第3話 もののけ

「ぐーてるもーげん、リリ」


 次の日、寝ているあたっちに父親がそう言うので、


「あっ、おとーちゃん」


 寝ぼけまなこを、こするあたっち。


「どうした?」


 眠そうな、あたっちを見て心配するおとーちゃん。


「ゆうべ、お風呂に入っていたら視線を感じて………」


 なにかの、気配を感じたの。


「それで?」


「よく見たら、妖怪だったの。それで、眠れなくなって」


 お風呂の天井に、あかなめがいた。


「ハハハ。お犬さまになって、目撃者が増えたと聞くが、とうとう見たのか!」


 街中にも、もののけが出没するようになった。


「笑い事じゃないわ!」


 噛みつかれたら、どうするの。


「大丈夫。悪さしようとしなければ、なにもしないさ」


 妙に、余裕綽々なおとーちゃん。


「そうなのかな。おとーちゃんは、コワくないの?」


「おとーちゃんはね、妖怪も外国人もコワくないさ。昨日も、めちゃくちゃ大柄な外国人を乗せてね」


 この頃は、外国人というだけで捕まってしまう時代で、すぐに島流しの刑になった。


「それでそれで?」


「エゲレス人かと思って、ぐっどもーにんぐって声をかけたら、少し黙っていたが、ぐーてるもーげんって。たまげた~」


 西洋圏に、日本という国の情報が流れて興味本位で訪日する人が増えつつあった。

 声高に、鎖国を叫んでいたのは、そういうことである。


「でも、おとーちゃんは8ヶ国語を話せるんだよね?」


 前に、そんなこと言っていたような。


「あたぼーよ、と言いたいとこだけどよ、ちゃんと話せる外国語は、エゲレス語なんでい」


 ちょっと、恥ずかしそうなおとーちゃん。


「なーんだぁ」


その頃


「ハァハァ、とりあえず森を抜けないと」


 グミちゃんが、薄日がさす森を歩く。

 肩には、トビトカゲが乗っている。


「誰だ!?」


 右手に、ハンマーを持った集団に出くわすグミちゃん。


「わっ、人だ。人がいる!」


 お腹も減っているし、これで助かるかと思いきや、


「お主、見慣れぬ姿だな。何者だ!!」


 すごい剣幕で、怒鳴る男ども。


「わっ、あやしい者じゃあないですよ」


 両手を振るグミちゃん。


「それでは、我々の山で何をしていた!?」


 この人たちの山らしい。


「それはその………」


 ドラゴンの血で、時空を越えたと言ったところで誰が信じるかと、頭をよぎる。


「わっ! ししだ! ししが出たぞ!」


 イノシシが出たと、騒ぐ男たち。


「なに! ワッ」


 身の丈が3メートルほどあり、鋭いキバのはえたイノシシだ。


「なにコイツ。でかいな」

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