第8話 駆除だよ
「遊……」
ヨル子は今にも泣き出しそうな顔で、俺の方を見上げた。近くにあの化け物の気配はない……はずだ。俺は周囲へ警戒しながら、ヨル子の方へ駆けつけた。
「大丈夫か?」
「遊、私……」
ヨル子は動揺した様子で、酷く震えている。ヨル子の視線の先……俺たちのクラスの教室を見て、俺はそこでようやくこの学校の異変の正体を知った。
「なんだよこれ……」
目の前の景色は、あまりにも異様だった。
その異様さに自分が今見ている景色が現実なのか? 非現実なのか?
そんな簡単なことすら判断がつかなくなっていた。
「卵……」
俺たちの目の前に広がるのは、何十個もの卵だった。
それも、人間の大きさほどの、巨大な卵だ。青白く、手術室を彷彿とさせるような不気味な色をしている。
巨大な卵が、俺たちの教室中に並んでいた。そしてなぜかどの卵も丁寧に椅子の上に乗っているのだ。その席にいつも座っていた人間の代わりに。
「こ、この卵の像、なんだよ……? クラスの奴らはどこに行ったんだ」
俺の問いかけに、ヨル子はためらった様子を見せたが、絞り出すような声で、到底信じ難い事実を告げたのだ。
「その卵は、クラスのみんな……」
「卵が、クラスの奴ら……?」
有り得ない事実のはずなのに、言われてみると、否定するよりも受け入れるしかない証拠の方が揃っている。
椅子の上に綺麗に並んだ、クラスの人数分ほどの卵。入れ替わるように消えたクラスの連中。
「!?」
ガシャンと大きな音が教室中に響き渡り、俺たちは動きを止めた。
「誰だ!?」
俺たちの居る方とは反対側の扉から、誰かが入ってくる音がした。
「お前、それって……」
入ってきたのは、伊紙川藍人だった。
なぜ伊紙川がここに居るのかということより、伊紙川が今にも振り下ろされそうとしているバットの方が、真っ先に俺の目に入った。
「おい、やめろ!!」
俺の止める声も届かず、伊紙川の振り下ろしたバットは、卵をかち割った。割れた卵からだらりと白身と黄身が流れ落ち、伊紙川は無表情のまま、その黄身を踏み潰した。
ヨル子の話が本当なら、その卵はクラスの奴らのわけで、それなら伊紙川が今、壊して踏み潰したものは?
考えただけで胸の底から胃液がのぼってきて、えづきそうになった。
「あ、架川くんに秋多さん、今日は奇遇だね、よく会うなあ」
俺たちに気づいた伊紙川は、今日保健室で会った時と同じような調子で、俺たちに手を振ってきたのだった。その顔や服には飛び跳ねた白身や黄身が付着している。
その伊紙川の様子にぞっとする嫌悪感と、この状況下でも尚変わらない態度への安心感、どちらも湧いてきて、頭の整理が追いつかない。
「お前、一体何して……」
そこでやっと絞り出せた言葉がこれだ。
「何って、駆除だよ」
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