第20話 防具が出来るまで

マーチンさんの工房で紹介状を渡した私達はクラッシュボアと森狼の毛皮素材を工房の職員さんに渡していると、革細工職人のマーチンさんがタウロさんからの手紙を読みながら笑いだして、


「タウロの手紙に書いてあったが、お前ら市場に買い物にでも行く様な服装でクラッシュボアを見事に倒したのか?

手紙には『何一つ防具を持ってないし、冒険者用の丈夫なカバンすら用意がないから頼んだ。』って書いて有ったぞ」


と言って工房のお弟子さん達を集めて私達の採寸やら細かい打ち合わせをするのだが、マーチンさんは、


「クラッシュボアの鞣し革の鎧だが、中に鉄板を仕込む防御力重視の重い鎧か、ダークエルフ族の技術でスライムの粘液を使ったコーティング材で固めるって方法がある。こっちは防御力は少し劣るが軽いのが売りだがどうする?」


と聞かれた。


『あぁ、村で土壁なんかを固めたあの技術の出所はダークエルフさんから教えてもらったんだな…』


と思いながらも私は相棒に、


「どうする?私はこれ以上足が遅くなりたくなりから軽い方が助かるからスライムのコーティングにしてもらうよ」


と告げると相棒も、


「オイラも兄貴と同じっす。動き難いのは…」


というのを聞いたマーチンさんは。


「二人ともスライムコーティングだな…しかし、獣人族が動きやすさ重視で依頼するのは良くあるが、オークなのにスピード重視か…珍しいな」


と言っていた。


オークはガチガチの重装備で盾役として戦う事が多いらしいが、正直な話、現場までの移動がガチャガチャと重い装備は勘弁して欲しいので私は、


「ドラゴンなんかとやり合おうっていう上位の冒険者ならば種族の特性も最大限に活かした戦い方をするだろうが、私は旅の冒険者だから普段着の様に着やすい装備が有難いんだ。馬車の旅の途中でいきなり魔物に襲われて、動き難いから鎧を脱いでましたでは役に立たないからね」


というと、マーチンさんは、


「うむ、了解した。クラッシュボアの鞣し革をベースに胸当てや、すね当てに籠手と言った部分鎧に森狼ベースの革の服だな…でオークの兄さんが兜に獣人の兄さんが帽子と、あとは丈夫なカバンを…」


と確認していると、相棒は、


「帽子は何かニョキッとしたのが良いっす」


と、リーゼントみたいな形を手であらわしていたり、


「カバンは今使ってるヤツのデザインに近いほうが有難いっす」


などと細かい注文をしていた。


マーチンさんやお弟子さん達にもイメージが伝わったのか楽しそうに打ち合わせをしており最後に相棒はお代官様から頂いた金貨をとりだしてマーチンさん達に加工賃を渡しながら、


「余分にこれだけ渡しておくっすから…」


と何やらマーチンさんやお弟子さん達に内緒のお願いをしていたのだが、


『まぁ、お揃いの色とかマークとかだろう…それにタウロさんの紹介状のおかげでかなりオマケしてもらえたみたいだし予算内で十分作れそうだから追加で何か注文しても大丈夫だな…』


と考えた私は、相棒に、


「あっ、そうだ冬が近いから寒さ対策に余った毛皮で上着とか作れない?」


と聞くと、打ち合わせをしているキタン君は工房の皆さんとゴニョゴニョと簡単なやり取りをしてから、


「大丈夫らしいっす。素材持ち込みでかなりお安くして貰えたから万が一素材が足りない場合は追加で預けてあるお金から素材を購入して作るらしいすが、たぶん足りるだろうって皆さん言ってるっす」


という説明があったので任せる事にした。


『それにしても相棒が居てくれて本当に良かったよ…私は初めましての人とあんなに楽しそうにワイワイと話せないからな…』


と、少し遠巻きに打ち合わせを眺めていたのだった。


工房での注文も無事に完了したのだが、鎧の完成まで1ヶ月以上かかり、仕上がった時には多くの冒険者も長期休暇を取る冬がやってきてしまう。


秋は食材集めや実った農作物を魔物から守る為に私達のような低ランク冒険者向きの依頼が溢れているが、そのベストシーズンをあの鬼瓦ギルマスの決定で冒険者としての依頼が受けられないのである。


相棒も予定を全て終わらせてしまいやることも無くなった宿屋の部屋で夕暮れの町を見ながら、


「宿代も十分あるっすけど、何にもしないで冬まで過ごすのは勿体ないっすね…」


と呟き、私もベッドに横になりながら天井を眺めて、


「狩りも買い取りカウンターの利用許可が出てないから使えないし…暇になるな…」


とタメ息まじりに答えると、キタン君は暫く唸りながら考えた後に、


「あっ、そうっす!オイラは商人だった!!」


と、何かを思い出した様に私に、


「露店でガッポリ稼ぐっすよ、兄貴!」


とイキイキと提案してきたのだった。


確かに屋台でツクネサンドの様な物を売れば宿代ぐらいは稼げるだろうし、ここは様々な文化と人種の混ざりあうベルトナ王国…荷物の中にスパイスも有るから市場で食材を買えば大概の物は作れるだろう。


私もその提案に賛成だったので、


「なら明日は市場を回って食材を探して、何を売るかを決めよう!屋台の道具も鍛冶屋も多いマイスの町なら特殊な調理器具だって作れるだろうし…」


と相棒にいうと、キタン君も、


「錬金ギルドも見てみたいっす。錬金術師も多いらしく見たこともない魔石を燃料にした魔道具があるらしいからきっと屋台で使える物が見つかりそうっすから!」


とやる気十分に語るのだった。


そして翌日、相棒と市場を巡っていたのだが驚く事にザザ村では勿論、アルカスの町でも見かけなかった食材がゴロゴロとあり、中には初代国王であった賢者様の考案した乾燥パスタの様なものなども売っており、


「えっ、この糸小麦とか筒小麦ってどう見てもスパゲッティやマカロニだよね…」


と驚く私に、キタン君も、


「初代国王の賢者様が作ったらしいっすけど…賢者様ってイタリアからの生まれ変わりっすかね?」


などと言っていた。


勿論少し購入して宿の共同キッチンで料理して食べる予定だが、私達二人ともパスタを屋台で売るつもりは無い…なぜならば屋台で売るには皿やフォークなどの購入と毎日の洗浄の手間が増えるからである。


容器は可能な限り少なく手で食べれるのが理想で競争相手がいない珍しい食べ物であれば言うことが無い。


なのでパスタ単品では売れないし、焼きそばの代わりにパスタを挟んだパスタパンとかも一瞬考えたが、


『何か違うのでは?』


と、相棒とも相談んして今回はパスタ料理は却下したのである。


その後も二人で市場をうろうろすると、パンなどを売る露店商のおばあちゃんを見つけたのだが、あまり売れ行きが良くないようで、全粒粉で作った日持ち重視の硬いパンと、パン釜を使わずに焼ける〈薄焼き〉と呼ばれるチャパティの様な物が冒険者達のお弁当として売れた後の時間なのだが、日持ちのするパンは遠征の冒険者達にそこそこ売れたらしいが、薄焼きはうず高く店の端に積まれていたのだった。


キタン君が、


「ばっちゃん、これ薄焼きってやつ何で売れ残ってるの?美味しそうなのに…」


と声をかけると露店商のおばあちゃんは、


「あぁ、それはフライパンでも焼けるから釜に入りきらない余った生地を利用したヤツなんだけどね、スープなんかに浸して食べるかさ増し用の昔からあるパンなんだよ。この時期は獲物も多くて懐が暖かいらしくてね…パンはそこそこ売れるんだけど、かさ増し用の安い薄焼きは依頼に失敗した手持ちの寂しい冒険者や商いが上手く行かなかった商人でも居ないとこの時期はあまり売れないのさ」


と言っていたのだった。


相棒はそれを聞くなり、


「兄貴、屋台のメニュー〈チャパティサンド〉にしないっすか?」


と私に提案したのだが、メニューを閃いたというよりはおばあちゃんの商品を買ってあげたいのだろう…しかし、屋台のオーナーはあくまでもキタン君であるので、


「良いんじゃない、防具が出来るまで定期購入させてもらったらは?」


と私がいうと、キタン君は、


「ばっちゃん、薄焼きを1ヶ月の間、毎日30枚もらいたいんだけど焼いてくれる?」


とおばあちゃんに相談すると彼女は、


「そりゃ有難い!30でも60でも焼けるよ」


と言ってくれたので、とりあえず今日は10枚だけもらい来週から朝一番でおばあちゃんの屋台に受け取りにくる約束にしたのだった。


さて、チャパティサンドを作ると決めたのだが、問題はおばあちゃんの作る薄焼きが私の知るチャパティの様に袋状に開けるかという問題と、他の誰かがレシピを持っていたり、まだ生きている特許が絡んでいないかを商業ギルドで確認する必要がある。


本当は市場で米を探したのだが、見当たらなかったので私としてはチャパティで良いからカレーを作って食べたいが、あんな香り高い料理をギルド宿の共同キッチンで作れば酔った冒険者達に取り囲まれ味見をさせろと言われそうであるので、スパイスにハーブなど豊富な国であり、再現するには絶好のチャンスであるがカレーを作るべきか作らざるべきかそれが問題である。


『あぁ、カレーが食いたいなぁ…王都ベルトナスでメニューが一つしかない日替わりの辛いスパイスのスープの店というのを以前聞いて、カレーかスープカレーと予想してからもう口がカレーなんだよなぁ…』


と葛藤している私の隣で相棒が、


「くぅ~、肉を購入するとなると儲けが…」


と、市場の商品を眺めて原価などの計算を始めていたのだが、私は素朴な疑問として、


「えっ、なんで肉を購入する事になってるの?」


と聞くと相棒は呆れながら、


「兄貴、忘れたんすか?オイラ達ギルドマスターから…」


と私に説明を始めたのだが、


「新規の依頼はダメだし、買い取りカウンターも使わせて貰えない…あれ?でも狩りをして自分達で解体すれば肉を屋台で使っても?」


という真実にたどり着いた様で、私が


「良いんだよ」


と優しく教えてあげると相棒は、


「勝った!もうボロ勝ちっすよ兄貴、あとは味だけっすね」


というがそれが一番の問題かもしれない。


野菜も市場に溢れているし、肉もそぼろにすれば大量に作り置き出来る。


『タコスが出来るかな?チャパティだけど中身をタコスにすれば…』


と思うが、肝心のトマトがシーズンでは無い…相棒と市場を巡り気になる商品を買い漁った後に、錬金ギルドに寄って魔道具を見て回ったのだが、色々と見てまわる間でもなく入り口近くの魔石コンロの所で足を止めた私は相棒に、


「キタン君…屋台でも使えるし魔石コンロを買わない?そうしたら町の外で匂いを気にせず色々試作できるし、炭や薪の後始末も楽じゃないかな?」


と提案すると、相棒は、


「良いと思うっすけど、ちょっとお高くないっすか?」


というので私は彼の耳元で、


「カレーって食べたくない?」


と聞くと、相棒はゴクリと唾を飲み込み、


「マジっすか?」


と聞いてくるので、私は


「私の上向きの鼻の嗅覚と鑑定スキルと舐めてもらっては困る。すでにカレーに必要なスパイスのこちらでの名前と代用できる同じ様な香りや効能の物を把握してある」


と告げるとキタン君はシンキングタイム無しで、


「すみません!この魔石コンロを1つ頂きたいっす」


と錬金ギルドの職員さんに購入宣言をしていたのだった。


相棒もカレーを食べたかったんだね…

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