第30話 訪問者

「ごめん」


 お昼ご飯を作っている時に、笠をかぶったお侍さんが入ってくる。


「あっ、ヘイゾウさん!」


 誰かと思えば、笠を取ったら知っている顔だったわ。


「おお、リリちゃん。ここにいたんだね」


 ニヤりと笑うヘイゾウさん。


「はい。もしかして、あたっちに用ですか?」


 なんだろ、なにかしたかな。

 なんでもないけれど、ドクドクと胸が高鳴る。


「うむ、そうなんだ。探したよ」


 大きく、うなずくヘイゾウさん。


「あっ、ヘイゾウさん。こんにちは」


 クニヤスも、出てくる。


「こんにちは、クニヤスくん。二人とも、お手柄だったようだね」


 満面の笑みを見せるヘイゾウさん。


「えっ?」


 クニヤスが、ビックリする。


「ウワサで聞いたよ。あの雪女を二人で倒したって話で、みんなもちきりだよ」


 どうやら、少し有名になってるっぽい。

 ちょっと、恥ずかしいかも。


「そうなんですね」


「いゃあ、よくやってくれたね。お二人の暇な時分でよいので、詳しく聞かせて欲しい」


 どういういきさつか、興味があるみたいね。


「えぇ、また今度ゆっくり話したいと思いま

す」


 クニヤスが、そう言うと、


「そうかい。楽しみにしておくよ───」


 ヘイゾウさんが、笠をかぶって、出て行こうとする時に、


「てぇーへんだ~てぇへんだーッ」


 銭形が、通りを大慌てで走って来る。


「おお、銭形。どうしたい?」


 ヘイゾウさんが、呼び止めると、


「ヘイゾウさま、最上家の屋敷へ夜中に賊が入ったようで!」


 賊が、押し入ったみたい。

 物騒だね。


「なに。ここ最近、続いているな。またあの手口か?」


 表情の曇るヘイゾウさん。


「へい」


 口を、歪める銭形。


「えっ、そんなのが続いているんですか?」


 クニヤスが、おどろいて聞くと、


「あぁ、ここ最近毎日続いていてな。金品を盗るわけではなく、命を取るようなんだ」


 目的は、かねではないらしい。


「コワい………」


 震えるあたっち。


「どんな犯人なんですか?」


 と、犯人の人相を聞くクニヤス。


「それが、一家をミナゴロシするって荒っぽい手口なんで、賊の人数から、わからないことばかりで………おっと」


 口を、つぐむヘイゾウさん。


「それは、大変ですね」


 渋い顔をするクニヤス。


「いけねぇ、しゃべりすぎちまった。忘れてくれ。それじゃあ」


 そう言って、出て行こうとするヘイゾウさん。


「はい、また~」


 頭を下げるクニヤスと、あたっち。


「あっ、なにかあればすぐ番屋に駆け込んでくれ」


 振り返って、一言いうヘイゾウさん。


「あっ、はい」


「じゃましたな」


 笠をかぶって、去って行くヘイゾウさん。


「いえ~」


 笑顔で、見送るあたっち。


「………まだ、終わってなかったみてぇだな」


 苦虫を、かみ潰したような顔をするクニヤス。


「そうね」

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