第2話

皆様、「夏休みの課題」という名の、先生からの素敵な贈り物をいただいたことはあるだろうか。多くの人は素敵な、「学校で会えるサンタさん」により配られてきたはずなのだ。そう、それがたとえ受け取り拒否したとしても、だ。


無料タダで配られて、これほど嬉しくならないものは課題こやつ以外に思い当たらない。街頭で渡された広告入りのティッシュのほうが遥かに幸せな気持ちになれる。あの渡された際の、手の中に納まる軽やかな感触。

あれに比べたら、課題コレがどんなにずっしりと重く感じることか…

まったく、同じ紙きれのくせしてこれほど違うなんて、信じがたい話だ。


課題コレが、神社の「おもかる石」のように「軽く感じたなら願いが叶う」と言われていたならどれほどよかっただろうか。


残念ながら、非常に残念ながら課題コレに関してはは重さと労力は比例しない。

たとえ軽くても、安心して油断するにはまだ早い。

たとえ薄いプリント数枚であっても、とんでもなく時間くろうのかかるレポートのときだってある。信じてはならない存在なのだ。


このような物騒、かつ卑怯な「課題ブツ」でも、先生ブラックサンタは笑顔で手渡してくるのである。

「大人ってのは汚い手を使うものなんだよ」といったのは誰だったか。

今になって実感している。まったくもってその通りだ。悪気のない子供ほど質の悪いものがないなんていうように、これほど質の悪いものはない。


その笑顔に騙されてはならないのだ。

いつもは、よく気にかけてくれているような先生でも、だ。信じてはならぬ。


吾輩は忘れていない。

「高校3年生は、受験で忙しいからね。課題ここに時間使うわけにもいかないだろうし。ちゃんと軽めだから安心してね」

あの言葉を。終業式で聞いた、「なんて慈悲深いのか」と感動したあの言葉を。

忘れていないのだ。


歴史は、過ちは繰り返されるらしい。

だから吾輩はここにしっかりと書き記しておこう。

「油断するにはまだ早い。」と


一つ目が終わった。世界史のプリントであった。

これは確かに「慈悲」のかけらを感じとれた、かもしれない。


二つ目が終わった。今度は古典の問題であった。ここには「受験にも活きる実用性」という確かな慈悲と生徒の将来を思う心があった。


あったのだ。確かにあったのだ。三つ目までは。

三つ目はパンドラの箱だったのだ。期限直前から開けてはならない、禁断の箱だったのだ。


そう、あのゆかいな家族が出演する国民的アニメの、野球少年だって。

孫に甘いおじいちゃんがいる少女だって。


課題は「紙媒体」であったのだ。

時間にシビアではない、「紙」で提出なのだ。

ぶっちゃけてしまえば「新学期の始業式が終わるまで」は執行猶予があったのだ。


だからこそ失念していた。そう、今は、現代は

情報のデジタル化が進み、世界の一体化グローバル化が加速していることを。

そうなのだ。「課題」の締め切りは、時間ピッタリ。

数秒の誤差さえもない、8月31日23:59であるということを。

その時点で提出できていなかったウォンテッドは、サーバーに「未提出」の証拠が残っており、どうあがいても逃れることはできないのだ。


「解いたのですが、自宅に忘れてしまいまして…」は通用しない時代になったのだ。

なってしまったのだ。


今日この日ほど、デジタル社会を恨めしく思ったことはない。

吾輩は今までは、いい時代に生まれて本当によかった。と、そう思っていたのだ。

デジタル社会がなんだかんだと気に入っていたのだ。

しかし、今となってはこのありさまだ。



世界は残酷だ。君もそう思わないか。

未来の子供たちのためにも、時間に縛られすぎていると声を上げたいところだ。

しかし、非は間違いなく吾輩にある。


こんなとき、AIが助けてくれるのならどれほどよかったことだろう。

人工知能AIにレポートの作成も頼める時代だ。彼らは賢い。あっという間に指定の文字数・単語通りのものを作ってくれる。

これを活用すれば、あのような「取り返しのつかない過ち」は起こらなかったのか。


いいや。

あのパンドラの箱には、人工知能こいつらすらも敵わない恐るべきものが潜んでいたのだ。


そう。その禁じ手こそが、「授業動画の視聴」だったのだ。

どうやらご丁寧に「視聴時間も表示」されるらしい。

…倍速で視聴しよう作戦は始めるよりも前から破綻してしまった。


トドメの「視聴後にチェックテスト」というおまけつき。

言わずもがな、チェックテストはオンラインだ。吾輩の正答率も、回答も、入力した時刻すらも筒抜けなのである。こうなってはなすすべもない。受け入れなくてはならないのだ。


そして、ただ夜明けを待つだけだった。

そうだな、今こそあの名著タイトルを叫ぼうではないか。

ああ無情レ・ミゼラブル

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