第32話 遠雷
「ヤギュウさま………」
ヤギュウの配下の者が、報告に来る。
「どうした?」
報告に来た者は、妖怪たちを捕まえて江戸に連れて来た者なので、なにか予定外の事態だとさとるヤギュウ。
「こちらで集めた妖怪どもが、次々と退治されておりまする!」
苦しそうに言う男。
「そのようじゃな。この前まで雪が積もっておったのに」
空を、見上げるヤギュウ。
「新たに、妖怪を追加いたしましょうか?」
と、言う男に対して、
「そうだな。このままでは意味がない」
思ったように、ことが運んでいないあせりがにじむ。
「なんなら、またワタシが出してあげてもイイよ?」
グミちゃんが、丸太のような魔法の杖を振るう。
「いや………あまり、強力なのを出されても、手にあまる」
変な汗が出るヤギュウ。
人喰いの化け物ばかり出されたら、本末転倒だ。
「うーん、それもそっか」
杖を、おさめるグミちゃん。
「では、行ってまいれ」
配下の者に命じるヤギュウ。
「はッ!」
跳びはねて、姿を消す。
「しかし、効果は今のところなさそうじゃな」
頭を、かかえるヤギュウ。
「………お前らか」
そこに、一人の女性があらわれる。
白い着物の上に、赤い陣羽織を着ている。
「誰だ貴様は? 妖怪か?」
その、おどろおどろしい姿に、異様なものを感じるヤギュウ。
「うるさい。妖怪を街に放っているのは、お前らかと聞いている」
ヤギュウを、指差す女性。
「だったら、なんだと言うのだ?」
わざと、余裕を見せるヤギュウ。
「ここで倒す」
構える女性。
「フン。笑わせる! 返り討ちにしてくれる」
刀を抜くヤギュウ。
「あ゛ァァア」
体制を低くして、突進する女性。
「クッ。素早いな」
中段の構えから、とっさに下段にすると、
「ハッ!」
刀の、横っ面を叩いてはらうと、
「クッ!」
女の鋭いツメが、ヤギュウの臓ふを貫こうとする、すんでのところで、
「させないわ!」
魔法陣を出して防御して、炎を出すグミちゃん。
「ギャッ」
左手の、手首がら先が吹き飛んだ女性。
「おお、助かった」
ヤギュウは、安堵の表情を見せる。
「まだよ。アイツ効いてないわ」
杖を、握りなおすグミちゃん。
「ガァァ」
失ったはずの左手が、生えてくる。
「再生!」
グミちゃんの表情が、一気に曇る。
「なんと」
ビックリするヤギュウ。
「やってくれたわね」
左手の感触を確かめるように、開いて閉じてを繰り返す。
「どうやら、あなたには通常攻撃は効かないみたいね」
汗が、頬をつたうグミちゃん。
「この数日で、どれだけ妖怪を駆除してきたと思ってるの?」
余裕の笑みを見せる女性。
「なるほど、貴様が妖怪を倒したから、こんなに減ったか」
ヤギュウが、悔しそうに言う。
「さあ、どうするの? 妖怪たちを元々のところに戻すか。それがイヤならわたしに倒されるか」
また、低く構える。
「ぐぬぬ、グミちゃん」
小声で、言うヤギュウ。
「うん」
女から、目を離さないグミちゃん。
「一旦引くぞ」
「エッ!?」
目が点になるグミちゃん。
「さらば!」
素早く、姿を消すヤギュウ。
「ちょっ、仕方ないわね」
分が悪いので、逃げるグミちゃん。
「クッ! 逃げたか」
怒りを、あらわにする女性。
「面白いものを、見せてもらった」
木の上から、黒装束の男が飛び降りてくる。
「誰だ!」
身構える女性。
「わたくし、ねずみと申す」
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