノ氏。


「あー、そいつらはもう喰っちまった」


 ペロッと、口の周りを舐めるキザミ。


「なに! 喰っただと!?」


 顔色が、青くなる。


「ああ。なにも、驚くことじゃない。今からお前も、喰っちまうとこだ」


 鋭いツメを見せつけるキザミ。


「ヒッ!!?」


 足が、すくむミズノ氏。


「さあ、大人しく───」


 と、キザミが言うと、


「くせ者じゃ! であえであえーッ」


 大声を出すミズノ氏。


「おいおい、面倒だな」


 苦笑いするキザミ。


「ダァァアア!」


 護衛の侍が、キザミに斬りかかるが、


「おっと」


 サッと、かわすと、


グシャア


 侍の頭を掴むと、一気に握ってつぶすキザミ。


「なにッ………一撃で」


 刀を、構えたミズノ氏が、絶句する。


「さあ、次にやられたいのは、どいつだ?」

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