第33話 黒装束

「オーオカさま」


 天井裏から、2つの影が降りて正座する。

 一人は、ねずみ小僧。もう一人は、あの女性である。


「おう、ねずみか」


 オーオカが、書き物の筆を止めて見る。


「お連れいたしました」


 頭を、スッと下げるねずみ。

 それを見て、女性も頭を下げる。


「うむ。そこもと名はなんと申すか?」


 と、オーオカが聞くと、


「はい。ヤクバサシャと申します」


 そう、正直に言うサシャ。


「さようか。拙者せっしゃは、南町奉行のオーオカでござる」


 オーオカも、自分の名を名乗ると、


「南町奉行の………」


 表情が、強ばるサシャ。


「そうだ。昨今、市中の妖怪どもが激減しておるが、心当たりはござらぬか?」


 ここ数日の、サシャの行動を聞くオーオカ。


「はて、どうでしょう?」


 首をかしげて、とぼけるサシャ。


「心当たりござろう。ねずみが見ておった」


 ねずみを、指差すオーオカ。


「………そんなことを言う為に、わざわざわたしをお呼びになられたのですか?」


 不穏な空気を感じて、立ち上がろうとするサシャに、


「まぁ、もう少し話を聞いてもらおう」


 座るように、右手を動かすオーオカ。


「なんでしょう?」


 座りなおすサシャ。


「紗々さん。あなたリリという名の娘がいますね」


 いよいよ、本題に入るオーオカ。

 一気に、緊張感が増す。


「………はい。おりますが」


 少し、いら立つサシャ。


「なんでも、雪女を倒したと。そう聞き及んでござるが」


 含み笑いするオーオカ。


「………まさか」


 あせりの表情を見せるサシャ。

 どうも、話の流れがよくないことに気付く。


「いかにも。娘のリリさんは、異端者として裁く必要がござそうろう!」


 アゴをなでながら、上の方を見るオーオカ。


「なぜ、そんな」


 冷や汗の出るサシャ。


「ただ、拙者の胸先三寸で決まること。そこでだ」


 真っ直ぐサシャの目を見るオーオカ。


「はい」


 生唾を飲むサシャ。


「どうだ紗々さん。我々とともに戦ってくれぬか?」


 自分の配下となれと言うオーオカ。


「えっ?」


 口を押さえ、絶句するサシャ。

 完全に、急所を突かれたかっこうだ。


「さすれば、リリさんの罪も問わない。どうでござろうか?」


 目を見開き、迫るオーオカ。


「………ッ」


 顔を伏せるサシャ。


「悪い話では、ないでござろう? それとも、娘さんがお縄になるところを見たいのでござるか?」


 口角を上げて、まくしたてるオーオカ。


「………娘には、危害をくわえないと約束して下さるのでしたら、この体存分にお使いください」


 しぼり出すように言うサシャ。

 少し、震えている。


「よくぞ申された」


 サシャの肩を掴んで揺らすオーオカ。


「あっ」

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