第9話 水面に映る陰

「おや、リリや」


 次の日の朝、身支度をするリリを、呼び止める母親。


「なーに、おかあちゃん」


 わらじを履きながら、振り返るあたっち。


「今日は、出歩かないで………」


 外出を、止める母親。


「なんで?」


 いきなり、どうしたんだろう?


「ウワサでは、鎧武者の亡霊が、お侍さまを斬りつけたらしいの。まだ、その辺りにウロウロしていたら───」


 そんな、ことを言うので、


「あっ、それならこの目で見たよ」


 そんな、些末なことをいちいち言ってコワがらせたくないと、思っちゃったので言わなかった。


「エ゛ッ! それじゃあ、ますます」


 ワナワナしはじめる母親。


「いや、それでさ昨日、クニヤスとツタマヤさんに会いに行く途中だったのに、引き返す

ことになってさ」


 ミツクニさんが、用心の為にすぐ帰るように決めた。


「うん」


「今日、改めて会いに行くの」


 こんな機会は、ものにしないと。


「だから、今日は………」


 心配そうな母親。


「大丈夫! あたっちが、コレでクニヤスを守ってあげるの」


 土間に、飾ってある巨大ないかりを指差すあたっち。


「また、そんな。だいたい、そんな重い錨なんてリリが持ち上げることなんて、出来るわけがないじゃないの───」


 大人2人で、運びこんだらしいよ。

 180センチと長く、先端部は鉄で出来ているので丈夫なの。


「ほいっ」


 片手で、持ち上げるあたっち。


「エ゛エ゛エ゛」


 目が、飛び出しそうにビックリする母親。


「それじゃあ」


 錨を、右肩に担ぎ戸を開ける。


「そんな、2人がかりで持ち上げる錨が!」


 フガフガとなる母親。


「戸締まり気をつけてね。行ってきます」


 そう言うと、音が鳴るくらい勢いよく戸を閉める。


「ヒェ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る