第9話 モンスター化

「駆除?」

「そう。これは、人を卵に変える新種のウイルスみたいなものなのかな。このせいで学校中、大パニック。ほとんどの生徒と教師が一瞬でお陀仏」


 南無南無と、ちゃらけた様子で笑いながら、伊紙川はまたバットを振り上げ始めた。


「や、やめろよ! 今の話が本当なら、お前がさっき割ったのも」

「架川くんたちのクラスメイトだよ」


 にこにこと笑いながら、伊紙川はまたガシャリと周囲の卵を叩き割っていく。なんだこいつ? この事態に乗じて人殺しってことか?


「なんだこいつ? この事態に乗じて人殺しってことか? ……ってきっと今考えてたよね」

「!」

「人殺しなんて労力と成果が見合わないものに、興味はない。だからくれぐれも僕を止めようとか考えないでほしい、なんなら手伝ってほしいぐらいだ」

「手伝う?」

「そうだよ、駆除って言ってんじゃん」


 伊紙川は再度、バットを振り下ろした。その辺りは、朝まで那賀野たちのグループが座っていた席だった。


「な……なんだこれ……」


 次に伊紙川が割った卵から出てきたのは白身や黄身ではなかった。黒いゼリー状の雛鳥のようなものが、べちゃりと床に落ちていた。


「早めに殺さないと、化け物になって孵化ふかするってことだ」


 伊紙川は黒い雛鳥のような物体を踏みつける。


 なんなんだよこいつ、元からこのウイルスや化け物について知ってたのか?


「卵になって孵化して、化け物になった奴を見た。放っておいたら化け物だらけになってさ、いよいよやばいかなって」


 さっきから人の心でも読めるのかってぐらい、伊紙川は俺の思ったことにすぐ返答してくる。状況の飲み込み具合も、今している行動もそうだし、やはりこいつは常人じゃない。


「お前が見たのって、黒い毛の、顔が鳥みたいな化け物のことか?」

「そう、あの化け物に襲われると、みんな同じ化け物になるってこと。こんな風にね」


 こんな風?


 伊紙川の言葉に疑問を持つのと、俺がヨル子に突き飛ばされたのは、ほぼ同じタイミングのことだった。

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ダンジョンバトルツアー〜魔族が建設したダンジョンを壊して回るのが課題です〜 もぐもぐはむ夫 @mogumogu8686

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