第28話 療養

「さあ、こっちまで運ぼう」


 雪女に、生気を吸われていた男を、クニヤスの家まで運び込む。

 浅いが、呼吸をしている。


「ウゥゥーーー」


 布団に寝かせて、温める。


「とりあえず、体温を上げないと。お湯を沸かすんじゃ! それと、コイシカワを」


「はい」


 あわただしく動く。

 虚無僧ハタノが、お医者のところに行く。


「白湯を、飲まそう」


 男の上半身を起こし、湯飲みを近づけるミツクニさん。


「あぁ、ありがてぇ」


 ゴクゴクと飲む男。


「おーい、コイシカワを連れて来たぞ」


 ハタノが、お医者を連れて来る。


「おお、先生!」


 クニヤスが立ち上がって、玄関で出迎える。


「患者はどこだ!」


 そう、クニヤスに聞く先生。


「先生、こちらです」


 部屋に、案内するクニヤス。


「うむ………軽い凍傷だな。このまま温めれば良くなるだろう」


 男を裸にして、くまなく調べる。


「よかった」


 なんとか、大丈夫そう。


「リリちゃん………お母さんは残念だったね」


 あたっちの顔を見て、顔色を曇らせるお医者さん。

 なんとか、噛みつかれた跡を縫って止血したのだが、間に合わなかった。


「………はい。ありがとうございました先生」


 頭を下げるあたっち。


「うん………それでは」


 立ち上がって、部屋を出るお医者さん。


「ありがとうね先生」


 隠れていたミツクニさんが、隠れたままで声をかけると、


「おう」


 顔を見ずに帰って行くお医者さん。


「よかったね、助かって」


 死なないで、ホッとしたわ。


「ハァハァありがとう、みなさん」


 やっと、土色から赤みが戻った男。


「もうダメなのかと思ったけど。あぶないところだったわよ」


 あたっちは、もうムリかと思ったわ。


「オラも、そう思っただ。助けを求めてこっちまで来たのに、あんなのに捕まっちまって」


 くやしがる男。


「助けを求めて?」


 クニヤスが、そう聞くと、


「そうですだ。おらの村が、二匹の竜に襲われて」


 とんだ化け物に、襲われたみたいね。


「なんと、詳しく聞かせてはくれまいか?」


 ミツクニさんが、話に喰いつく。


「はい。突然、竜があらわれて次々と村人が喰われて。竜を、操っているヤツもいて」


 恐怖に、震える男。


「それは、災難でしたな」


 ウンウンうなずくミツクニさん。


「んだ」


「ちなみに、どんな連中が竜を操っていたか覚えていますか?」


 と、クニヤスが聞くと、


「なにか、ヤギュウと呼ばれていた男と、派手な着物を着た女がいたなぁ」


 そう言うと、顔を手で覆う男。


『………女の名前は、グミちゃん』


 武者フウウが、重い口を開く。


「おっ、なにか知っておるのかな?」


 ミツクニさんが、目を輝かせる。


『アタシが見たのは、グミちゃんが竜を召喚したところ』


 うつむきながら言う武者フウウ。


「召喚………他に見たものは?」


 さらに問いかけるミツクニさんだったが、


『そこまで見た時に、逃げたからそれからは知らない』


 首を振る武者フウウ。


「なるほど………な」

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