第21話 振り下ろした錨

「いくぞ、お嬢さん………」


 ミツクニさんが、はじめてあたっちと顔を合わせる。

 シワの無い、つるんとした顔だね。


「はい!」


 あたっちは錨を構えて、ミツクニさんは素手で戦う。


「オイラも、なにか出来ないか」


 クニヤスが、そう言うけれど、


「隠れてて! はーーーッ」


 武器を持ってないんだから、あんなのと戦わせられないわ。


「クッ、この程度」


 あたっちが、振り下ろした錨を左腕で受け止めるキザミ。


「えっ!? 折れてるよ?」


 あきらかに、キザミの左手がおかしな方向へと曲がっている。

 が、平気そうにニヤリと笑っている。


「ハッ」


 左手に、力を入れて錨を持ち上げるキザミ。


「うそ」


 片足が浮くあたっち。


「よけるんじゃ」


 ミツクニさんが、教えてくれたけど、


「ギャア!」


 キザミの右拳が、あたっちの腹をえぐるように当たり、うずくまる。


「ハッ!」


 ミツクニさんが、拳を振るう。


「おっと」


 のけぞって、かわすキザミ。


「エーイ! ハァーァアヴイ」


 目にとまらない早さで、拳を繰り出すミツクニさん。


「よく動くじいさんだな!」


 後ろに下がり顔を振りながら、避けるキザミ。


「カッカッカ! お主も、その腕でよく戦っておる」


 気持ち悪い曲がり方をする左手で防御するキザミに対し、ミツクニさんがそう言うと、


「ああ、この腕か。それ!」


 軽く左手を振るキザミ。

 メキッと音を鳴らして、修復する。


「なんと!」


 ビックリするミツクニさん。


「折れたくらい、たちどころになおすわい」


「クッ」


 身構えるミツクニさん。


『どうしよう………今、出ていくと目立つかなぁ』


 建物の陰から、様子を見ている武者フウウ。


「それ! それ! どうした?」


 反転攻勢に出るキザミ。


「クッ!!」


 攻撃を、受け流しながら後退するミツクニさん。


『待て!』


 武者フウウが、あらわれる。


「なんだ、おめぇは?」


 キザミが、ニラみつける。


『助太刀いたす』


 刀を抜いて、構える武者フウウ。


「フウウ!」


「なんだぁ? 次から次へと雑魚どもが」


 キザミが、不快感を口にする。


『ほざいてろ!』


「あたっちも、やるわ!」


 動けるようになって、立ち上がる。


『大丈夫なの?』


 心配する武者フウウ。


「うん。たいしたことない」


 めっちゃ痛いのだけれども。


『よし、一気に倒すわよ』


「はい!」


 キザミに、にじり寄る。


「クッ、面倒なのが出て来たな」


 あきらかに、あせっているキザミ。


「ハーッ!」


『だぁぁッ』


 同時に、攻撃すると、


「チッ! 一旦引くか」


 飛び上がるキザミ。

 屋根に乗って、走っていく。


「まっ、待てぇ」


 追いかけるあたっち。


『逃げたか』


 刀を、鞘にしまう武者フウウ。


「深追いするでないぞ、お嬢さん」


 素早く動いて、あたっちを止めるミツクニさん。


「えっ、はい………でも」


「それよりも、お母上を」


 地面に寝転がる、あたっちの母親を指差すミツクニさん。


「あっ、おかあさん」


 母のそばに寄ると、


「………リリや」


 か細い声で呼ぶ母。


「気を、しっかり!」


 虫の息のおかあさんを、元気付ける。


「おい、大八車に乗せるぞ」


 引き車が、用意されると、


「おう」


「「せーーのっ」」


 むしろの周りを、男どもが持ち上げる。


「うぐぅ」


 痛がる母。


「そっとだ、そーっと」


 やさしく、乗せる。


「とりあえず、ウチに運ぶべ」


 おとうちゃんが、家に寝かせると言うので、


「おう、コイシカワを呼んでおくでよ」


 医者を、家に呼んでおくと走って行く銭形。


「ああ、たのんだ」

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