第5章
第29話 幻影
「お~、ヨシヨシ」
雪女を退治してから三日ほどたち、夏の日差しが戻ったクニヤス家の縁側で、ミツクニさんがネコと戯れている。
「ニャ~ン」
ミツクニさんに、ノドをなでられて甘えた声を出すネコ。
「しかし、最近妖怪が出たって話を聞かなくなりましたね」
クニヤスが、絵を描きながら言うと、
「そうじゃな。気持ち悪いくらい静かになったわ」
あれから、妖怪の捜索は続けたのだが、なかなかキザミという鬼と、養老怪姫の情報が入ってこない。
「ちょっと、買い出しに行ってくるね」
そう、あたっちが言うと、
「あっ、大丈夫か? 一緒に行かなくて」
絵を描くのに集中するクニヤス。
「うん、もう大丈夫でしょう」
妖怪は、相変わらず見かけるが、なぜかあたっちを見ると、そそくさと逃げていく。
なんでだろう~?
「そうだな。行ってらっしゃい」
一瞬、あたっちを見るクニヤス。
早く、買い出しから帰らないとね。
「フッフフ~ン。あっ、お魚屋さん」
鼻歌まじりで通りを歩くと、お魚屋さんがニコニコしている。
「へい、らっしゃい! 今日は、大きいの入ってるよぉ~」
大きな声で、呼び込むお魚屋さん。
「わぁ、イイな」
おいしそうなカツオが並んでいる。
「どれにしやす?」
手を揉みながら、ニコッとするお魚屋さん。
「う~ん、そうだな。………あれ!?」
魚を見ていて、ふと右の方、となりの店舗との間に細い道があるのだが、薄暗い通りに母親の姿が見えた。
「おっ、どうしたいリリちゃん?」
あたっちの顔色が悪いから、気になるお魚屋さん。
「ちょっと!」
薄暗い通りまで走って行くけど、誰もいない。
「なんだ?」
通りを見るあたっちに、首をかしげるお魚屋さん。
「いえ、見間違いです」
幻よね、きっと。
「そうけ?」
口を、とがらせるお魚屋さん。
「はい………」
そのまま、カツオを丸ごと1匹買う。
「ただいま。って、誰もいないか」
あたっちが、昼前に家に帰る。
おとうちゃんと、晩御飯にカツオを食べようと、
「よし、切るぞ~」
魚を、三枚下ろしにする。
「頭を落として、三枚に」
まな板を水で濡らす。カツオの頭を落として、内臓をだす。
「よし、できたわ」
案外、キレイに仕上がって満足する。
「半身を、サラシに巻いて………と」
ウチで食べる分だけ置いて、
「よし、クニヤスのところに行こう」
急いで、戻る。
「帰って来たよ~」
クニヤスの家につくと、クニヤスがお腹をさすりながら出迎える。
「おかえり、リリ」
お腹減ったみたいね。
「大きなお魚を買ったから、三枚におろしてきたわ」
「おお、ありがとうリリ」
ニコッと、笑うクニヤス。
「いえいえ。それでね」
お魚を、まな板にのせて、一呼吸おく。
「うん?」
不思議そうな顔をするクニヤス。
「………なんか、お魚屋さんに行った時に、おかあさんに似た人がいて」
違うとは思っていても、一応話しておきたい。
「えっ、そうなんだ?」
特に、否定することなく聞くクニヤス。
「それで、追いかけたんだけど、姿が見えなくなって」
と、説明すると、
「なんか、他人のそら似じゃないか?」
首を、かしげるクニヤス。
「うん、そうだよね」
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