第6話 ツイて無かったり付いてたり

ツクネサンドをアルカスの町で数日販売しては数日ザザ村でソースやスパイスの仕込みに帰る生活を繰り返しながら1ヶ月以上が経過し、常連さんも増えキタン君の商人としての生活が軌道にのりはじめている。


ちなみにであるが私はキタン君のアシスタントとしてミンチを作る腕前が上がった以外は村の塩作り仲間から、


「チョイチョイ留守にするから薪が足りなくなるし、ヤジルの他に薪担当を作るか」


などと戦力外扱いを受ける様になり、


『完全に塩作りから手を引いて、ナンチャッテ冒険者とツクネサンドの屋台のアルバイトの二足のわらじで生きて行くかな?…』


などと考えながら足りなくなった物の買い出しに出たキタン君の帰りを屋台の留守番をしながらホゲェ~っと待ちつつ、私はお客さんも少ない今のうちにと、慣れた手つきでクルクルと串を回しながらツクネを焼いているという、いつもの屋台での昼下がりの出来事である。


「てめぇがキタンを汚したオーク野郎か!」


と怒鳴られたかと思ったと同時に私は物凄い衝撃を受けてぶっ飛ばされたのだった。


『えっ?!何?…』


と比較的落ち着いていられたのはオークという種族の頑丈さからであるが、普通の人族であれば気絶ものの大惨事になる程の衝撃で、ご近所の屋台や木箱を破壊しながら何とか止まった私は、


『痛たたたたっ…何だよツイてないな…誰だよいきなり!』


少しふらつきながら立ち上がり敵を確認したのだった。


しかし、私より先に隣の屋台の親っさんが暴漢に、


「いきなり何しやがる!」


と食ってかかってくれて居たのだが、その暴漢は、


「うるさい、関係ない奴は引っ込んでろ!」


と長い鼻を振り上げて隣の屋台の親っさんを攻撃しようとしていたので、私は、


「その親っさんは関係無いんだろ?用があるなら直接コッチに…って、まずはいきなり殴らず口で言え象のオッサン!」


と、象型獣人の暴漢を睨み付けながら二人に近寄るのだが、内心は、


『怖ぇぇぇぇ!激オコだよ…喧嘩なんかした事なんてあんまり無いからしんどいよ…』


と焦りながらも、


『隣の屋台の親っさんが殴られる前に注意をコッチに向けないと!』


と、必死に象さんの前に歩み出る。


私はこの激オコ象さんに心当たりが有ったが、その人物に殴られる理由が全く思いつかなかったのだが彼は私を睨み付けながら、


「聞いたぜオーク野郎…確かに興奮して追い出した俺が悪かったのは確かだが、傷ついて行く宛の無いキタンを力ずくで汚して肉欲の奴隷にしては、てめぇの手足の様にこき使い貢がせる…

薄汚いヒモ野郎が!てめぇなんてアサルトボアのケツでも掘ってるのがお似合いなんだよ獣人族にも成れなかった猪崩れが!!」


と吠える…何ともまぁ、酷い言われようである。


『泣くぞ、良いのか?…本当に泣くぞ』


と私の中のリトルヤジルはもうダウン寸前だが、オークの血なのか必要以上に冷静な私もそこに同席しており、泣きそうなリトルヤジル君をなだめつつ、


『えっ、キタン君を汚したって?…汚したかったのに拒否られて追い出したのは象さん商会長だろうに…

なんだよ、肉欲の奴隷って…ひき肉にするアルバイトでコッチがキタン君に雇用されてるんだよ。

あと、なんで私がいきなりアサルトボアの肛門に挿入する事を薦められているんだ?』


と思う私は、


『とりあえず何か嫌味の一つでも言ってやろう!』


と考えて、象さんに向かい、


「キタン君を汚したと言うが、キタン君の体を汚そうとして拒否されて、その腹いせに即日解雇したのは象さんの方だろ?

発情期だったか知らないが、自分の下の象さんの管理も出来ないのなら飼い主失格だろ?野生に返してやれよ…その子象…」


と奴の股関を指さしながら私が考えられる最高の嫌味を言ってみたのだが、これが思いの外象さんのハートにクリーンヒットしたらしく、


「てめぇ!殺してやる!!」


と、私は正式な喧嘩に巻き込まれてしまったのだった。


騒ぎを聞いた野次馬が集まる中でやった事もないタイマンとやらを始めた私と象さんに、


「やれ!俺は象のオッサンに賭けるぜ!」


や、


「オークの兄ちゃん頑張れ、猫の彼氏を守ってやれ…」


などの方々から上がる勝手なヤジを聞き流しながら、私は


『先ずは力比べから…かな?』


と、イメージだけでタイマンのお作法も解らず、とりあえず象さんとガッチリと組み合ったのだが、


『アッチはズルいんだよ…コッチは両手ふさがれているのにアッチは鼻でビッタンビッタンとシバいてくるんだよ』


と私のハートの奥に住んでいるリトルヤジルが泣き出す結果になった。


私は結局初手からタコ殴りに合い鼻血を垂らしながら、一旦握っていた手を振りほどき、


『オデ、オマエ、シバク!』


とオーク族としての本能のままに突撃しようとした瞬間に、


「うおぃ!ヤジルの兄貴を虐めるな!!」


という声と共に買い出しから戻ったキタン君が象さんと私の間に割って入ると象さんが変な体制のままピタリと動きを止めたのだった。


『キタン君の能力か…』


と思ったのもつかの間、


「はい、そこまでだ!喧嘩をしていると報告を聞いた!!」


と、町の兵士の方々に取り押さえられた私と、キタン君の時間停止能力が切れて気がつけば地面に押さえつけられて制圧されていた象さんは、


『えっ、何で自分が連行されているんだ?』


という同じような表情のまま兵士の詰所に連れて行かれたのだった。


それから私は詰所にて今回の喧嘩の事情聴取を受けたのだが兵士の方々が、


『う~ん…話がどうも噛み合わない…』


と首を傾げながら私と象さんの部屋を行ったり来たりを繰り返しており、ようやく私も事情が掴めたのだが、どうやら象さんは発情期で興奮していたキタン君と同じように正常な判断が難しい状態の時にキタン君を解雇した事を発情期が終わってからかなり悔やんだらしく、奥さんが言っていた様に独り立ちの為の資金を渡すべきだったとキタン君の足取りを追ったのだそうだ。


象さんの間が悪く、キタン君が安宿に居ると聞いて見に行けば私達がザザ村に帰った後で見当たらず、ツクネサンドなる物を売っていると聞いて市場を探すが、


「昨日までは居たんだけど…」


という事を二度ほど繰り返して、やっと本日ツクネサンドの屋台を発見したのだそうだ。


情報を集める中でキタン君と出会ったあの日にあの宿で出会した冒険者達から、


「ロープで縛って部屋に連れて行った」


とか、


「青年は井戸で下半身裸で泣きながらパンツを洗っていた」


などと微妙に盛られた話を聞いた上で、今も私とキタン君が一緒に行動している事を知り、


『ヤバい奴に捕まった!』


と心配になった象さんの暴走らしいのだが、兵士さん達まで、


「あぁ、聞いた事があるよ。

獣人の青年を一晩中突きまくった男色オークってお前さんか…なんでも井戸場で泣きながら尻を洗っていたその青年を力ずくで部屋に連れて返り、そのテクニックで離れられない体にしちまったって、冒険者の中で噂になってるぜ」


と、私の身に覚えの無い私の噂話がアルカスの酒場を中心に自己増殖、自己進化を繰り返して今となっては元の姿が解らない状態まで来ているらしい…


『デビルなガンダム細胞かよ…』


と呆れる私だったが、その噂を信じた象さんにシバかれたからには対処を考えないと…というか、


「なんで私がキタン君と!?惚れても惚れられても無いし、ましてや掘っても掘られても無いっ!!」


と叫ぶ私の声は留置場の壁に染み込み、見張りの兵士さんに、


「はい、はい、一晩泊まったら明日には出られるから…静かにしてろ」


と宥められていたのだった。


翌朝一番にキタン君が身元保証人になってくれて釈放となった私だったが、象さんの方はいきなり暴力をふるったり、屋台を壊した事を周りの目撃者や近隣の屋台の店主さん達の証言からもう暫く反省の為に留置されるらしい。


『当然だ、そのまま実刑になって何年か入って牢屋の主にケツを掘られてガバガバにされたら良いのに…』


と、私は留置場の建物を睨みながら軽い呪いをかけておいたのだった。


そんなイラついている私に向かい、


「なんか、オイラの事で巻き込んじゃったみたいで…」


と、しょんぼりしているキタン君の隣には更に申し訳なさそうな顔で私に頭を下げる女性がいた。


『誰かな?』


と、全く知らない身なりの良い御婦人は象さんの奥さんで、キタン君のママさんの幼なじみの犬っぽい耳を持った殆ど人間タイプの獣人の女性であった。


「この度はウチの主人が…」


という彼女に、私は少し意地悪っぽく、


「えぇ、大変酷い目に会いました」


と、プンスカと不満顔の私は続けて、


「出来れば暴れない様に奥様が手綱を握って頂きたいですねっ!」


と言うと奥様はキタン君に、


「あら、キタン君の兄貴さんは昨日聞いていたより結構尻の穴の小さい人なのかしら?」


と、さっきまでの申し訳無さそうは表情など無かったかの様にキタン君経由で私に嫌味を返してきたのだった。


キタン君はコソッと私に近づいて、


「兄貴、ダメっすよ。奥様はハイエナの獣人ですから…肉食系っていうか、そこらの商人顔負けの切れ者で獲物と判断したら骨までイッちゃう系の女性ですので…」


と小声で私に伝えてきたのだった。


どうやら先程の申し訳無さそうな態度すらも計算ずくであったらしく、それで私が、


「いえ、いえ…そんな、頭を上げて下さい」


と言えば、旦那の暴走に悩まされる妻というポジションで話を進めるつもりだったのだろう。


『なんと強かな女性だろうか…』


と呆れてしまうが、しかし私が情に絆されないと判ると、


「けっ!小さい男が…」


と圧をかけてくる所を見ると彼女の本性としてはコッチが素なのだろうな…


『苦手だ…いや、なんなんだよ!悪いのはソッチでしょうが!!』


と考えてしまう私は本当に小さい男なのだろう…だが、この際小さい男でも構わないと腹をくくり嫌味を1ダース程着払いにてお届けするつもりで、


「スー」


っと息を吸い込んだ瞬間に、キタン君から、


「兄貴…奥様の口の悪いのは勘弁して欲しいっす…本当は気の優しい商会長さんが舐められない様に矢面に立って頑張ってきたのは奥様っすから…」


と彼女のかたを持つので、私は吸い込んだ空気をゆっくりと吐き出した後に、言いたかった嫌味をグッと飲み込む事にしたのだった。


その後にキタン君の元の職場である商会の部屋にてお茶をしながらお話をしたのだが、象さんは若い頃にキタン君のママさんに恋をしていたらしく、発情期のタイミングも相まってキタン君から大好きだった女性の雰囲気を感じてしまい象さんの象さんが辛抱タマラン事になったのが元凶であり、注意する立場のハイエナ奥様も発情期で冷静で無かったそうで、


「私の象さんも元気になっていたから頭に血が回らなかったのよね…」


というハイエナ奥様の言葉を聞いて、私は理解が追い付かずに、


「ほへっ?…私の象さんって、旦那が元気なら良いんじゃない??」


と首を傾げていたのだが、キタン君が小声で、


「兄貴、ある種類のハイエナのメスにも…付いてるんすよ…」


というのだが、私はそれを聞いてもピンと来なかったのでキタン君に、


「何が付いてるの?」


とアホみたいに普通の声量で聞いたのだが、キタン君はその質問を聞くと真っ赤になり口ごもってしまう。


そして見かねたのか奥様が、


「えっ、チ◯コだけど…」


と、さも当たり前かの様に答えたのだった。


一瞬私の周りの時空が歪んだ気がしたのだが、確かに奥様の口から「チ◯コ」という単語が飛び出し、私は驚きながらも今回は声を出さずにキタン君に、


『マジで?』


と聞く私に向かいキタン君がゆっくりと頷くのだった。


えっハイエナってメスにも付いてるんだ…象さん…

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