第19話 開運の御守り
色々有ったアサルトボア狩りであるが、クラッシュボアの発見と討伐で有耶無耶のままとりあえず依頼達成扱いとなっているそうなのだか、依頼についての説明など何を言われたかなんてあの鬼瓦の長くてしつこい小言により私の記憶には残っていない。
そして、あの鬼瓦みたいなギルドマスターのせいで相棒も私同様に悪夢にうなされ早朝より目が覚めてしまい、
『とりあえずお祓いでもしてもらうか…』
という事で朝早くからマイスの町の教会を訪れているのだった。
マイスの町の教会はスキルに関係する祝福を授けてくれる5柱の神様を祀る一般的な教会であり、私達の祝福はそのメジャーな神様とは別の魔眼の神という目を使うスキルを司る神様なのだが、普通はメインとサブの祝福で様々なスキルのバリエーションがあるのだが、魔眼の神様はサブの祝福を許してくれないというか、他の神様達が魔眼の神様のサポートをする祝福を授けたくないのか…兎に角理由は分からないが魔眼の神様だけ仲間外れなのである。
『トカゲ族達の神である海の神様の祝福にはサブの祝福が設定出来たのに…ずるいよ』
と思いながらも教会の入り口すぐのカウンターに居る教会関係者さんが、
「おはようございます。本日は祝福ですか?」
とハンバーガーショップで「店内でお召し上がりですか?」と聞くような感覚で祝福の儀式かどうかを聞いてくる。
私は、
「いや、私も相棒も魔眼の神より祝福を受けており…」
と言いかけてる途中で教会の方は、
「それは…何と申してよいやら…」
と、可哀想な人を見るようは今にも泣きそうな瞳でこちらを見てくるのだった。
『いや、そんなにヒドイもんじゃないよ』
と思っていると相棒もなんだか不快だったらしく、
『オイラ達は祝福に関してはそれなりに納得してるっすよ』
とチクりと言っていたのだが、教会の職員さんはハッとした様に姿勢を正して、
「気分を害したのなら申し訳ありません…ただ魔眼の神は己の魔眼を授けた人間の視界を盗み見る事が出来るらしく、神自身の運命が見える魔眼を使って神の世界からその人間に見ていて楽しいからという理由で様々な苦難を与えると伝えられておりますので…」
と、私の知らない設定を話し始めたのだった。
キタン君もそれは知らなかったらしく、
「正にそれっす!ここのところ変な事に良く巻き込まれるっすよ…そう、特に兄貴が…社会的に死にそうになったり、実際死にそうになったり…特に兄貴が!!」
と興奮気味私の不幸を特に訴えて、
「兎に角、お祓いをお願いするっす!」
と騒いでいたのだった。
教会の職員さんは、
「魔眼の神のイタズラかもしれませんし、今回のケースは私共の祈祷でどれ程の効果が有るか解りませんが…」
と、言いながらもあまりに可哀想に思ったのか、1人あたま大銀貨一枚のお布施という名前の祈祷料で1つ上の1人あたま大銀貨二枚の御守りのお土産付きのコースにしてくれたのだが、祈祷も終わり教会から出た後でキタン君が、
「兄貴…オイラ一瞬は値引きサービスだ。ラッキー!ぐらいに思ったんすけど、お祓いやご祈祷を値引きされたり、お土産をサービスされたりって、逆にありがた味が半減するというか激減するというか…違う気がするっす…」
と微妙な表情で教会でもらった神域で取れた魔水晶を磨き、魔除けと開運の祈りを込めたという有難い水晶のペンダントを眺めている。
私も、
「キタン君もか…勿論高すぎるのは論外だが、半額だったあれにも一万円ほどの価値は有ったのだろうか?
このペンダントの効力も聞けば聞くほど少年雑誌の一番後ろの通販ページっぽく思えて…」
というと相棒は、
「いやいや兄貴、胡散臭さは週刊少年ナンチャラの背表紙辺りの通販というより、この通信教育講座を始めたら恋にスポーツも上手くいくっていうアレの販売促進漫画レベルっすよ」
と、ギリギリの例えをしており、微妙に期待はずれな感じに二人してガッカリしながら歩きだしたのだった。
私は相棒の言っていた通販教材の赤いウサギのキャラクターを頭の隅で思い出しながら、この何とも言えない気分を切り替えるべく、
「そろそろ冒険者ギルドに頼んで有った森狼の解体が終わってるかな?お代官様の所で解体してもらったクラッシュボアの皮もギルドに届いているだろうしカワサキ号の馬車でタウロさんに紹介してもらった革細工職人さんの工房に行こう…って、お金は大丈夫?さっきの大銀貨もキタン君が出してくれたし…」
と、提案ついでに皮鎧の資金の心配をするのであった。
なぜなら、我ら冒険者パーティー〈ヤジキタ〉は、まともな装備を揃えるまで新たな依頼の受注も、買い取りカウンターの使用もあのシャクレ鬼瓦ギルマスに止められている為に追加の収入が皆無なのである。
しかし相棒は、
「クックック…兄貴、よくぞ聞いてくれましたってヤツっすよ。昨晩はクタクタで発表してなかったっすけど…」
と愛用の肩掛けカバンからいつもの財布にしている革袋とは別に、ふっくらした革袋を「ジャジャーン」と口で言いながら取り出して私に見せた後に直ぐに再びカバンに仕舞い込み辺りをキョロキョロと確認してから、小声で、
「マイスのお代官様の配下の人から討伐報酬とは別に良い状態のお肉だったからと追加報酬も頂いてきたっす」
と自慢気に語る相棒に私は、
「お主も悪よのぉ~」
と誉めると、キタン君は、
「お代官様程では…ってお代官様のところからふんだくったお金なんすけどね…へへへっ」
と、嬉しそうにしていたのだった。
朝イチからギルド宿を出てお祓いを終わらせてきた私達は冒険者ギルドの精算カウンターで森狼分の魔石などの素材の買い取り金を受け取り、ギルドの裏手の解体場の窓口にて売らなかったクラッシュボアや森狼の毛皮を返還してもらったので、
『さぁ、革細工職人さんのところに向かおうかな?』
という所で短足鬼瓦のギルマスが、
「おい、朝から宿を出たらしいが狩りに行って直接肉屋なんかに獲物売ったりしてるんじゃないだろうな?!」
と、あらぬ疑いをかけてきたのだった。
『これからってタイミングで、また面倒臭いのにからまれた…』
と、呆れながらも相棒と、
「あぁ、あのお祓いは効き目がないな…」
「そうみたいっすね…」
と軽いグチをこぼしながら私は、
「最近、たまたま行った山で主みたいな魔物に追いかけられたり、前の町では止まった宿屋のムキムキウサミミの男性マスターに狙われてウィンクを飛ばされたりとあまり良いことが無かったので教会にお祓いを受けに行ってました」
と報告すると急に鬼瓦は変な汗を流しだして私に、
「えっと…前の町って、フィールド…だったり?」
と聞くと、相棒が、
「そうっす!、フィールドの町で旅の商人さんにオススメされた宿屋だったんすけど、オイラはよく解らないクスリ酒でベロベロに酔ったからムキムキウサミミマスターに腹に拳の形に青アザできる程殴られたっすもんね」
と、恨み節を言っていると、何故か偉そうだった鬼瓦ギルマスが深々と頭を下げながら、
「申し訳無かった…あれは俺様…いや私の年の近い叔父でして…私が冒険者になりたいと親に言った時に私は勘当同然で家を追い出され…その時に住む所の提供と実家との話をつけてくれた恩人なので…」
と言っていたのだが、確かにあと鬼瓦ギルマスも何個か種族的な特徴を付け足せばあのウサミミマスターに近くなりそうなほどであり、希少なオーガ族の特徴があるだけでも何かしらの繋がりを考えられるかもしれないが、まさかあのウサミミとこの鬼瓦が親戚とは思いもしなかった私は驚きながも興味本意で、
「質問ですが、あのウサミミマスターって…昔から?」
と漠然とした質問を鬼瓦ギルマスにすると、彼はキョロキョロと辺りを確認した後に、
「頼むからこの町の冒険者達にはくれぐれも黙っていてくれ…冒険者なら冒険者宿ぐらいしか使わないはずなのに…」
と少し悔しそうにしながらも、
「私も下宿していた時に何回か股関を軽く触られたりされたし…キスも…親戚としてのスキンシップだと言われ…」
と、なんだか聞いたこちらが申し訳ない気分になってしまい、相棒もウサミミマスターと鬼瓦ギルマスの秘め事を聞いて胸が悪くなったのか青白い顔で遠くを見ていたのだった。
しかし、昨日は勿論のこと今さっきも高圧的だった俺様キャラがだったギルマスが、
「ヤジキタの二人は今からどこへ行くんだい?」
と、やたら低姿勢で接してくれ、
「革細工職人さんに装備をお願いしようと…」
と私が答えると、
「タウロさんからの紹介状があるとか言ってたな…だったらマーチンの親方の工房かな?私の方からもお願いしておくから気をつけて行ってこいよ」
とまで言ってくれたのだった。
なんだか別人の様になった鬼瓦ギルマスに調子が狂うが、カワサキ号でタウロさんに紹介されていたマーチンさんという腕利きの革細工職人さんの工房へと向かったのだった。
道中で相棒と二人して運転台に横並びに座り、
「兄貴…もしかして、アレはそういう事っすか?」
と、手綱を握り前を向いたままで聞いてくるキタン君に、私は首から下げた魔水晶のペンダントトップを見つめながら、
「お祓い効果かもね…」
と呟くのだった。
相棒は、
「オイラ、今からでも教会の神々に謝りたいっす…さっきまでチャレンジ何年生だよ?こんなんで運気が上昇して仕事も私生活も良くなるかよ!って馬鹿にしてたっす…」
と不安そうなので、
「案外やったら効果が出る事も世の中にはあるんだな…工房の帰りに教会に寄って軽くお祈りして、お布施を包んでいこう」
提案すると、相棒は、
「今ならこのペンダントのレビューを星五で書けるっす…これが信仰心ってやつっすか?」
と、このままでは相棒が神に傾倒する恐れがあるので、
「いや、いや、キタン君…そもそもだよ…その神様のお仲間の暇潰しで変な運命だったかも知れないのに、ちょっと好転したからって完全にコロッと行くのは、普段学校のガラス割りまくりで喧嘩しまくりの悪いヤツが、雨の日に捨て猫の段ボールにビニール傘を被せたからって全部帳消しで、優しい!カッコ良い!抱いて!!となるイタイ昔のヒロインみたいだよ」
と、言ってみたのだがそもそも前世のキタン君が普段はヤンチャで捨て猫に傘を被せるタイプというか、
「まぁ、そこまでしたら拾って里親まで探すのが男ってもんすよね…でも、見ている女性はちゃんと見ているもんで、オイラの彼女も若干世間離してたっすけど、オイラが道端の捨て猫を拾っている所を見て好きになったっらしいっすからね…」
という不良ドラマを地でいくタイプだったらしい…
『本当に平成生まれ?』
とは思うが、
『たぶん育てくれたのがおばあちゃんだったらしいから相棒は前世では古風なヤンキーだったのかも知れない…
いや!しかし、それよりも…それよりもだ!!何をさらりと彼女居ましたアピールを、万年ボッチ隠キャにしてくれとんねん!?』
と心の中だけで血の涙を流しながらも、その後暫く無言で前の景色だけを見つめて必死で心を落ち着けようとする私だった。
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