第18話 疲れたから…
「何の能力者だい?…」
と聞かれてしまった私だが、正直に「鑑定です」なんて言ったところで信じてもらえるのだろうか… いや、かといってキタン君の能力をバラすなんて論外である。
私がへんな汗をかきながら黙っていると白衣を着たムキムキの老紳士は、
「がっばっは!スマン、スマン。」
と笑いながら、
「冒険者が手の内をバラすわけが無いな…爺の好奇心なだけだから気にしないでくれ」
と私の背中をバッシン、バッシン叩いてくるのだった。
そして老紳士は私に、
「でも、これは治癒兵士として昔は従軍していた爺からのお節介として聞いて欲しいんだが、オークは確かに防御力に関しては最強クラスだ…しかし、作業着程度の装備でクラッシュボアに挑むのはバカのする事だ…」
と注意され私は素直に、
「面目無い…私もアサルトボアを狙っていただけで、冒険者になって長いが依頼を受けずに倒した魔物の買い取りだけでDランクになったもので装備を揃える金もなく…」
と白状したのだが、老紳士は私の話を聞くと、大爆笑である。
『確かに女医さんと印象が被るな…』
と感じる私に彼は、
「いやぁ~、スマン。まさか本当に駆け出し冒険者だったとは…」
と言い出しそして彼の昔の親友の話をしてくれたのだった。
その親友というのは私の様なオーク族であり潰れたオークの国から流れてきた冒険者で、ハンマーの達人だったのだが、いつも、
「私だけ生き残ってしまった…」
と、後悔しながら生きておりそのオークの冒険者と、まだ若かった老紳士と数名の兵士仲間達は非番の日に酒場で会うだけの仲だったらしいのだが、ある日いつも普段着に愛用のハンマーのみで酒場にいる事を彼に聞くと、
「これは、自分への罰の様なものだ…私は生きていてはイケない人間だから…依頼の為に国を出て、一仕事終えて国に戻ると国は滅びており戦う力の無い家族は何処にも…生死すら分からない家族を探して帝国からの難民が集まると聞くベルトナ王国に来てみたのだが…多分もう…」
と何故防具も身に付けずに冒険者を続けていたかを教えてくれたのだそうだ。
そしてある日、マイスの町にて小規模ではあるがスタンピードという様々な理由で起こる魔物の一斉暴走状態の進路に入ってしまった時に彼は先陣を切って町を守り、多くのマイスの町の住民達を守ってくれたのだそうだ。
しかし、彼をそれ以来見かける事がなく、
「いや、アイツと同じオーク族でアイツが最後に町を守る為に山亀という低級であるが地竜にも分類される様な魔物を倒した技のような一瞬で同じ場所に連撃を叩き込むスキルなのか何かしらの流派の武術なのか…そしてアイツと同じく防具を身に付けず、あの時の技と似た技の使い手ならば消えたアイツの足取りが聞けるのではと思っただけだ」
と、少し残念そうにしていたのだった。
『いや、相棒に一時停止してもらって必死でシバいただけです』
とは言えない私は、
「私はオークの国から脱出した両親が自由都市アルカスに来てから産まれたのでハンマーの流派とかは…」
とだけ伝えると、老紳士は、
「そうか…娘の命の恩人でもあるアイツに繋がる手がかりだと思ったのだがな…」
と言っているところに、
「兄貴ぃ、着替えを持って来たっす!」
と言って相棒が入ってきてベッドの端に座っている私に駆け寄り、
「もう大丈夫っすか?森狼って歯を磨かないから齧られたあとが化膿しやすいからって昼間に女医さんから薬を預かってるっすよ!」
などと言って私の隅々を持ち上げたりして確認している。
『いや、歯を磨く狼って居るのか?』
等と思いながらも私は相棒からのチェックを受け、そしてその後でキタン君は老紳士に深々と頭を下げて、
「タウロさんありがとう御座いました。もしもの時用のポーションで兄貴の傷の処置が出来ました」
と言っていたのだった。
どうやらキタン君はクラッシュボアの回収にお代官様のアイテムボックス持ちの配下の方の護衛に付く騎士団の方々と一緒に出発できる様にこの医務室で仮眠を取らせてもらったらしく、その時に私が獲物を守りながら戦っている可能性や、クラッシュボアがパートナー持ちだった時は報復が有るかも知れないからと、飲んでヨシ!患部に振りかけてヨシ!の高い方のポーションを渡してくれていたらしく、
「兄貴、クラッシュボアの肉も高値で売れましたし、森狼の肉も売ったんすけど、毛皮は今回手元に残してオイラと兄貴の防具にする様にってギルドの職員さんにも薦められたっすよ…」
という相棒のセリフに、タウロさんと相棒が呼んでいた老紳士も、
「そうだな、クラッシュボアの革装備なら軽くて頑丈だから…そうだ良い職人を紹介してやろう。
あと、少し高いから余裕があればだが錬金ギルドでポーションと、そのポーションの瓶を保護する衝撃緩和の機能つきの携帯用ポーション箱も有った方が良い…かなり代官様からもらったのだろぉ?」
と、いやらしい笑みをキタン君に向けると、ウチの相棒も、
「そりゃあもう…料理長さんからの肉質の太鼓判が効きましたからね…」
と、悪代官と越後谷のようにイッヒッヒと笑っている。
『裏で金銭のやり取りをしてる訳ではないから大丈夫だろうけど…嫌だよ、料理長さんとやらにタウロさんからの口添えで肉質詐称とかしてもらったのがバレて投獄とか…』
と、少しヒヤヒヤしながらも私は服を着替えてタウロさんに御礼をいうと私達はギルド宿に戻る事にしたのだが、私が、
「うわぁ…騎士団の建物って町の中心のお城みたいな場所の隣なんだ…」
などと騎士団の施設の玄関口で今更な反応をしているとキタン君は、
「さっきまで中にいたのに…」
と呆れた様にいうので、私が、
「夜通し血の匂いに集まる虫だのヒルだの狼だのと戦って仮眠後には鳥の群れで来た時はほとんど気絶した様に眠っていたから…」
と沁々答えていると相棒は、
「では兄貴、その話は冒険者ギルドで…職員さんもですがギルドマスターがかなりお怒りっすからね。DランクパーティーでBランクのクラッシュボアを倒したなんてかなり危険な行為だと…それはそれは…」
と神妙な顔で話していた。
私は急に怖くなり、
「えっ、ギルドマスターって怖い感じ?!」
と質問すると相棒は、
「兄貴の見た目よりはマイルドっすけど、中身はかなり…初代総長ぐらいの迫力が…」
と教えてくれたのだが、
『初代総長とは?…』
と気になるキーワードが有るものの、
『兎に角、怖い人だろう…』
と、腹をくくるしか無かったのだった。
そして、その後に到着した冒険者ギルドにて私達…というか何故か私が滅茶苦茶叱られている。
「コンビであろうがパーティーの中の高ランクの者が注意を怠り、メンバーを危険に晒すとは…」
と、身長が2メートルほどあるのにフォルムがドワーフ族の様に上半身が発達している…というか短足なオーガというべきか分からないマイスの町の冒険者ギルドマスターに机をドン!と叩かれながらお説教をかれこれ一時間程食らっている。
『この顔が私よりマイルド…だと…』
と相棒のセンスを疑いながらも続いた事情聴取の後で、依頼を受けるにあたり装備に等の準備不足な事や仲間を危険に晒した事と、
「これが偶発的な事故ならばまだしも金に目がくらみ、あわよくば精神でクラッシュボアを倒しに向かっていた場合は冒険者ギルドのランクの縛りから逸脱した行為なのでランクを剥奪するところだ!」
と、クッキングが上手なパパさんの様…というかシャクレた鬼瓦の顔マネをずっとしている様な厳つい顔を私の顔から5センチ程の距離までグンと近づけながら言われてしまい、
『怖い、怖い、怖い…もうキッスの距離だよ…』
と怯える私に向かい、
「とりあえず装備が整うまでは今後の依頼も買い取りも俺様の権限で禁止にする!」
とのギルドマスターの言葉でお説教は締め括られたのだった。
医務室で休ましてもらい体力は回復したのだが、鬼瓦の説教で完璧にすり減った精神を癒すべく私は相棒に…
「今日は晩御飯要らないから…」
と、叱られて続けている間に辺りも暗くなり冒険者ギルド併設の酒場からは冒険者達の賑やかな声が聞こえており、相棒とはそこで別れて冒険者酒場の二階部分にある冒険者宿に向かう階段をトボトボ上がろうとすると、キタン君も階段を二階へと向かい、
「オイラも偉いさんやらとの交渉でクタクタっす…兄貴が鬼瓦に叱られててる時も若干ウトウトしているのをバレない様にするのに必死だったっす…」
とうんざりした様に答えていた。
『あぁ、そんな面倒臭い事は相棒に丸投げしていたままだったな…すまん』
と反省した私は、
「ありがとうキタン君、交渉事を任せちゃって…」
というと相棒は、
「ほら、あれっす!クラッシュボアの時にオイラ1人で遠くまで逃げた罪滅ぼしっすよ」
と苦笑いしていたのだった。
それから二人で部屋に入ったところでようやく一仕事を終えた実感が訪れて、
「フフッ…猪に追いかけられた時はどうなるかと思ったが無事に帰ってこれたな…」
と安堵した私に、相棒は、
「本当っす…兄貴は医務室でグッスリ寝た後っすけどオイラはもうフラフラっすから…」
と寝る準備に入っているが、私も、
「あれは昨日の夜の分だからまだ寝れる自信のしかないよ」
と告げると相棒は、
「では詳しい報告は明日の朝という事で…」
とベッドに潜り込んだので私は、
「了解」
と告げたのだが、少し気になっていたので、
「なぁ、キタン君もギルドマスターの事を鬼瓦って呼んでるんだね」
というと相棒は、
「兄貴!他人が眠りに落ちる瞬間に強めのイメージを与えないで欲しいっす!!」
と軽く文句を言われてしまったのだった。
『まぁ、夢で会いたい顔では無いな…』
と納得した私だったのだが、これが良く無かったようで、私はその夜、あの鬼瓦と濃厚なキッスを繰り返す悪夢にうなされたのだが、相棒も夢で鬼瓦が私を説教している場面をリピート上映していた様で、しっかり寝たはずなのに二人とも翌朝には起床時から何故か疲れきってベッドの端に座りグッタリしていたのだった。
そして二人の口から出た言葉は、
「とりあえず、お祓いからすませよう」
という意思表示であった。
多分ではあるが、呪われていないにしても、十中八九良くないモノに取りつかれているとしか思えないほどの出来事と昨夜の夢で疲弊した心を浄化する為に神にすがるのも1つの手段だと感じたからである。
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