第31話 籠
「あれ、明かりが」
夕方近くなり、クニヤスの家からウチに帰って夕飯の支度をしようと、家の前までつくと、窓から明かりがもれている。
「おとうちゃん、ただいま~」
たぶん、おとうちゃんが早く仕事を終わらせて帰って来たと思ったのだけれど、
「えっ、誰か煮物を作ってる。なんで?」
調理場で、釜戸には火が入り、煮物が沸騰している。
「ヒッ!!」
突然、背後から肩を掴まれて、ビックリするあたっち。
「あたしだよ!」
そこには、白髪の老婆が立っている。
「わっ、おばーちゃん!」
父方の祖母だ。
「なんだい、そんな化け物を見るような顔をして」
目が点になる、あたっちを見て腕組みするおばーちゃん。
「いや、来るなんて思ってなかったから」
普段、遠方に住んでおり、時々お盆や正月に会うくらいだ。
「そうかい。風のウワサで、サーシャさんの具合が悪いって聞いて、これでもスッとんで───」
と、おばーちゃんが言いかけたところで、
「ただいま。あれっ、かーちゃん!」
あたっちの、おとーちゃんが帰って来る。
「おお、帰って来たか」
ニコッと笑うおばーちゃん。
「えーっ。なまら、たまげた!」
目が、点になるおとーちゃん。
「おぉ。風のウワサで、サーシャさんの具合が悪いって聞いて、メシくらいなら作りに来てやるかって、これでも急いで来たんだわ」
と、おばーちゃんが言うと、
「………あ、そう。
急いだって言うから、どうやって来たのか聞くと、
「そっだら、金かかって仕方ねぇ。歩きだ歩き!」
と、腰に手を置いて自慢気に話すおばーちゃん。
「へぇ~、そっだらこつ」
あんぐりと、口を開けるおとーちゃん。
「そいで、サーシャさんは?」
おかあさんの状態を聞くおばーちゃん。
「………まんだ、リリに聞いてねが?」
「んだ。そうとう悪いのけ?」
「んッ………」
言葉につまるおとーちゃん。
「そうか。線香をあげさして、もらうかの」
その様子で察したおばーちゃん。
「うん」
「おばーちゃん、こっちよ」
位牌のところに、案内する。
「おう」
「おかぁちゃん、煮物がふいとる」
と、おとーちゃんが言うと、
「あぁ、外しといて………ナムナムナム」
正座して、線香をあげて手を合わせる。
「夕食のしたくするね」
一緒に、手を合わせたあたっちが、すぐ立って調理場に行く。
「おう、リリたのんだよ」
そう言って、ずっと手を合わせるおばーちゃん。
「はーい」
「「いただきます」」
配膳を済ませ、みんなで食べる。
「おばーちゃん、しばらくこっちにいるんでしょ?」
そう聞くと、
「おう、ゆっくりしていきなよ」
おとーちゃんも、乗って言う。
「そうかい? 迷惑になると思って、早く帰ろうと思っていたんだけど」
ボソッと言うおばーちゃん。
「いや、別に迷惑だなんて。なぁ、リリ」
「うん、ずっといてイイんだよ?」
と、二人で言うと、
「そうかい? でも、まだ若いんだから別のお嫁さんをもらってもイイんだよ」
なんてことを、いきなり言うもんだから、
「これ! まんだ四十九日も終わらねぇうちから、そっだら話すんでねぇ!」
怒るおとーちゃん。
「そうけ?」
声が、大きくなるおばーちゃん。
「んだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます