おう!
亀村結乃
おう!
気持ちのいい朝。
天気は晴れ、快晴だ。
桜もひらひらと舞い落ち、とても入学式らしい日となった。
俺が大学生になれたのはあいつのおかげだ。
あいつのためにも、心機一転して生きていこう。
あの日の約束を守るために。
「
「優希お前はやっぱりなんでもできるな!」
「
この言葉たちを俺は何度聞けばいいのだろうか。もう聞き飽きた。俺は、小さい頃から大体のことはなんでもできる人間だった。スポーツも勉強も料理だって大体はあっという間にできるようになった。いわゆるオールマイティというやつだ。最初は褒められるのが素直に嬉しかった。今はどうだろう?俺に、桜木優希にできないことはないかのように聞こえて、胸が苦しい。もうずっと。
「うき?優希!」
「ごめん修ぼーっとしてた」
「疲れてんじゃないの?今日はもういいから帰って休んだら?いや、違うね。何か悩んでるでしょ」
「なんも悩んでなんかねえよ。心配すんな。ていうか疲れてもねえし。ただでさえあんま来れねえのに帰るなんて勿体ねえだろ?」
「そっか。ありがとう!僕早く退院できるように頑張るよ。なんか悩みがあったらすぐ相談してね。」
「当たり前だ!」
「
「ごめん、優希。検査あるの忘れてた。また今度ね」
「ああ。じゃあまた」
「うん」
病室のドアが閉まる。それと同時に力が抜ける。限界かもな。しばらく立ち尽くしていると、自然と足が動いた。どこに向かっているのか俺にも分からない。辿り着いたのは病院の屋上だった。俺以外に人は居ない。運がいいな。ここで理解する。俺は死のうとしているのだと。柵を乗り越え、あとは飛び降りるだけ。それだけだったのに…
「優希。何してんだよ!」
「修?なんで?」
「忘れ物取りに戻ったら優希の荷物はあるのに優希が居ないからもしかしてと思って」
「それでなんでわかんだよ」
「思い詰めたような顔してたから。なぁそんなことするなよ早くこっちに来い」
「うるせえよ。お前はいいよな。病弱だからって心配されて。いつも優しくして貰えてよ。恵まれてていいなぁ。そんなお前に俺の気持ちなんかわかんねえんだよ」
「……」
「なんか言えよ。なあ」
「ふざけんなよ。恵まれてるのは優希の方だろ?小さい頃からなんでもできて、いつも褒められてて、しかも健康な体してるくせに。何が不満なんだよ。僕なんて体が弱くて運動もあんまりできないし勉強だって学校に行けないから自力で頑張るしかない。それでも頑張ってるのにみんなとの差がどんどん開いていって…そんな僕の気持ち優希にわかる?わかんないでしょ?苦しんでるのは優希だけじゃないんだよ?苦しいのに僕が今まで生きてきたのは心強い親友の優希が居たからなんだよ?僕に優希が居るってことは優希に僕が居るってこと。だから僕のために生きてよ優希」
涙が止まらない。俺は馬鹿だなぁ。俺より修の方がずっと苦しんでるに決まってるのに。
「ごめん修。ありがとう」
「助け合うのは当たり前のことだよ。ねえ、優希。来年同じ大学に入学しようよ。まだ時間は残ってるから今から勉強してもまだ間に合う。入学したらいろいろなことに挑戦しよう。優希がやった事ないこととか!絶対楽しいよ。約束な」
「ああ。約束だ」
この約束をしたあと俺たちは必死に勉強した。わからないところは互いに教え合い、何とか入学、そして今日迎えた入学式。何から挑戦しよう?迷うけれど、何に挑戦しても俺は大丈夫。だって俺には修が、修には俺が居るから。
「優希ーそろそろ行くよー」
「おう!」
おう! 亀村結乃 @yu0729
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます