第19話 羽ばたく翼

「こっちだ、こっち!!」


 銭形が、走りながら手招きする。


「おとうちゃんは??」


 漁師の小舟、五隻ほどが、松明たいまつを灯して、捜索している。

 その様子を、岸から見ていた野次馬に聞くと、


「リリちゃん! それが………まだ」


 顔色を、曇らせる。


「えっ!?」


 体を、震わせるあたっち。


「リリ!」


 その時、呼ぶ声がして、そっちを見ると、


「おっかさん!」


 地べたに、へたりこんで手を合わせている母親がいる。

 それを見て、後ろから抱きつく。


「必死に、探してはいるんだけども、こう暗くちゃあ」


 漁師の人が、頭をかかえる。


「なにか、明るく出来ないかなぁ」


 別の漁師が、腕組みして言う。


「松明を、ありったけ持ってこい!」


「おう!」


 と、男どもが手分けして取りに行く。


「おとうちゃん………」


 暗い海を見ていた。


「なにか、方法は………ないのか」


 クニヤスが、いらいらしたように、落ち着きなく歩きまわる。


「クニヤスくん、落ち着いて」


 ミツクニさんが、なだめる。


「ミツクニさん。………そうだ。ミツクニさん、紙はありますか? とびきり大きな」


 なにかを、思いつくクニヤス。


「紙は、持っておるが。どうするんじゃ?」


 トランクを、地面に置くミツクニさん。


鳳凰ほうおうを、この筆で描くつもりです」


 ふところから、竹筒を取り出すクニヤス。

 中には、筆が入っている。


「おお! それなら、紙ではなくそれ、少し待っておれ」


 走りだすミツクニさん。


「どうするのです?」


 ミツクニさんのあとを追うクニヤス。


「ちょいと、この帆を借りるぞ」


 港に、停泊している帆掛け船に走り寄るミツクニさん。

 帆掛け船は、小回りがきかないので、捜索には参加していない。


「ああ。まぁ、かまわねぇが」


 帆掛け船の船乗りが、快く了解してくれたので、ミツクニさんが懐刀で切り取り、地面に敷く。


「これに、描くのです」


 大きな帆布はんぷに、描くように言うミツクニさん。


「そうか。これなら、大きな鳳凰を描けるぞ」


 目を、輝かすクニヤス。


「さあ、こっちを持っているので、今のう

ちに」


「はいっ」


 片方を、ミツクニさんが押さえ、その間に一気に描きだすクニヤス。


「へぇ~、うまいね」


 船乗りが、感心する。


「ありがとうございます」


「それで、どうするんで?」


 見事な鳳凰は描けたのだが、ピンときていない船乗り。


「まぁ、見ててください」


 クニヤスが、竹筒に筆をしまうと、


「ピーーーッ」


 頭をもたげて、一鳴きする鳳凰。


「うわぁ! 浮き出てきたァ」


 ビックリする船乗り。


「うまくいったぞ、クニヤスくん!」


 両翼を広げる鳳凰を見て、興奮するミツクニさん。


「いや、まだです。松明を付けて飛ばさないと」


 尻尾に、長い羽根があり、それを指差すクニヤス。


「そうか。よし」


 松明を、尻尾に結わい付ける。


「飛べ! 鳳凰!」

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