第4話 蓮獄すずね
最後に紹介するのは、蓮獄家の末妹、蓮獄すずね。
年齢は十四歳で、中学三年生。
高校受験を控える受験生という立場ではあるけれど、本人にその自覚があるかは甚だ疑問である。家族や周囲の人々の方がよほど気を揉んでいるような気がする。
蓮獄すずねは、正真正銘の“やればできる子”である。
そんな激励──すずね本人は聞き飽きるほど投げつけられてきたことだろう。
僕だって、すずね本人に今までで累計二百回は言ってきた気がする。
本気で取り組めば、何事も容易くこなせてしまうのに、何かに意欲を向けるということが致命的に苦手な子なのである。
やればできるのにやらない子──それが率直な蓮獄すずねの人物像だ。
簡単だからと昔から継続して髪型は、ツインテール。
年齢的にそろそろキツく……いや、憎らしいほど似合ってはいる。
性格は自堕落で毒舌で気が強い、いかにもな末っ子気質。まぁ僕からするとそれがすずねの可愛いところではあるのだけれど、生活を共にする家族からすると、そう手放しで甘やかしてはいられないのだろう。
直近の姉であるこるるを筆頭に、他の姉妹達から度々お叱りを受けているようだ。
それでもへこたれず自我を通そうとするすずねの姿勢は、素直に大した奴だと認めざるおえない。
まぁ末っ子ということもあって、または馬鹿の子ほど可愛いとか、憎まれっ子世に憚るとかそれに近しい感性で、すずねが姉達から大層可愛がられてはいることは明白だった。
憎まれ口を叩くこともあるけれど、根は素直な子なのである。
かつて僕が両親の不在中に体調を崩してしまった時、すずねが付きっきりで看病をしてくれたことだってある。
謝礼を伝えると「お姉ちゃん達が忙しいから、あたしが来ただけだから。あんま調子にならないでよね」なんて言っていたけれど、後日さゆ姉から、すずねが「自分が看病する!」と立候補し譲らなかったのだと聞かされた。僕の前だと素直になるのが恥ずかしかったのか。可愛い奴め。
真面目な話、あの何事にも消極的なすずねが、僕の為に何かをしようと自発的に動いてくれるなんて、僕は驚愕しつつ、そのすずねの優しさがとても嬉してたまらなかった。
なので当時の僕はしばらくの間、すずねを見かけるたびに思わずニヤけてしまっていた。
その僕の姿を見てすずねは「うわっキモ……小学生のあたしに欲情してるとか……ロリコン?」とそんな親愛の挨拶をよく交わしてくれた。
ちなみに誰が看病に行くか? という話が蓮獄家で持ち上がった際、すずねの対抗馬としてあすはが名乗りをあげていたようで、僕にお手製お粥を振る舞うつもりだったあすはを、まもさんとこるるでなんとか食い止めたらしい(お粥はこるるが作ったものをすずねが持参してくれた)。
僕の知らないところで、命の危機が到来しつつあったらしい。
その点に関しても、立候補してその役目を勝ち取ったすずねには、感謝しておかなければならない。
そんなツンデレ(死語)中学生のすずねが唯一といえるほどのめり込んでいるのは、ゲームという娯楽である。
テレビゲーム、パソコンゲーム、携帯ゲーム機、スマートフォン用ゲームアプリと多種多様な媒体で、デジタルゲームに興じている。
他の姉妹も各々、それなりにゲームを楽しむこともあるけれど、あくまで他者とのコミュニケーションツールの一つだと考えるるりあ姉さんや、テーブルゲームとはいっても大前提がギャンブルを主軸としているさゆ姉とは、明確にスタンスが異なる。
普段何事にも向かない興味、熱意のベクトルが、デジタルゲームというコンテンツに集中しているのだ。
それは常人には計り知れない熱量になるだろう。
実際、すずねはジャンルに縛られることなく、雑食とも言えるくらいに貪欲に、様々なゲームで日夜しのぎを削っているようだ。
ちゃんと学校には通っているようだし、あまりの夜更かしは他の姉妹がさせないだろうけれど、少しばかり心配である。
すずねはガンシューティングに対戦格闘ゲーム、リズムゲームにMOBA、傾向としては対人系のゲームを最近は好んでいるようで、いくつかのゲームでは優秀な戦績を残しているらしい。
「プレイヤーが多いメジャータイトルで勝つから楽しいわけ。過疎ってる場所で頂点に立っても、あたしが強いなんてあたし自身が認められるわけないじゃない」
それがすずねの主張だった。彼女は多くの猛者と戦い、その頂点に立つ事を目指し、ゲームというものと向き合っているらしい。
今時の子供らしく「将来はプロゲーマーになる」とか言い出すのかと思いきや、どうもそれは考えていないらしい。
「趣味と仕事は別でしょ」という、それもまた彼女の主張であった。
僕も最近、パソコンで某オンラインガンシューティングゲームにハマっていて、流石に毎日ではないけれど、夜にはすずねとボイスチャットを繋いで協力プレイで遊ぶこともある。
結構熱中して、時間があっという間に過ぎてしまうのが難点だ。のめり込むと社会生活に支障が出るというのはあながち嘘ではなさそうだ。
雑談を交えつつのプレイなので、ここ最近姉妹の中で一番話す頻度が多いのは、すずねかもしれない。
時折すずねのマイク越しに聞こえてくる蓮獄家の音声を聞くのも、実は僕の楽しみだったりする。
ちなみに、意外とすずねはまも姉と仲が良い。
同じデジタル派なところなど、波長が合うのだろうか。
性格はあまり似てはいないけれど……まぁ友人や恋人には、自分が持ちえない気質を求めるという話もある。
仲良きことは美しき哉。
さぁ、これで蓮獄家の七姉妹を紹介し終えることができた。
ここからは僕が蓮獄姉妹達の抱える秘密を知ったあの日のことを語る前に、何編か僕と彼女達のささやかな日常の出来事を想起していこうと思う。
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