063
「凄いな、ここが伏見稲荷大社か。豊川稲荷とは雰囲気が違うね」
「あっちは寺院でこっちは神社だしね」
様々な稲荷にレンは参拝してきたが、伏見稲荷は日本三大稲荷に必ず数えられる有名な稲荷神社の総本山だ。
三大稲荷というが、どうもその3つの選定はかなり説が分かれるらしい。
全国に稲荷を祀る神社や寺院は多く、大きな所はいくつもある。
そして豊川稲荷もその候補には入ってはいる。
伏見稲荷はその中でも別格で、候補ではなく確定だ。
(無理に3つに纏めなくてもいいんじゃないか)
と、レンは思うがまぁそれは良いだろう。
朱色に塗られた大きな鳥居を潜ると広い境内があり、すぐに大きな社が見える。
伏見稲荷大社前の商店街では様々なお土産が売られていて名物らしい雀やうずらの丸焼きも食べた。
「でもココで終わりじゃないんでしょ?」
「当然っ、稲荷山参拝コース全部回るよっ」
美咲はやる気満々で、元々の予定にも組み込まれている。
伏見稲荷大社は稲荷神社の総本山で、稲荷山全体にいくつも社がある。
有名な千本鳥居は千本と言うのにすでに万を超えているという話もある。
とりあえず鳥居が並んだ道を通り、伏見稲荷参拝の本格的な始まりだ。
エマやエアリスもこの不思議な光景に目を輝かせている。
外国人にも人気らしく、日本人でない海外の観光客も伏見稲荷には多い。
英語やフランス語、中国語や韓国語などがあちこちから聞こえてくる。
そして鳥居だけでなく狐の像も至るところにある。
お山巡りは2時間ほどのコースらしく、道もきちんと整備されている。と、言っても山道などで結構細い道や曲がりくねったりしていて、ハイキングという感じだ。
何本あるかわからない数の鳥居を抜けて山を西側から回っていく。
途中お堂があったりして1つ1つ祈っていく。
ところどころ狐霊らしき物がひょこりと顔を出している。
霊ではない野狐や気狐なども居たりするのだろうか。
おかしな集団に興味があるのか、美咲に興味があるのかちょっと遠くから見ているだけだが明らかに狐霊たちの注目をレンたちは集めていた。
稲荷山自体はそれほど大きな山でも高い山でもない。
山登りなど苦にしない魔力持ちのメンバーはあちこちの狐の像や景色を楽しみながら山頂の一ノ峰上社に辿り着き、祈りを捧げる。
さらにぐるっと回って八島ヶ池近くの茶寮で休憩する。
混んでいたので護衛連中は外で待たせ、少女たちとレンたちだけで甘味とお茶を楽しむ。
「レンっち楽しい?」
「うん、楽しんでるよ。聖気に満ちた良い山だね。狐の霊がひょこひょこ顔を出してて可愛いし」
「可愛いよね~。そういえば管狐ちゃん、大事にしてくれてる?」
「うん、戦闘で使ったりはしてないけど葵と一緒に可愛がってるよ。いつの間にかクーちゃんって呼び名が着いちゃったけど」
「可愛いですよね。こっちのはキーちゃんですよ」
美咲に貰った管狐たちもひょこりと顔を出す。美咲が飼っている管狐と仲良くにょろにょろと身体をくっつけあって嬉しそうだ。
レンたちの魔力を吸っているからか貰った時よりも強力な個体になっているが、めちゃくちゃ強いというわけではない。
好奇心旺盛でよく出してくれと言われるので自宅や玖条ビル内では自由にさせている。実は玖条ビル内でも人気のマスコットだ。
特にくノ一たちや蒼牙や黒縄の子供たちに可愛がられている。
お山巡りも2時間も掛からずに終了し、帰りに土産物屋で買い物をしたら夏休みの伊勢、熊野、奈良、京都旅行は終わりだ。
レンはまだ依頼が残っているが、観光が無事に終わって良かったとレンは思った。
「じゃぁレンくん、無理はしないでね」
「レンくん、うぅぅ、あたしも残りたかった」
『レン、ちゃんと帰って来なさいよね』
「レン、無事でね?」
帰宅する水琴、楓、エマ、エアリスと別れの挨拶をする。
と、言っても楓はともかくレンは依頼が終わって家に帰れば水琴、エマ、エアリスとはかなり頻繁に顔を合わせる間柄だ。
「さて、じゃぁ行こうか」
豊川家が用意してくれた拠点はそこそこの規模の家だった。
屋敷というほどではないが大きな家だ。
豊川家に恩のある京都の家が所有する物件らしいが、必要な家具は揃っているし、たくさんの布団も用意されている。駐車場も大きい。
京都市街の中心からは少し離れているが、静かで良い家だと普通に思う。
「じゃぁこれからは仕事だ。蒼牙たちは拠点の警備を豊川、水無月家の者たちとちゃんと相談してやってくれ。黒縄は情報収集と三枝家を探ってくれ。高杉弘大を見つけたら見張って怪しげなことをしていたら身柄を攫ってしまおう。本人に聞くのが1番だし、おかしなことをしてないならそのまま解放して調査は終了だ」
「わかりました」
重蔵が仕事モードで答える。最低限の人員を残して蒼牙と黒縄は京都に集めた。
せっかくの旅行中だったのだ。おかしな依頼などさっさと済ましてしまうに限る。
京都の印象はよくこの狭い土地にこんなに寺院や神社を建てたなと言う印象だ。そして盆地だからか暑く、観光客が多いので人口密度も高い。
更に魔力持ちが多くて微妙に緊張する。
少なくとも遊びに来るなら良いが住みたいとは思えない。
貴船山なんかはかなり好みの雰囲気だったし鞍馬山も良かった。
大社と呼ばれる総本社や寺院の総本山も京都奈良には多い。
春日大社や伏見稲荷大社、北野天満宮など見どころも多かった。
元は天皇の住む地であり、室町幕府の本拠でもあった。
平安京はしっかりと計画を立てて作られた都市であり、東京遷都まで日本の首都だった土地だ。
街全体が陰陽道を基礎に結界を作り出している。
だがその分怨念がこもりやすく、怨霊が多くて他の土地よりも強いという話も聞いた。
実際日本三大怨霊のうち2柱は京都で祀られている。
北野天満宮は菅原道真を祀る神社である。崇徳上皇を祀る白峰神社も参拝した。
菅原道真も崇徳上皇も歴史を紐解くと、周囲の権力者たちの権力争いに巻き込まれて恨みに思って怨霊になっただけで、元々めちゃくちゃ悪人だったとかそういうわけではない。
権力争いに敗れた後は讃岐に流され、写本した経典を「呪詛が込められているのではないか」などと疑い送り返すなど恨まれても当然だ。
実際三大怨霊以外にも怨霊として有名な者は天皇家関連が非常に多い。
(強力な魔力持ちが恨みを抱いて死んで魔物になるのはどっちの世界も変わらないんだな)
レイスやリッチなどレンは魔物として認識しているが、魔術士などが外法を使って変化する例も多かった。
自然と恨みが晴らせずに魔物化する者もいるが、術士たちが死ぬ間際に外法で自身をアンデッド化して死霊として復活しようとする死霊術などもあったのだ。
しかし中途半端な術士が手を出すと大概は失敗して自我や意識が希薄になり、単なる迷惑な魔物と化す。
だが死を前にした術士たちはその誘惑に抗えず、どうせ死ぬのならと試すだけ試して迷惑な魔物となるケースが後を絶たない。
逆に強力な魔導士がその国の王に冤罪で疑われ、暗殺された後、強力な死霊王と成ってその小国を滅ぼし、死者の国を作ったことなどもあった。
ちなみにレンの記憶ではその死者の国はまだ現存していて、魔境として近づいてはいけない場所として認識されている。
興味に惹かれてこっそり見に行ったが、強力な死霊王と殺された国民や王族などの死霊が彷徨うまさに魔境だった。
死霊王を討伐しに行ったわけでもないので、死霊王と仲良くなり、酒を酌み交わしたものだ。
死霊王は恨みを晴らした後は理性を取り戻し、不死者として生前から続けていた魔術の研究を続ける研究者として研究を続けていて話が合ったのだ。
「それで、灯火と美咲はどうするの?」
「うちはレンっちの指示に従えって言われてるよ?」
「うちも似たような感じね。とりあえず弘大さんを元々引き取っていた家に問い合わせてみるとは言ってたけど、具体的な指示はないわ」
「むしろ危ないかも知れないから帰って欲しいんだけどなぁ」
最後の言葉がレンの本音だ。
灯火と美咲だけでなく、水無月家と豊川家からも人員がいる。
むしろ彼らがいない方がレンは自由に自身の術や魔道具を使える。
邪魔とまでは行かないが、彼らに見せたくない術や魔剣などを使いづらいので制限が掛かるのだ。
それに灯火や美咲が危険な目に合う可能性もある。
(それに美咲はともかく灯火や水無月家は絶対別の目的あるよね)
京都に残り、レンの補佐をさせると言うが灯火はまだ女子高生だ。
豊川家から依頼を受けたわけでもない。
ココに残る理由がかなり弱い。ということは別の狙いがあるというわけだ。
(何か知らない情報でも握ってるか、僕の秘密でも探りたいのかな)
去年の夏休み。襲撃を知っていて諏訪旅行を決行したことに水無月家が絡んでいないわけがない。鈴木などの一部の水無月家護衛はレンに対し高圧的だった。
あの時の主目的ははっきりしないが、レンを危険視していた勢力が今回の旅行を利用してレンの力や性格を図ろうとしていた意図がないとは思わない。
「うちはちゃんとレンっちの役に立つもんね! ねっ、瑠華、瑠奈」
「私も頑張るわ」
大人たちの思惑はともかく美咲と灯火はやる気が漲っている
「まずは情報収集だから今日はデリバリーでも取って食事にしよう。あくまで調査依頼だからね? 勝手に動かないでね。あと護衛の皆さんはお嬢様の護衛に徹してくださいね」
「「「はいっ」」」
(でも今回の水無月家の人たちは良い人多いんだよな。間諜っぽい人も居ないし)
レンに対しての態度も旅行中の行動もおかしなことはなかった。
それが本来の使用人兼護衛の役目だと思っているのでそれで良い。
レンの目をかい潜るほどの凄腕の間諜が居るならわざわざこの旅行に便乗せずとも、この1年以上の期間でとっくに色々と探られているだろう。
「レン様、ここ美味しそうですよ」
タブレットで近所の配達してくれる料理屋を葵が勧めてくる。
料亭や京都料理も楽しんだが葵が勧めて来たのはなぜかイタリアンだった。
だが確かに美味しそうだし評価も高い。
「じゃぁそこに頼もうか。全員分だからかなりの量になるけど……」
「護衛たちの分は別の店に頼みましょう」
「そうだね」
蒼牙や黒縄を呼び寄せたし、水無月家豊川家も居る。なんだかんだで50人に近い人数だ。
1つの店に一気に注文を寄越すと売上的にはともかく大変だろう。
レン、灯火、美咲、葵と瑠華と瑠奈をあわせた6人はイタリアンでいくつか料理を選び、護衛たちにはそれぞれローテーションで食事を取るようにいいつけた。
レンたちが情報収集を主にして2日が経った。
いくつかわかったことがある。1つが高杉弘大は怨霊退治の道具のようにされているようだということ。
弘大が次に動くのは今日か明日あたりの可能性が高いこと。
三枝家は警備レベルが高く、あまり探れなかった。
だが警備レベルが高くなったのはここ数ヶ月の話で、以前はそんなことはなかったという。
つまり何かしら密かに行っている可能性が高いと言うことだ。
弘大自身は特に名の知れた術士というわけではないらしい。
三枝家に引き取られた時は情報屋界隈で多少噂になったそうだが、魂蔵持ちであるという情報すら情報屋は掴んでいなかった。
知っていた藤が異常なだけであって自身の手札を晒す阿呆はそう居ない。
「動いたそうです」
「じゃぁ行こうか」
幸いにして見張らせて居た者たちから弘大と数人が動きを見せたとの連絡が入る。
昼間に敷地を出て買い物をするなどの怪しさのない行動をしていたが、夜遅くに目立たない装備を整えて部隊で動いたというのだから怪しいことこの上ない。
レンたちは人数を絞り、弘大が動いた先で何をしているのか調べに行くことにした。
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