第7話 そして物語は冒頭に戻る




(ヨル子……)


 父さんの盗作疑惑に関するニュースが出てから、一気にみんなの態度が変わった時、ヨル子だけは以前から何も変わらなかったんだ。


 俺が那賀野たちのいじめの標的になったことも影響してか、クラスでつるんでいた奴も、部活で特に仲の良かった奴も、みんなに距離を置かれた。


 父さんの事件やいじめだけでなく、俺の日頃の自分の態度や振る舞いも影響していたのかなと思った。自分の存在価値が俺自身わからなくなっていったんだ。


(何か武器や盾になるもの……)


 学校の正面玄関に移動し、俺は傘立てに目をつけた。なるべく頑丈で大きい傘を二つ選んだ。あの化け物にこんな傘で対抗できるかわからないが、ないよりはマシだと思った。


 俺はてっきり校舎は阿鼻叫喚にでも包まれ、大パニックになってるのではないかと思っていたが、想像と違い、休日のように静まり返っていた。普段の授業の時よりも静かなぐらいだ。


「……」


 俺は全神経を集中させながら、校舎に足を踏み入れて行った。俺たちのクラスの校舎は三階にある。保健室付近にはまださっきの化け物が居るかもしれないから、保健室とは逆側の階段から上がりたい。


(……なんだこの破片?)


 階段に向かいながら、俺は廊下に散らばる白い破片に気づいた。辺りを見回しても校舎が壊れているわけではなさそうだ。


 そう言えばあれだけあの化け物は、保健室で暴れていたが、あまり今進んでいる限り、校舎は壊れている様子はない。保健室の反対側には化け物が来ていないと思っていいのだろうか。


(液体?)


 校舎は壊れてはいないが、不自然な様子はあった。一階と二階を繋ぐ階段の踊り場へ進むと、例の破片と、さらにぬるりとした透明の液体が飛び散っていた。


 液体はどうやら二階の廊下から、この踊り場まで流れ落ちてきえいるようだ。


 俺は踏まないようにしながら、音を立てないよう慎重に階段を上がっていった。


(!? なんだこれ……)


 二階の教室が並ぶ廊下を見ると、階段の数なんて比にならないぐらい、破片と液体の海のようになっている。どことなく生臭いにおいがする……。


 気持ち悪さにえづきたくなったが、我慢して俺は三階へと歩みを進めた。


 三階も二階と同じ状態で、破片と液体が飛び散らかっている。


「っヨル子!」


 そして俺は俺たちのクラスの前で、座り込んでいるヨル子の姿を見つけた。

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