第15話 パーティー結成

最近感情の起伏が激しい気がする…更年期の何かしらの症状かと思ったのだが、多分ではあるがキタン君との出逢いからこちら、私の人生がようやく動きだした様に感じている。


今までは貧しさに耐えながら仲間達と毎日の生活に追われる様な暮らしで、その中でも恋愛や結婚をする仲間達と何処かしら線を引いていた私がこちらの世界で初めてその線を取り払える相棒を手に入れた事が大きいと思うので、その事が私の感情表現に何かしらの影響を与えていても不思議ではない。


そう、現に今、二人で街道の脇の広場で火を囲んで道中で倒した角兎の肉を焼きながら相棒と話している時間の楽しい事、楽しい事…

まぁ、話している内容が読んでいたマンガの話な事もあるが、世代間のギャップはあるにしても私が高校の時ぐらいから後に読んだマンガや見たアニメの話題ならば大概キタン君も話ができるし、歌手の話では幼くて歌は聞いた事のあるキタン君が知らないその歌手の情報も教えることができるのだ。


戦隊ヒーローは夕方では無くて日曜日の朝と言うことや、ドラゴンが玉七個で願いを叶えてくれるヤツは金髪になれる様になってからしか知らない事など、あとは国民的な歌姫が以前はグループに所属していたなど世代間ギャップですら会話が出来ることだけでも楽しいし、ヤンチャだったキタン君にも私が学生だったころのヤンチャだった友達の服装などの話が新鮮な様である。


そして、キャンプファイヤーの楽しい一時に、


「兄貴、兄貴って冒険者仕事の時に防具とか揃えないんすか?」


と言いながら兎肉をグルグル回して焼いているキタン君の何気ない疑問に、


「あぁ、防具かぁ…他の種族より頑丈なのと武器を一つに絞れなかったから、防具に回すお金が無かったっていうのが本音かな…」


と私が答えるとキタン君は、


「え~、オイラも冒険者始めるから折角だからお揃いの防具にしないっすか?兄貴!」


とワクワクしながらいうので、私は、


「まぁ、様々な種族の技術があつまるベルトナだったら思い通りの装備が作れるとは思うけど…」


といってはみたものの、キタン君の作りたい防具に少しばかりの不安を感じて聞いてみると、


「特攻服っすかね?」


などと言い出すので私が、


「いや、キタン君…特攻服ではアサルトボアの一撃を耐える事も厳しいよ?」


と言ったのだが、相棒は、


「なんかファンタジーなマジカル素材で最強の特攻服って無理っすか?」


と食い下がるので、


「多分そんな素材は高いから将来の楽しみにとっておいて、今は現実的な革鎧とかにしない?」


と提案した私だった。


さて、私達はベルトナ王国でも冒険者が集まる鍛冶屋や革細工職人が多く集まっているモノ作りの町であるマイスに当面の拠点を構える事に決め、私はCランク冒険者を目指しながらキタン君とお金を稼いで装備を整える予定である。


マイスの町に到着し、私とキタン君は冒険者ギルドへと向かい、キタン君の冒険者登録とパーティー申請を行ったのだが、カウンターにて、


「Dランクのヤジルさんと、本日登録のキタンさんがGランクなのでパーティーの最低ランクの方の2つ上までの依頼を受けれますのでEランクのパーティーとなりますね…それでパーティー名ですが?」


と聞かれたので私が、


「オークとネコとかでいいのでは?」


というとキタン君が慌てて、


「駄目っすよ!」


というので私は、


「あぁ、スマン…ではネコとオークで…」


と訂正すると、相棒は、


「いや、順番じゃないっすよ!」


といつになく真剣なので訳を聞くと、どうやらネコというキーワードが男同士の肉体関係の中で受け入れる方をさす事を教えてもらい、


『あの時の女性冒険者達めぇぇぇぇぇ!』


と、キタン君が『ネコか否か』を聞いたあの質問の意味と、未確認ではあるが私の噂話の出所が何となく理解できた私であった。


『確かにオークとネコとなると…』


と、馬鹿にされる未来しか見えずパーティー名はキタン君に任せようとしたのだが、


『あっ、前世でヤンチャだったキタン君の決めるチーム名って漢字の当て字では?!』


と焦ったのだが、相棒は、


「じゃあ、ヤジキタでお願いするっす!」


と職員さんに告げていたのだった。


私が、


「なんか普通だね…」


と驚くと相棒は、


「良くないっすか?旅もしてるしヤジルとキタンだし…」


という、しかし普通のネーミングもだが弥次喜多を知っている事にもビックリであり、


「いや、もっと捻ったヤツでも良いんだよ…」


という私にキタン君は、


「えぇ、ヤジキタ以外ならキタンとヤジルでタンジルしか思いつかないっすよ…」


というのでこの日Eランクパーティーの〈ヤジキタ〉が結成したのだった。


冒険者ギルドの職員さんの話では、依頼を幾つかこなせばキタン君はすぐにでもFランクに上がり、そうなれば私達はDランクパーティーになるので簡単な討伐依頼なども受けられるランクになれる。


ちなみにだが、キタン君がEランクに上がればパーティーの最低ランクの2つ上がパーティーの最高ランクを越える為に以後パーティーは1つ上の依頼迄で固定され私とキタン君が同じDであってもCランク迄の依頼しか受けれず、パーティーでのCランクは依頼を受ける為の特別ルールの為に関所での割引は適応されないらしい。


などという注意事項を聞いた後に私達は冒険者ギルドの宿屋を1ヶ月押さえてたのだった。


しかし、二人部屋を借りるのにも手痛い出費であり、なんと馬車とカワサキ号の厩舎代金も同じぐらいの出費となり、私と相棒は装備を揃えるどころか財布の中身をひっくり返して銀貨をかき集めてほぼ文無しとなってしまったのだった。


相棒は、


「くぅ~、仕方がないっす…カワサキと馬車を野晒しで野宿を続けるには少し寒くなってきたので可哀想っす…兄貴、オイラ早速近場の仕事からバリバリこなすっす!」


と言っているのだが、Eランク冒険者の依頼など常設依頼の薬草採集に畑を荒らす角ウサギ程度の小型魔物討伐である。


しかし、やらない訳にはいかないので、


「よし、明日の朝イチから近場の狩場に行ける様に冒険者ギルドの中にある資料室で近隣の情報を集めるよ」


と言って、カワサキ号を厩舎に預けて、荷物を部屋に運ぶと相棒は、


「うわぁ~、安い割に広いっすね。何で今まで使わずに町の安宿だったんすか?」


と聞くので私は、


「冒険者ギルド宿は大きな町にしか無いし、なにより冒険者だけしか使えないからね…」


と教えてあげると、キタン君は、


「それならもっと早くオイラも冒険者に登録したっすのに…」


というが、この世界の冒険者など夢を追う狩人というよりは危ない仕事をする何でも屋という面が多く、商人に成りたいが為に嫌々冒険者になる者さえいるので、既に商人の相棒を引きずり込むなど本人から言われない限りこちらから絶対提案しなかったであろう。


情報を集めて明日は朝イチからマイスの町の西に広がるベルトナ草原だった頃の姿を残すと言われる草原エリアに向かう事にした。


翌朝一番に冒険者宿を出て歩いて門の外を目指す。


カワサキ号と幌馬車で行けば良いだが、折角代金を払い飼い葉を食べさせて貰えるカワサキ号を薬草摘みに連れていけば暇をもて余して近場の薬草まで摘まみ食いする可能性があるので、キタン君がFランクに上がる数日間はお留守番である。


当面の目標は薬草摘みと角ウサギ狩りでキタン君をFランクにするのは勿論、既にお金を払ったので飼い葉を食べれるカワサキ号と違い、我々は宿代にお金を使いきり今日1日の食事がパン一個を半分こである。


昨夜のウサギのローストが嘘のような貧しさであり、相棒は、


「こんな事なら売れないスパイスより食べれる作物を買っておけば…」


と己の商才を恨みながら、薬草を探しているのだった。


私も薬草の群生地にたまたま遭遇しない限り薬草摘みに専念したことは無いが、年月だけはベテランほど冒険者をしているので薬草の形などは頭に入っている上に、摘んだ後に集中して見れば鑑定も出来るので薬草とそうでない草の見分けは簡単である。


しかし、キタン君は、


「くそぉぉぉぉ!オイラはこういうのは苦手っす…前世で育ててくれた婆ちゃんが楽しみにやってた新聞やらチラシの間違い探しコーナーも間違いを全部みつけたことなんてないんすよ…」


と泣き言を言っていた。


私は相棒に、


「とりあえず薬草っぽいのをナイフで根元から切ってあつめて、来年も生える様に根っこは残してね。薬草かどうかは私が鑑定するから…」


と提案すると、


「有難いっす!」


と凄いスピードで野原を駆け回っていたのだった。


『身体強化かな?足は強化出来るって言ってたし…でも、そうか…婆ちゃんに育ててもらったからの〈ヨッコイしょういち〉だったのか…相棒と巡り合わせてくれた相棒の前世の婆ちゃんと横井さんに感謝だな…』


と思っていると遠くから頭から血を流した角ウサギをぶら下げた相棒が、


「コイツ居たから能力で止めて近場の石でドンと殺ってやったっす!」


と、興奮気味に帰って来て、


「あっ、相棒にはチート能力があったんだった!」


と思い出した私であった。


なので相棒には、


「角にドンって殺ったら角が折れて買い取りが下がるからこれを使ってみて」


と剣を渡したのだが、


「オイラにはちょっと長いし重いっすが、ナイフよりは一撃で倒せそうだから頑張てみるっす!」


と言って相棒は走って行ってしまい私は薬草に集中するのだが、


「Dの私が薬草摘みで、Gの相棒が討伐とは…」


と呟きながら薬草を摘むのだった。


ちなみに相棒の集めた薬草は六割ほどただの草であったのは相棒にはあえて伝えない事に決めたとだけ報告をしておく。


目を使っての停止は魔力の効率が悪いらしく相棒は1日に三回程度で打ち止めになりそれに伴い身体強化に回す魔力も無くなり、彼は地べたにへたり込み、


「クソぉ…一時停止と脚力強化で4匹がやっとっす…」


と言っているのだが、私は、


「いやいや、十分だから…それに魔力を食い過ぎる一時停止を使わなくても倒せたのならば、今日の稼ぎでキタン君用の武器を買ったらもっと狩れるんじゃない?」


というと、相棒は、


「確かに!一時停止じゃなくても倒せたっす。兄貴天才!!」


と言われたのだが、何故か私は馬鹿にされた気分が少ししたのだった。


4匹の角ウサギと採集した薬草が入った麻袋をかついで一旦マイスの町に戻り、薬草と角ウサギを買い取りカウンターに提出して、頂いたお金で私と相棒は早速…食事に向かった…


宿を取ってからパン一個を半分こにして、お互いに、


「どのタイミングで食べるのが1番腹持ちが良いか?」


などを考えて、結局鞄に入ったままだったのだが、既に二人はパンの事など忘れて腹一杯買い食いをして町を満喫してしまっていた…


『だって仕方ないでしょ?腹ペコだったんだもん!』


と自分に言い訳をするのだが、4匹の角ウサギの買い取りなんて解体手数料を引けば小銀貨一枚と少しであり、駆除依頼の雷クラゲより食べれたり毛皮も取れる分高い様に思えるが密集していないし逃げ足も早いので効率は悪いのだ。


薬草とあわせても手元には小銀貨七枚程度であり、素泊まりの安宿に二人で泊まれて晩御飯にスープとパンが食べれる程度であるが、お互いに買い取り金額を半分こにした後に買い食いで小銀貨二枚ずつ程度使ってしまった後で、残された残金は二人合わせて小銀貨三枚…三千円程度である。


「兄貴…武器…」


と、不安そうにする相棒に、


「だ、大丈夫、中古とか色々あると思うから!」


と励ます私だったが、三千円なんて棍棒が買えるかどうかである。


しかし、キタン君は残された銀貨達を眺めながら、


「いや、有るっす!オイラ専用の武器が!」


と言いだして、相棒は、


「明日返せると思うので、兄貴、ちょっとこの小銀貨借りておきますね。」


と、言い残して屋台のおじさんに、


「この辺に大工さんって居ないっすか?」


と聞いて職人町へと走って行ってしまったのだった。


『大工さんに会ってどうするんだろう?…』

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