第18話 鬼火

「てぇーへんだ、てぇーへんだ!」


 銭形が、夕暮れの町を走る。


「ん!?」


 佃煮屋のおやじが、銭形がリリの家の戸を開けるのを見る。


「てぇーへんだ~、リリちゃん!!」


 大声で、リリを呼ぶ銭形。


「どうしたい、そんなにあわてて!?」


 佃煮屋のおやじが、銭形に話しかける。


「リリちゃん、見なかったか?」


 落ち着きなく、体を揺らす銭形。


「ちょいと、落ち着きなよ。なにがあったのさ?」


 佃煮屋の奥さんが、銭形に落ち着くように言うと、


「つい、さっき………」


少し前


「ふぅ、あと少しだ~」


 罪人も、残り数名になり、ヤクバは肩を回す。


「これで、今日はしまいだ。きばれよ~」


 夕闇がせまる船着き場で、釣糸をたらす男が、ヤクバに声をかける。


「あぁ、行ってくる」


 つかれた体にムチを打ち、舟をこぐ。


「やたら、波が高いでござるな!」


 海面は吹雪のせいか、時化ていて舟が揺れる。


「天候も、いよいよヤバい。急ぐぞ」


 力をこめて、舟をこぐヤクバ。


「あれ、なんだ?」


 罪人が、舟の横の先にボンヤリと炎があるのを見つける。

 それが、徐々に近づいてくる。


「舟?」


 役人が、罪人の言う方を見る。


「いや、ちがう。鬼火だありゃあ」


 ヤクバが、それが鬼火だと気がつく頃には、舳先へさきに鬼が乗っている。


「うわあ」


 船上の者がみな、混乱する。


「やあ、こんにちは」


 鬼はそう言うと、船尾まで飛んで来る。


「誰だおめぇ」


 ヤクバが、そいつに聞く。


「おのれ、もののけの類いでござるか!」


 役人が、刀に手を伸ばすと、


「まず、お前だな」


 そう言うと、鬼が、


「やっ! やめるでござる───」


 役人の体に飛び乗り、


「うるさいよ」


 と、一瞬のうちに、


「ぐぇ」


 鬼に捕まれた役人の頭部が、あらぬ方向を向く。


「なッ、役人を殺すなんて、鬼かよ!」


 完全に、真後ろを向いて倒れる役人を見たヤクバは、身震いする。


「その通り、オレさまは鬼さね」


 悪びれることなく言う鬼。


「鬼さねって、あんた。まさか、オレらを喰うつもりじゃ………」


 いやな予感がするヤクバ。


「その、まさかと言ったら?」


 ニヤリと、口角を上げる鬼。


「ひぃえぇえぇえぇ!!」


「それでよ、上へ下への大騒動で、舟が転覆しちまってよ!」


 銭形が、佃煮屋にそう言うと、


「それで、ヤクバさんは?」


 心配する佃煮屋。


「わからねぇ。なにせ、日が沈んじまって」


 捜索の舟を出したが、暗くてわからない。


「リリちゃんは、クニヤスちゃんのところだと思うが」


 佃煮屋のおじさんが、そう言うと、


「おう、ひとっ走り行ってくらぁ」


 勢いよく、走る。


「きをつけてな」


「おう!」


「こんなに冷えて、さぞ寒かろうに」


 佃煮屋の奥さんが、雪が降る空を見上げる。


「てぇーへんだ! てぇーへんだ!」


 クニヤスの家の戸を開ける銭形。


「何事ですかな?」


 ミツクニさんが、そう言うと、


「リリちゃんは、いるかい!?」


「はい、どうしました?」


 あたっちが、お茶碗を置く。


「おめぇの、おとっつあんが」


 銭形が、そう言って倒れる。


「おとうちゃんが!?」


 銭形を、起こすあたっち。


「イイから、来てくれ」


 立ち上がって、出て行こうとする銭形。


「はい!」


 銭形の、あとを追うあたっち。


「オイラたちも、行こう!」


 クニヤスが、そう言うと一斉に立ち上がる。


「おう!」

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