第17話 知らない天井
山火事にならない様に穴を掘った窪みで焚き火をしながら友の帰りを待っている。
『山で軽く冷えるから体が寒さで固まると急に動けないからな…』
と、焚き火当たっていると夕方近くにキノコ狩りに来ていたらしい下の集落のおじいさんが、
「クラッシュボアでねぇか!兄さんがこれを1人でかい?」
と声をかけてくれたのだが、そのおじいさんの話では、どうやら集落からの助っ人は望めないらしく集落には只でさえ若者が少ないのに現在足腰の丈夫な若者は希少なキノコを求めて山小屋生活をしていて今朝出たばかりで帰ってくるのは明日以降らしいのだ。
「これはキタン君は町までコースだな…」
と覚悟した私は、
「んじゃ、ここら辺には少ないが森狼もおるで気をつけてのぉ…」
とキノコの入ったカゴを背負ったおじいさんは、見事にここまでイベントとあれば巻き込まれた私の呪いを知ってか知らずか、要らぬフリを残して帰って行ったのだった。
『まぁ、昼過ぎに相棒が山を降りたから最短で往復六時間…夜には…来ないよな~…普通』
と諦める私の長い夜が始まった…
大きな魔物の血抜きの為に大量に流れ出た血の匂いに誘われて、虫魔物に始まり吸血系のヒルの魔物をハンマーの餌食にする事数時間…きりがないので穴を掘り焚き火を追加して私の視界を広げる為の灯りと燻した様な煙を追加して虫除け代わりにする。
木々は沢山あるので薪は現地調達出来るし生の枝の葉っぱを燻すように燃やせば煙もおこる。
『少々臭いのは我慢だ』
おかげで虫魔物たちの数が激減したしクラッシュボアの血溜まりも埋めて吸血系の魔物を集める様なことも減ったのだが、ハンマーを片手にクラッシュボアのご遺体周りを警備していると、
「アオォォォォォン…」
という遠吠えが聞こえてきたのだった。
『あの爺!余計な事をいうから…』
と、全ての罪をキノコ狩り老人に擦り付けてはみたが、もうヤることは決定していた。
そう、薄明かりの中で狼達に囲まれている事はハッキリ理解出来た。
先頭を切って一頭の狼が私に飛びかかるが、コッチも来るのは分かっていたのでハンマーを振り抜く準備をしていた為に、
「キャン!」
と吹っ飛ぶ狼だが、
『今のは何とか当たったけどハンマーは振り遅れたら私がガラ空きで殺られるかも…』
と感じて腰の剣に持ち替える。
しかし武器を一旦手放したと考えたのか一斉に飛びかかってくる狼達驚いた私は一瞬反応が遅れて中の一匹に脛をガブリと噛まれてしまったのだった。
確かな手ごたえ?…いや、歯ごたえに、
『イケる!』
と判断したのか首を振りながら牙をめり込ませて肉を切り裂こうとするのだが、そこはオークに生まれて良かったみたいで、血も出ているしアホみたいに痛いが我慢が出来る程度の狼の攻撃を受けながら近くの大木に向けて、
「クソ痛いわ!」
と噛みつかれた足で狼ごとキックをすると大木と私の足にサンドイッチにされた狼の頭が弾け飛ぶ、勿論噛みついていた奴の歯がグッと私の脛に食い込んだが、ヤツの牙は私の骨まで達する事は無かったのだ。
爆散した仲間が余程怖かったのか狼達は一旦引いたのだが、その後も定期的に襲撃され辺りが白々と明ける頃には20頭程の狼の死体の散らばる何とも壮絶な戦場と化していたのだった。
リーダー格の狼もこの光景を目視したのか、遠くで狼の遠吠えが聞こえたかと思うと、暗闇で気配を追い続けていた私のセンサーはギンギンのビンビンだった為か、周囲から狼達の気配が薄れて行くのが解り、
『ふう…帰ってくれたか…』
と安心した途端に、傷口の痛みや疲れ、それに眠気までいっぺんにやってきた私は、
「狼は帰ったが、相棒はまだ帰らずか…」
と小さく呟き焚き火の前に行くと気を失う様に眠ってしまった様であり、次に気がつくとまだ明け方であるが太陽が差し込み、なんと私の倒した虫魔物や吸血系の魔物などは鳥魔物のご馳走にされたらしく、クラッシュボアや森狼達の目玉まで巨大なカラスが咥えて美味しそうに食べている最中だった。
何匹かの森狼は内臓もつつかれており、私は寝起きというのも忘れて、
「たびぇるなぁぁぁぁぁ!」
と呂律の回らない口のまま剣を振り回して鳥達を追っ払っい、飛び回る鳥からも嫌な攻撃を食らっているところに、遠くから、
「兄貴ぃぃぃぃ!」
と、相棒の声がしてきたのだった。
相棒が鎧を着た騎士の様な人達を連れているのを見た私は、
「なんで騎士団さんを連れてきたの?」
と驚くが、相棒は相棒で私の服がボロボロな上に大量の狼の死体に辺りが鳥魔物のウンコだらけという状況に、
「いや、兄貴こそ!何をどうしたらこんな状態になるっすか!?帰ったらすぐにお祓いに行くっす!!」
と騒いでいるが、私はもう疲れと眠気がピークであり、
「後は…頼んだ…相棒」
と言ったのを最後にその場に倒れこみ、意識の端で聞こえるキタン君の、
「兄貴?…兄貴ぃぃぃぃぃ!」
という叫びを子守唄に夢の世界へと沈んで行ったのだった。
次に目覚めた私は思わず、
「知らない天井だ…」
と言ってはみたものの隣のベッドに上半身裸の筋肉質な男性が眠っていた為に自分の布団をひっぺかして己の着衣を確認すると知らない白いパジャマを上下着せられており、恐る恐る覗き込んだ自分のパンツも新しい物に…
「ヤられた?ヤられちゃったのかい?!どっちなんだい!!」
と私は己の括約筋に問いただすが返事は返って来なかった…代わりに、
「お目覚めかしら?」
と女性の声がして振り向くと、白衣を着たエルフっぽい金髪尖り耳の女性が立っていたのだった。
女性は、クスクスと笑いながら、
「なんで目覚めてすぐにお尻の確認?」
と言っていたのだが、私は人見知りスイッチが発動し、
「いえ、あの…」
としか言えなかった。
だが、彼女は更に大笑いした後に、
「ごめんなさいね。あなたの相方が兄貴は口下手っすから…なんて言ってたけど、これ程とは…フフフッ」
と楽しそうに話す。
私がベッドの上で尻を確認していた姿勢のまま、
「キタン君は…」
と彼女に聞くと、
「とりあえず、お尻の確認を終わらせてからにしない?」
と提案されたが、私は、
「いえ、もう無事が確認出来ましたので…」
と言いながら上半身裸のマッチョをチラリとみると、彼女は状況を把握したのか楽しそうに、
「コイツは見習いの騎士で馬術の訓練中に落馬しただけだから、あなたの大事なお尻にイタズラはして居ないわよ…しかし、普通自分の居る場所とか傷口が気になるものじゃない?
あっ、もしかして過去にそんな事が…だったら私は無神経な事を…」
と一人で焦りだす彼女に、
「いえ、私の穴は清らかなままです!…多分…」
とやや自信のない宣言したのだが、彼女は更に楽しそうに、
「でもあなた自体はここに運び込まれた時には、どうみても汚された後みたいな見た目だったわよ。
服は引き裂かれて、鳥魔物のウンコにまみれて…」
と言っている時にようやく全てが繋がり、
「はっ、ここは何処ですか?」
と質問した私に彼女は大爆笑だった。
「いや、どのタイミングでよ…」
とツボる彼女から説明を受けたのだが、秋が終わると貴族達は社交のシーズンとやらに入り多くの食材が必要とされ、今回はマイスの町を預かるお代官様から丁度クラッシュボアの肉の納品が冒険者ギルドに依頼された所に我々が討伐したとの報告が入り、ギルドでは無くて直接常闇の神様の祝福持ちの中でも一握りの者しか発現しないアイテムボックスという魔力を使う青い有袋類の猫型のロボットのお腹の袋の様な能力持ちをお代官様が派遣してくださり、その有能なスキル持ちを守る為に騎士団が共に派遣され、獲物のついでにボロ雑巾の私も騎士団の方々に回収されて、現在騎士団の建物内にある医務室でお尻の穴を確認していたという流れなのだそうだ。
ちなみにキタン君はクラッシュボアのお肉の納品などの手続きの等の為に代官様の配下の方と冒険者ギルドに向かったそうなのであちらはお任せで大丈夫だろう。
安心した私は、
「では私も回復しましたし、大変お世話になった様なのでそろそろ…」
というと女医さんは、
「はいはい、焦らなくても依頼報酬をもらったら相方さんが着替えをもって来てくれるから」
と言ってから、
「ゆっくりして行きなさい」
と言い残して部屋から出ていってしまった。
それから居心地の悪い時間を過ごしていると、隣の落馬した見習い騎士さんが、
「う、う~ん…」
と悩ましい声を上げながら目覚めたので、
「お目覚めですか?」
と声を掛けてみたのだが、知らないパジャマのオークに上半身裸にされた自分という現状から彼は、
「えっ!へっ?」
と変な声を上げながら全身を触って確かめるのだった。
『ですよねぇ~』
と思いながらもここで、
「大丈夫、体には指一本触れてないよ…」
等と伝えれば逆に彼を不安にさせてしまうだろうと気を遣い、私は軽く微笑みかけてみると、何故か彼は部屋を出ていってしまったのだった。
そして、彼は部屋から出るとすぐに、
「やっぱり医務室だ!良かったぁぁぁぁぁ!!」
と叫びながら再び部屋に戻って来ると、
「えっ?貴方は??…あれ?エレナさんは??」
と室内をウロウロし始めたのだった。
私は、
「女医さんなら暫く前に部屋から出て行かれましたし、私は騎士団の方々に保護された冒険者…ですね」
と告げると見習いの彼は、
「あぁ…定時を過ぎたか…夜勤のじいさんが来る前に宿舎に戻るかな?」
というと医務室の扉がひらくなり、
「お前さんの様に娘を狙って怪我をしても良いなんて気分で訓練してると死んじまうぞ」
と言いながら口髭を生やした男性が入って来たのだった。
すると見習い騎士の男性は、
「はい!」
と勢い良く返事をしてビシッと敬礼をした後に部屋から逃げる様に出ていったのだった。
その男性は下手な騎士より見事な筋肉を持ち医務室の職員にはとても見えず、先ほどのお姉さんを〈娘〉と呼ぶには少し年齢が高い気がしており、なんと言えば良いか解らなかった私に彼は、
「御屋敷の料理長はワシの旧友なんじゃが、感心しとったぞ、多分走り回り襲いかかって来たであろうクラッシュボアの眉間に寸分違わぬ攻撃を複数回、血抜きの傷口以外には余計な傷をつけずに討伐してあるって…
兄さん、Dランク冒険者なんだってな…なんの能力者だ?」
と鋭い質問をしてきたのだった。
『えっ、どうしよう…キタンく~ん助けてよぉぉぉぉぉ!』
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