第3話 架川遊(2)

「っきったねえな!」

「汚いのはどっちよ……遊の机にあんなこと書いたのあんたでしょ! 拭きなさいよ!」


 剃り込みの入った金髪頭の不良・那賀野ながのは、ヨル子に投げつけられた雑巾を、俺に目掛けて投げ返してきた。べしょりと生乾きの雑巾が俺の顔にかかる。那賀野はこの学校の不良たちのリーダー格で、いつもいばり散らかしてる感じの悪い奴だ。


「秋多、お前やっぱりその泥棒野郎のことが好きなのかよ」

「ヨル子ー、そんな男やめときなって」


 那賀野と取り巻きの連中がゲラゲラとヨル子を嘲笑う。クラスの他の奴らは黙りながら、関わりたくなさそうに俯いた。


「そんなんじゃない、遊は大切な友達なだけ! 遊も、遊のお父さんも泥棒じゃないって何度も言ってるでしょ!」

「いい加減受け入れろよ、あんなニュースになってんだからよう、有名作家様の作品を盗作ってな!」

「……」


 俺が那賀野たちから目をつけられるようになったのは先月のニュースがきっかけだった。


 俺の父親であり、小説作家である架川恭介かがわきょうすけが、盗作をしたというニュースだ。


 父さんの作品と同じ時期に出た、他の出版社の単行本は、登場人物の名前は違えど、ほぼ同じストーリーの作品だったのだ。


「父さんは……泥棒なんかじゃない……」


 俺は投げつけられた雑巾を握り締めながら、やり場のない怒りに震えていた。


 俺は知っていたから。父さんが盗んだ側でなく、盗まれた側だと。


「泥棒だろ、だから俺がやりましたって遺書を遺して自殺したんだろ!」


 どかっと那賀野と、周りの連中が笑った。笑い声よりも、遺書を握ったまま、机に伏して死んでいた父さんの姿を思い出し、目の前が暗くなっていった。ああだめだ、吐き気が込み上げてくる。


「!? 遊!!」


 課題による寝不足と疲れていたこともあったのだろう。駆け寄ってくるヨル子の姿が、うっすら最後に視界に入りながら、俺は意識を手放した。

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