第16話 ほらみた事か!

翌日私の目の前には返り血を浴びる殺戮者がいた…


いや、猫の本能としてはウサギを狩るのは当たり前なのだろうが、その狩り方がちょっと思ってたのと違うのである。


身体強化で足と視力が上げる事が出来るキタン君は岩に隠れて獲物を待ち伏せし、獲物が現れると野生が騒いで2~3回お尻をふる様にモジモジするアクションを挟んだ後に、凄いスピードで走りだして、


「死ねやゴラァ!」


と叫び、握られた釘バットで血飛沫を巻き上げている…


『怖い…ただただ怖い…』


私の中の陰キャが、


『あれは関わっちゃダメですよ』


と警告してくる程である。


使いなれた武器イコール〈釘バット〉という事については深く聞かない事に決めたのだが、相棒的には、


「曲がった釘の方が引っ掛かりが良いっすが、大工さん達って曲がった釘は鍛冶屋に渡して鉄にして貰うから工場には無いって言ってたっす…残念…」


と、昨夜言っていたのだが、


『引っ掛かりとは?』


と思いながらも私は、


『いや、工賃を払ってバット部分を作った木工職人さんもいきなり釘を打ち込まれて引いただろうし、予算内で購入した釘も鍛冶屋さんが手仕事で作った逸品だよ…前世の釘バットより極悪な仕上がりじゃない?』


と思うがあえてのスルーである。


しかし、そんな私の気持ちを他所に、相棒は野生というか昔を取り戻した様にウサギを…


『いや、動物虐待をする駄目な不良に見えて胸が痛いのよ…昨日と殺ってる事は同じなのに…』


などと私が胸を痛めながら相棒の大暴れを横目に薬草を集めている。


そして、相棒は草原にて10匹のウサギを撲殺し、


「今日はこれぐらいにしてやるっす」


と清々しい顔をしているのだが、返り血を浴びてうっすら微笑むキタン君を見て、もう、私の中にはビビってる奴しか居ない状態であり、


「兄貴!」


と呼ばれただけで、


『まさか、次は私が…』


と頭を過り少しビクンとしてしまう。


麻袋に獲物を数匹ずつ詰め込んで担いで帰るのだが、キタン君が、


「兄貴、こんなに狩れるのなら明日は馬車で来ましょうよ」


などと言うのだが、私の耳にはまだ


「死ねやゴラァ!」


の声と


「ボゴ!」


というウサギが撲殺される音声が繰り返されており、


「そうですね」


と、いいとも観覧者のような返事をするのがやっとであった。


その日、キタン君は登録して2日でFランク冒険者になったのだが、私がキタン君の釘バットスタイルに馴れたのはそれから3日の後であった。


やはりイメージとは怖い物で、頭ではただの相棒の武器だと理解してもハートが馴れるのに主に時間を必要としたのだった。


しかし、最近反応がおかしい私を心配してキタン君が、


「どうしたんすか?」


と聞いて来たので思い切って、


「釘バット、オデ、コワイ…」


と言ったのだが、散々相棒には笑われ、


「いや、腰に剣をぶら下げた兄貴に釘バットコワイって言われても…日本じゃ銃刀法違反っすよ兄貴…」


と言われて初めて自分を客観的に見てみると、私の方がヤバい奴だった。


そこからようやく普通に相棒を見れる様になり二人でDランクパーティーとなった事により近くのキノコ山に現れる猪系魔物の討伐や、キノコ採集の邪魔にならない様に撃退するという依頼を受ける事にしたのだった。


ボア系の魔物は大陸中何処にでもいるアサルトボアという猪系の中でも小振りな魔物がメインで、たまにタックルボアという中型で足の早い猪が居て、今回の依頼はアサルトボアは討伐でタックルボアは討伐または撃退という内容である。


しかし撃退にはアサルトボアの一部の提出かキノコ狩りの為に居た一般の方の証言が無いと依頼料は勿論ギルドポイントも入らないので無理をしても討伐一択なのだ。


しかもこの辺の山にはさらに大型のクラッシュボアというヤバい奴まで居るのだが、コイツは見つけた情報をギルドに報告すれば冒険者ギルドが調査を上位の冒険者に依頼して、確認や討伐がされたら発見者にも賞金とポイントが少し入るという、会いたい様な、会いたくない様なボーナス猪が居るらしい、


『響きとしてタックルなら我慢出来そうだが、クラッシュは確実に内臓破裂とかで死にそう…』


と、すこし怯える私だったのだが、相棒は、


「兄貴はアサルトボアを何回も狩ってきたから大丈夫っすよ」


などと気楽に言っているのだが、私はここにきて、


「あれ?一文無しになったから忘れてたけど、まだお祓いに行ってないや…」


とカワサキ号の引く幌馬車の中で呟くと、相棒は、


「やめてくださいよ兄貴…そういうフラグをおっ立てるのは!…ただでさえ兄貴は面白い目に合う呪いにかかってるっぽいっすのに…」


とブツブツ言われてしまったのだった


「いや、大体その殆どにキタン君が関わってるんだから、呪いも私のみじゃ無いかもしれないじゃないか!」


と不満を言ってはみたのだが…結局のところ…


「兄貴の馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!ほらみた事かってヤツっすよぉぉぉぉぉ!!やっぱりあんな立派なフラグをギンギンにおっ立てるからぁぁあぁぁあぁぁぁぁ…」


と言って私を捨てて先に猛ダッシュで遠くへ、そう…更に遠くへと走り去る相棒に向かい、


「いや、キタン君も一緒に居たから私だけの責任ではないはずだぁぁぁぁぁぁ!」


と叫びながら必死で走るがオーク族の種族的欠点である足が致命的に遅い事が災いし、背後からランドクルーザーぐらいの猪が、


「ブゴォォォォォ!」


と叫びながら追いかけてくるのだが、もう何をどうしようと逃げ切れないと悟った私は、


「わがっだよぉぉ!殺ればいいんだろ!?」


と腹をくくりザザ村で1番使い馴れたメインウエポンである大木槌に近いハンマーを構えるのだが、トップスピードのオフロードもどんと来いみたいな車ほどの塊をハンマーのみで何とかなるもんではないのは私にだって理解できる。


しかし、負けると分かっていても男にはヤらなきゃならない時がある…が、そんな時は永遠に来て欲しくは無かったというのが本音ではある。


『頼むぜ私のオークボディー…車に衝突されても生きてる人も居るだろう。

死ぬほど痛いか、死ぬかの二択か…デッド&デスの一択か…畜生!どうせならせめて童貞を何とかして欲しかった…』


と要らぬ事を考えながらもオークの血なのか冷静に、


『牙を避けて、眉間にドン!』

『牙を避けて、眉間にドン!』


と、迫りくる猪を睨みながらタイミングを測る私も同居しており、


「ヨシ、殺るぞ!」


と、半分以上死を覚悟しながら気合いを入れ敵を睨みつけるが、クラッシュボアは私をクラッシュするどころか前傾姿勢のまま止まっている。


「おん?」


とアホみたいた声をあげる私に向かい遠くから、


『兄貴ぃぃぃぃぃぃ!もって10秒すぅぅぅぅぅ!!』


と安全圏から叫ぶ相棒の声が聞こえ同時に私は状況を理解して、


「馬鹿ぁぁぁぁ!捨てられたと思ったんだからぁぁぁぁぁ!!」


と叫びつつも、予定していた『眉間にドン!』を何度も繰り返す事が出来たのだった。


相棒の魔力が尽きたのか再び動き出したクラッシュボアだが、既に眉間に蓄積されたダメージにより前膝を折り大地を耕す様にズザザザァァァァァ!とヘッドスライディングをしながら進みピクリとも動かなくなる。


私はハンマーを担いだまま、


「えっほ、えっほ」


とジョギングの様な速さの全速力でクラッシュボアに駆け寄り鑑定をするが鑑定出来ない…

私の鑑定では生えている草は鑑定出来ず、摘んだ草は鑑定出来る事を知っていたので、


『まだ生きてるのかよ!』


と焦りながら餅つきの様に奴の眉間をペッタンペッタンと頭蓋骨を叩き割り脳ミソとミックスさせるつもりで叩き続けていると、


「兄貴…もう死んでません?…そいつ」


とようやく近くまで近寄ってきたキタン君から声をかけられ、


「へっ?」


と我に返った私は改めて鑑定をかけると、


『クラッシュボア』

『成体』

『毒なし』


の文字が視界に浮かび、


『やった…』


と安堵するのと同時に、


「てめぇこの野郎、自分だけ安全圏で…死ぬ覚悟をしたんだぞ!ありがとー」


と相棒に怒りと嘆きと感謝の言葉を叫んでいたのだった。


キタン君は、


「兄貴の情緒が心配っすが無事なら良かったっす」


と言ってくれ、その後二人で、


「怖かったねぇ」

「怖かったっすぅぅぅぅぅ」


と抱きあってお互いに無事を喜んだのだった。


さて、それからが大変だった…

幌馬車より大きな獲物を持ち帰る方法が見当たらないのだ。


片道馬車で二時間程の山に移動し、山の入り口の集落に馬車を預けてから更に徒歩にて一時間程登った山の中である。


集落まで行ったとて助っ人が居るとは限らないし、マイスの町まで行って冒険者ギルドで解体職人と運搬手伝いの冒険者を手配すると最短でも半日は待つ事になる。


素人が解体すれば価値が下がる可能性もあり血抜きの為に足先と頸動脈辺りに切り込みを入れる以外はあまりナイフを入れたくない…猪魔物は肉が1番の価値があるのだが、クラッシュボアは牙も皮もかなりの価値になるのだろうから、


『坂道を利用して下の集落まで転がす…』


などと言うのは、皮も肉も駄目にするだろうから論外である。


足の遅い私が人を呼びに行くのも現実的ではないし、山の中に釘バットを握った相棒を残すのもない話である為に私は、


「キタン君、私が獲物の見張りをするから下の集落…では無理かも知れないから最悪冒険者ギルドまで行って運べる様に手配してくれないか?」


と提案すると、相棒は、


「えっ、大丈夫っすか?!」


と心配してくれるのだが、相棒的にもコイツを二人でどうこうするのは無理と判断して、


「ガッテン承知の助っす!一刻も早くい助っ人を連れてくるっす!!」


と言い残して既に魔力も尽きかけて身体強化も使えないキタン君は坂道を下って走り出したのだった。


「危ない、転ぶから!」


と心配する私の声を聞いて、


「大丈夫っ…」


と言いかけたところで坂道の加速と、疲れている自分の足の回転が合わなくなり見事に転んで坂道を転げ落ちてしまう。


「ほらみたことか…」


と呆れながら助けに向かおうとした私に相棒はスッと立ち上がり、


「ご心配なぁぁぁぁぁぁくっ!」


と叫んで再び走り出したのだった。


「いや、絶対に捻挫か打撲はしてるだろ?猫だから柔軟なのか…それとも…やせ我慢かな??」


と相棒は心配する要素しかないが、とりあえず私は友の帰りを待ちながら、獲物の血抜きをしつつ血の匂いを嗅ぎ付けた魔物から折角の大物を守る作業へと移ったのだった。

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