第14話 夏の雪

「あんれまぁ、今日も多いねこりゃ~」


 ヤクバは、モジャモジャの頭を掻きながら、罪人の行列を見る。


「1回で、運べるでござろうか?」


 役人が、罪人に繋がっているヒモを引きながら、ヤクバに問うと、


「ムーリムリ! こんなもん3べんで乗せないと、沈んでまうわぁー」


 そう言って、右手を振るヤクバ。


「さようにござるか。しかし、第二陣が控えてござる。どうでしょう?」


 役人が、指し示す先にも、罪人が山のようにいる。


「そんだらこと言っても」


 腕組みするヤクバ。


「じゃあ、よろしく」


 そう言って、そそくさと立ち去る役人。


「したっけ。まぁ、乗れるだけ乗せるべ」


 頭を、ガックシと落とすヤクバ。


「これで、キワまで乗ってます」


 大波が来たら、一気に転覆しそうなほど舟に押し乗せ、


「そんだら、出すべ」


 結わえてあるヒモを外し、最後尾に乗り込むヤクバ。


「はい」


「よぃッよいッよいしょ」


 舟の櫂を掴んで、こぎだすヤクバ。


「進んでないよ。しっかり!」


 人数が多いせいか、なかなか前に進まない。


「いや、進んでますって! ………あれ、なんだ?」


 にわかに空がかき曇り、チラホラと白いも

のが舞いはじめて、


「なんでしょうね。夏なのに」


 手に取ると、溶けてなくなる。


「しばれると思ったら、雪だんべ」


その頃


「なんだ、これは。どういうことだ!?」


 江戸の、通りに立つ虚無僧こむそうが、尺八しゃくはちを吹くのをやめて、空を見上げる。

 薄曇りの空から、次々と雪が降ってきている。


「ねぇ、外見て!」


 あたっちも、通りが騒がしいので2階の窓から外を見る。


「………雪だな。これって、ミツクニさん!」


 しばらく、筆を握るクニヤスの手をとり、入念に観察していたミツクニさんが、クニヤスに言われて外を見ると、


「おそらく、妖怪の仕業でしょうな」


 特に、気にとめるでもなく、そう言いはなつミツクニさん。


「えぇーッ」


 こんなことまで、妖怪ができるなんて。


「フフフ。混乱しておるわ」


 上空に、グミちゃんと他に2人、浮かんで下を見下ろしている。


「なあ、雪姫」


 グミちゃんが、右を向く。


「なんでしょう?」


 口に、手をそえてしゃべる雪女。


「もっと、雪を降らすことは可能か」


「たやすいこと」


 雪姫か、右手を上げると、もっと降りだす。


「おう、もっと降らして埋もれさせろ」


 鬼が、ニヤニヤ笑う。


「コラ! キザミ。殺戮が目的ではないと何度───」


 グミちゃんのつっこみで、頭を掻くキザミ。


「へいへい。耳にたこできますって」

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