第3章

第15話 雨ときどき氷

「もし」


 大きなお屋敷の門の前。

 背中に、野菜の入ったしょいこを担いだ男が、門の中に入ろうとするのを呼び止める、薄衣うすごろもの女性。


「えっ………うっ、寒いから早く帰んな~」


 降りしきる雪の中、息を白くしながら男がそう言うと、


「もし」


 手招きをする女性。


「そんな、寒そうな格好で。どうしたんだい?」


 足を止める男。


「お屋敷に、入れてくださいまし」


 か細い声で、女性がそう言うので、


「いや、おらはここの家主じゃなくて使用人

なんだ。すまねぇな」


 一抹の、不安をおぼえてそう言うと、


「フーーー」


 女性の口から、吹雪が吹き出て、


「おわっ………」


 あっという間に、氷になって倒れる男。


「さて」


 口もとを隠して、立ち去ろうとする女性を見て、


『おい、待ちなさい』


 鎧武者が、声をかける。


「………今の、見ました?」


 口角を、上げる雪姫。


『ああ、見たぞ。命を奪ってイイって話だったか?』


 言葉に、怒りが満ちている。


「固いこと、言いっこなしですわ。ウフフ」


 そう言うと同時に、氷のヤリを放つ雪姫。


『クッ!!』


 鎧武者のお面の右目のところに、氷のヤリが刺さり、貫通する。


「なにッ。確実に刺さって………」


 だが、血が出ない。

 それどころが、ビクともしてない。


「おい、なんの騒ぎ………鎧武者!」


 そこへ、ちょうどクニヤスとリリが通りかかると、


『チッ』


 顔を、伏せる鎧武者。


「その男は、どうなっている?」


 顔色が、青くなり横たわる男を見るクニヤス。


『雪女が、氷漬けにしてしまった!』


 鎧武者が、そう言うので、


「なに!?」


「ウフフ」


『気をつけろ!』


 鎧武者が、そう言うが、


「わっ!」


 すんでのところで、クニヤスの前にあたっちが出て、錨を振るう。

 はじかれた氷のヤリが、門のとなりの壁にささる。


「あっぶないわね!」


 確実に、殺すつもりだったわね。


「リリ、ありがとう」


 礼を言うクニヤス。


「あはっ。こいつら、倒すわよ!」


「いや、待ってリリ!」


 錨を、構えるあたっちに、待つよう言うクニヤス。


「えっ!?」


「鎧武者は、話があるから雪女を倒して!」


 そう、クニヤスが言うので、


「うん、わかったわ」


 狙いを、雪女にしぼる。


「小娘。楯突いたこと、後悔させてやるわ」


 口を、おさえて笑う雪姫。


「それは、こっちよ!」


 間合いを、一気につめるあたっち。


「ヒューーー」


 鋭い冷気を、吐き出す雪姫。


「なんの!」


 かわすあたっち。


「フーーーッ」


 錨に向けて、冷気を出す。


「わっ、固まった!」


 錨に、氷の塊が付く。


「どうだ!」


 余裕の笑みをうかべる雪姫。


「ちょっと、重くなったくらい、どーってことないわ」


 誤差の範囲よ!


「クッ、それなら!」


 雪姫が、右手を空に向けて回すと、お皿のような、大きな氷が出来て、それを投げて来る。


「ヨッ! へーん、どこ狙ってるの」


 軽く、よけるあたっち。


「リリ! あぶない!」


 クニヤスが、そう言うのでふり返ると、円盤が戻って来た。


「えっ!? キャア!!」


 左うでを、かすめて血がにじむ。


「大丈夫か、リリ」


 心配するクニヤス。


「うん、かすり傷よ」


 全然痛くない。


「フフフ。次は、かわせるかしら?」

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