第12話 名のある筆

「きみかね、ミツクニさんが発掘した原石のクニヤスくんは」


 建物の2階まで、案内されると、髪が少し波打って、鼻の下にホクロのある若い男が部屋から出て来る。


「はぁ、ウタガワクニヤスです」


 クニヤスが、ペコリと頭を下げる。


「あたっちは、ヤクバリリです」


 一応、あたっちもあいさつする。


「あぁ、そう~。わたくしは、ツタマと言いまーす」


 顔は、笑っていないが、明るい雰囲気で話すツタマ。

 気味悪し。


「おとうちゃんと同じ、モジャモジャ!」


 顔は、おとうちゃんの方が、面長だけど。


「いや、リリの父上は、もっとおぐしが長いでしょ?」


 と、言ってくるクニヤス。


「ハハ、そうなの?」


 笑ってはいないが、笑い声のようなものを出すツタマ。


「これ、リリ。話題をもどすぞ」


 ミツクニさんが、苦笑いする。


「はぁい。ごめんなさ~い」


「それでね、今日来てもらったのは他でもない。ある品を、渡そうかと思ってね」


 神妙な、顔つきになるツタマ。


「えっ、そんな悪いです」


 なにか、初対面なのに贈り物をくれると言うので、身構えるクニヤス。


「いいや、わたくしなんかが持っていても、仕方ないものだ。おーい、金太郎持って来て」


 下男を呼ぶツタマ。


「なんですかな」


 クニヤスの顔を見るミツクニさん。


「さあ?」


 首を、かしげるクニヤス。


「コレを、使ってみてくれないかな」


 ツタマが、長細い箱を開けると、綿の間に高そうな筆がある。


「筆………ですね」


 どうやら、この筆が贈り物らしい。

 下男が、紙やらすずりやら部屋に用意して案内する。


「そう。さらさらっと、ねずみでも描いてみてくれないか?」


 生き物を、描くように言うツタマ。


「えっ、イイですが」


 筆を持って、紙の前に座るクニヤス。


「この筆は?」


 ミツクニさんは、筆から放たれる妖気が気になる。


「かのセッシュウが、と言っても、ミツクニさんくらいしか、わからないでしょうが、愛用した霊筆です」


 サラッと、スゴいことを言うツタマ。


「おお、セッシュウさまの筆!」


 案の定、ミツクニだけ感心する。


「はぁ?」


 ピンと来ていないクニヤス。


「どうやって、手に入れたのです?」


 興味津々なミツクニ。


「とあるところ、までしか言えませぬゆえ」


 にごすツタマ。


「なるほど………」


 静かに、ウンウンとうなずくミツクニ。


「描きましたよ」


 クニヤスが、見事なねずみを描く。


「どれどれ、おお。見事なねずみ!」


 紙を手に取り、両手で広げるツタマ。


「それで───」


 そう、言いかけたクニヤスだが、


「うぉッ、うぉおおッ」


 なにを、言っているかわからないと思うが、紙が暴れだした。

 必死に、紙を持ち続けるツタマ。


「なにが起きているんですか!?」


 部屋じゅうに、風が巻きおこる。


「わーッ」


 雷のような光。そして、紙の中から白いねずみが飛び出し、部屋の中をグルグルと走りだす。


「キャア!!!」


 思わず、叫んだわ。


「こっ、この筆は」


 風が、やまない。


「そう。描いた生き物が、具現化する筆だよ」

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