第34話 夜の見回り

「ねぇ、クニヤス?」


 一心不乱に、何枚も絵を描くクニヤスを、ボンヤりと見ているあたっち。

 外は、夕闇が迫っている。


「ん? どうした?」


 顔を上げるクニヤス。


「最近、いろいろ描いてるけど、これって下書きなの?」


 同じような動物の絵を、次々と。


「あっ、うん。ちょっと、試したいことがあって………」


 なにか、考えがあってのことらしい。


「えっ、この筆って霊筆?」


 クニヤスの手に、握られているのはあの例の筆だ。


「ああ、そうなんだ」


 二ッコリ笑うクニヤス。


「ふぅ~ん。素早く描く為の鍛錬ってことね」


 でも、なんで絵から出ないんだろ。

 勝手に出てくると思っていたのにね。


「うん、それもあるけど。まぁ、その時が来ればわかるよ」


 笑って、ごまかすクニヤス。


「へぇー。楽しみにしとくわ」


 さっぱり、なんのことか分からないけどね。


「さて、そろそろ見回りに行くとするかの」


 ミツクニさんが、立ち上がって腰を叩く。


「はい。ミツクニさん」


 クニヤスも、立ち上がると伸びをする。


「待って、あたっちも行く」


 今日は、夕食の準備が遅れてしまった。


「連日、でずっぱりで疲労しているんじゃないか?」


 クニヤスが、あたっちに気を使ってくれる。


「いえ。憎きヤツを倒して仇をとるまでは、立ち止まらないわ」


 こんなところで、へこたれてたまるもんか。


「うん………でも、怒りで我を失わないで」


 真剣な顔で、あたっちを見るクニヤス。


「えっ。なんでそんなことを言うの?」


 いきなりだね。


「なんとなくだよ」


 特に、意味はないと言うクニヤス。


「うーん」


「おーい、フウウ? あれっ?」


 押し入れのふすまを開けるクニヤス。

 でも、そこにいるはずの武者フウウがいない。


「フウウは、もう出ておるぞ」


 ミツクニさんが、外で言うと、


『は~いッ』


 跳ねるような、足踏みをしている。


「あっ、ホントだ」


 あたっちも、気づかなかった。


「さっ、行こうか」


 クニヤスが、勢いよく戸を閉める。


「うん」


「それじゃあ、そっちお願いね」


 いつもの分かれ道。


「なぁ、たまにはクニヤスと組ませてもらえんかの?」


 ミツクニさんが、ゴネる。

 武者フウウと、早くそっち行ってよ。


「イヤだ」


 即答するあたっち。


「そこをなんとか───」


「却下!」


「しゅん」


 落ち込むミツクニさん。


『はいはい、おじいちゃん。行きましょう』


 ミツクニさんの両肩を、後ろから掴む武者フウウ。

 クルッと向きを変えて、押していく。


「誰が、じじいじゃ!」


 ジタバタするミツクニさん。


「ふぅ。毎回このくだり、しんどいわ」


 ミツクニさん、大人しくしてくれないかしら。


「そう? もうなれたけど?」


 クニヤスは、頭の後ろに手を組んで歩き出す。


「う゛~ん」


 クニヤスの後ろを付いていくあたっち。

 重い錨が、よけいに重く感じるわ。


『ちょっと、歩くの早くないですか?』


 武者フウウが、早足で進むミツクニさんを追うように歩く。


「フンッ」


 拳をにぎり、ズンズン進む。

 そのたび、ちょうちんが揺れる。


『機嫌なおしてくださいよ~』


「………アイタ、イタタ」


 突然、痛がるミツクニさん。


『どこ行くんですか?』


 道をそれるミツクニさんを見て、なにごとかと思うフウウ。


「かわやへ、花をつみに行ってくる。そこで待っておれ!」


 お腹を押さえるミツクニさんが、走って行く。


『な~んだ』


 立ち止まる武者フウウ。


『遅いなぁ』


 石段に、座って待つが、なかなか戻ってこない。


「おい、貴様」


 黒装束の男と、顔を隠して赤い陣羽織を着た女性が、塀の上から降りて来る。


『えっ!?』


 立ち上がるフウウ。


「お主、妖怪だな。成敗いたす」


 刀を抜く忍者と、両手を開いて構える女性。


『えっ、やめてください!』


 あわてて、制止しようとするフウウだが、


「ご覚悟を」


 女性が、すばやくツメを繰り出し、よけたが兜にキズがつく。


『ひぃ! ヤバいぞこれは』

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