第24話 そうそう

「よく、がんばったな………」


 黒い着物を着た、あたっちのおとうちゃんが菊の花を桶に詰める。


「花もイイんだが、お気に入りの品も入れてあげてください」


 近所の住人も、黒い着物を着て集まっている。


「いつも着ていた着物、入れるか」


 次々と、桶に詰める。


「たくあんも、入れてあげよ?」


 お腹減ったら、かわいそうだし。


「そうだね」


 近所の人も、ウンウンとうなずく。


「味噌汁、うまかったな。入れてあげよう」


 おとうちゃんも、釜戸にある味噌汁をお椀ですくって、桶に入れる。


「お酒も、好きだったから………」


 とっくりから、升に入れてから桶に入れていたが、面倒になって直接入れる。


「エッホエッホ………」


 桶を担ぐ男どもの後ろを、黒い着物の行列が続く。


「この穴だ」


 大きな穴が掘ってあり、そこに桶を入れる。


「さあ、お別れを言っとくれ」


 と、近所の者たちに、促される。


「………おかあさん」


 言葉につまる。


「安らかに………」


 手を合わせるおとうちゃん。


「さあ、土を」


 鍬を、手渡されたおとうちゃん。

 あたっちは、クニヤスにしがみつく。


「あたっち、まだ全然受け入れられないの」


 とぼとぼと、クニヤスの家まで行くように歩く。


「えっ?」


 聞き返すクニヤス。


「すぐ、戻って来るような」


 変な感じ。


「そうなんだ………」


 顔を伏せるクニヤス。


「なに言ってるんだろうね、あたっち」


 そんなわけないのに。


「………」


 渋い顔をするクニヤス。


「おーい、クニヤスくん」


 クニヤスの家の前で、ミツクニさんが手を振っている。


「ミツクニさん、こちらの虚無僧は?」


 クニヤスは、ミツクニさんのとなりに立っている人物が気になる。


「わしの名は、ハタノと申す」


 自己紹介するハタノ。


「そうですか。とりあえず、あがってください」


 家の中に、案内するクニヤス。


「かたじけない」


 家に入る前に、自分に塩をまくクニヤス。


「その服は、もしかして」


 喪服が、気になるハタノ。


「はい、さきほどまで葬儀がありまして、喪服を着ています」


 そう、クニヤスが答えると、


「やはり、体力が持ちませんでしたか」


 ミツクニさんが、残念そうに言う。


「そうみたいです」


 クニヤスも、残念そうに言う。


「残念………」


 そっと、手を合わせるミツクニさん。


「それはそうと、どうされたのですか?」


 虚無僧ハタノと、一緒に来たのが気になるクニヤス。


「いや、この者の仲間が妖怪に喰われたと言っておったので、詳しく聞くつもりで寄ったのじゃ」


 ミツクニさんが、そう説明すると、


「妖怪に?」


 食い付くクニヤス。


「はい。養老怪姫という魔物に喰われたようでして」


 くやしそうに言うハタノ。


「どんな魔物でした?」


 人相を聞くクニヤス。


「妖艶な薄手の着物を着た美女で、歳のころは、二十半ばの熟女でした」


 少しずつ、思い出しながら言うハタノ。


「二十半ばの熟女か………探しにくいな。特徴は?」


 もっと情報を聞きたいクニヤス。


「首に、真っ赤な珊瑚の数珠をかけている。まぁ、外してないならだが」


 一番の特徴を言うハタノ。


「そうですか。しかし、これ以上人を喰わないように退治しなくては………」


 悩みこむクニヤス。


「クニヤス。雪女も鬼も退治しなきゃいけないのに、無理よ」


 あまり、安請け合いしないでよ。


「う~ん」


 首を、かしげるクニヤス。


「見つけてくれさえすれば、退治はわし一人でやるので協力してくだされ」


 捜索だけ、やってくれと頼み込むハタノ。


「よし、わかった」

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