第4話 出会い

「わっ、なに? 信楽焼しがらきやき?」


 タヌキの置物が、体をよじりながら通りを歩いている。


「もう………めちゃくちゃね」


 七代の前までは、こんなこと無かったのに。


「クニヤスく~ん、あそぼうよー」


 幼なじみの、クニヤスの家の戸を開き、顔を突っ込むあたっち。


「………」


 もうお昼だから、起きているハズなんだけどな。


「あれぇ~」


「………」


 仕方ないわね。


「ねぇ」


「わっ! 勝手に入るなって言ってるだろ」


 クニヤスの部屋に入ると、クニヤスが驚いて中を見せないように、あたっちの前に立ちふさがる。


「ま~た絵を描いていたんだー」


 クニヤスの両肩を掴んで、肩越しに見る。


「見るな!」


「へぇ~、女!」


 半裸の女である。


「だから、見るなって!」


「こういう人が好きなんだ~」


 けっこう大人なの?


「わっ、開けるなぁ」


 部屋の障子を開けて、外の空気を入れると、


「あっ! 飛んで行っちゃうわ」


 ヒラヒラと、紙が風に流され家の外へと舞い上がる。


「あ゛ーーー」


 大声を出すクニヤス。


「こんなに締め切ってるから、陰気になるのよ」


 そんなことより、あたっちとあそんでよ。


「おや、なにか」


 外を、歩いていたおじさんが、紙を拾う。


「おい、回収しなきゃ。手伝え!」


 クニヤスが、部屋から急いで出る。


「はいは~い」


 その後を、ついて行くと、


「これは、キミが描いたのか?」


 玄関から、誰か入って来る。

 銀髪のチョンマゲだが、顔に一切のシワが無い、年齢不明のおじさん。


「わーッ!!」


 妖怪でも、入ったかのようにビックリするクニヤス。


「そうなんです、この子です! あたっちではありません!」


 クニヤスを、指差すあたっち。


「おい!」


 あたっちを怒るクニヤス。


「そうなのか」


 真剣な眼差しをクニヤスに向けるおじさん。


「すいませんッ」


 いたたまれなくなり、あやまるクニヤス。


「いや、とても良い浮世絵じゃ」


「えっ、あなたは?」


「私は、越後のちりめん問屋をしておるミツクニという者だ。キミの名は?」


 どうやら、ミツクニさんは悪い人ではなさそうだね。


「オイラは、クニヤス」


「あたっちは、リリ」


「そうか、クニヤスくんかぁ」


 なんか、あたっちよりクニヤスの方ばかり見ているミツクニさん。


「はぃ………」


「どんどん浮世絵を描いて、私に見せてくれ」


 ニコッと、笑うミツクニさん。


「へ?」


その頃


「モグモグ」


 グミちゃんにかかれば、イノシシなんてイチコロである。

 今、その肉を喰らうグミちゃん。


「グミちゃんさま。お味は、いかがでしょう?」


 ハンマーを持っていた集団が、正座して整列している。


「うむ。うまいぞよ」


 上座で、ふんぞり返りながら食べ終わった骨を飛ばすグミちゃん。


「ははぁ~」


 一斉に、頭を下げる集団。

 一撃で、イノシシを倒したことで、神か仏かという扱いを受けるグミちゃん。


「それはそうと、なんでハンマーを持っているの?」


 集団の、右手を指差すグミちゃん。


「ハンマー? 金槌かなづちのことですかな」


「そうそう」


「我ら、ア能集はその昔、城の石がきを組むのを生業にしておったのだが、太平の世が訪れて、最近は石仏を掘ることで糧としておる」


「へぇ~」


「それが、ここのところ売れなくなってきて、近々では妖怪を捕まえては、江戸に放ち信仰をさせようとしておるのですが」


 めちゃくちゃなことを言うア能集の頭。


「それで、妖怪に暴れさせると?」


「いぇ。妖怪は、めったに暴れたりはしないので───」


「あまい!」


 真剣な顔になるグミちゃん。


「へぇ?」


「妖怪を放ったまではよしとして、大暴れさせなくちゃ、意味なくね?」


「さすが、グミちゃんさま」


「ウシシ、いっちょやったりますか」


「へい!」


 再び、頭を下げる集団。


「………ムッ」


 それを、天井裏からねずみが見ている。


「急がねば………」

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