第38話「幼馴染がいる学校生活」
「…………」
黒髪ロングの、和風美人な転校生。
早速クラスメイトに囲まれる羽月を、遠くから眺めていた。
「流石の僕も、こんな事態は予測してなかったな……」
同情するように、肩をポンッと叩く朔也。
「ねぇ、三峰君。これ、どういうこと?」
白久さんがなんか怖い。
「俺だって知らないよ……。まさかこんな形で再会する羽目になるなんて……」
また会おうって言葉の意味が、こんなことだなんて誰が予想できる?
「しかも、知り合いだからっていう理由で強制的に隣の席になったからね」
定期試験後恒例の席替えのついでに、羽月の面倒を見るようにという理由で、強制的に羽月が隣の席になってしまった。
「どうするの、三峰君」
「どうするって言われても、どうしようもないだろ。いくら羽月でも、ここでことを構えるようなことはしないだろうし」
「……そうだよね、じゃあしばらくは様子見かな」
一旦はそれで納得してくれる白久さん。
そんな間にも、羽月はクラスメイトたちからの質問攻めにあっていた。
「そ、それでー……」
「なにかしら?」
「三峰君とは、どういう関係、なの……?」
クラスメイトの一人が、とうとう踏み込んだ。
その質問には、俺も聞き耳を立てる。
羽月は一体どういう返答をする?
「一言で言えば、幼馴染ね。匠はワタシの家の道場の、門下生だったの」
ほっ、ひとまず変なことは口走らなかったか……。
「幼馴染?」
「そうよ。四歳からの付き合いで、五年前まではずっと一緒だったわ」
「ずっと、とは?」
「そのままの意味よ。衣食住、ずっと一緒。お風呂だって一緒に入っていたし」
「「「「「お風呂⁉︎」」」」」
「ブフッ⁉︎」
だめだこいつ、早くなんとかしないと。
「おい羽月!」
「なによ、匠」
「もう少し言うことは考えてから……」
「事実でしょ? 寝る時だって一緒の布団に──」
「わーわーっ! やめろやめろ!」
慌てて羽月の口を塞ぐ。これ以上放っておいたらなにを言い出すかわかったもんじゃない。
「あ……」
つい昔の癖でやってしまった……。
周囲からの、異常に冷ややかな視線を感じる。
少し離れて位置にいる朔也は大笑いして、その隣にいる白久さんは誰よりも凍てついた表情をこちらに向けてきていた。
「何を騒いでるんだ? 授業を始め……なんだこの空気は」
一限目の科目の先生が教室に入ってきたおかげで、この微妙な空気は強制的に霧散された。
「ねぇ、匠」
授業が始まってすぐに肩をつついてくる羽月。
「教科書見せて、ワタシが使ってたものとは違うみたいだから」
「あぁ、うん」
机を寄せて、二人で見れるように教科書を広げる。
(結構真面目だな……)
真剣に教科書と黒板を見て、ノートを取る羽月。
昔は『勉強したくない宿題写させて』の一点張りだったのに。
「っ……」
羽月が身を乗り出してくるせいで、身体が密着する。
白久さんとは違う、甘くて優しい匂い。鍛えているにもかかわらず、密着している部分から分かる身体の柔らかさ。
今まで意識したことのなかった、羽月の女の子の部分に、一瞬心臓が跳ねる。
「……ん?」
気を紛らわせるために顔を上げると、周囲(特に男子から)の恨めしいと言わんばかりの視線が飛んできていた。
「…………」
白久さんの時以上に、居心地が悪い……。
そんな時間が二限目以降も続いて、ようやくお昼休みになる。
「疲れた……」
こんなに精神的に疲れたのは久しぶりだ。
「森口さん! 一緒にお昼食べに行こう?」
隣の羽月は、お昼休みだけでも一緒に過ごそうと、クラスメイトたちが取り囲む。
彼らに圧迫される形で自席から弾き飛ばされて、静かに教室から出ようとするが、
「どこへ行くの、匠」
集団の中から呼び止められる。
「お昼ご飯、匠も一緒に食べましょう? みんなもいいかしら?」
「そ、それはもちろん」
「大丈夫ですよ……」
主役の羽月に言われたら、そりゃ誰も断れないよな。
……こうなったら、俺も逃げられないし。
「私も一緒していいですか?」
その輪の中に白久さんも入ってくる。
「……えぇ、もちろん」
「ありがとう、森口さん」
……え、なんだこの空気。
二人とも、笑顔なのに、なんか怖い。
「そろそろ行こう、食堂の席がなくなっちゃう」
他のクラスメイトが号令して、みんなでゾロゾロと移動し始めた。
羽月の周囲をクラスメイトが囲んで移動する、その姿はまるでオタサーの姫そのものだ。
「っ──」
なぜお前が、羽月と仲良くしているんだ。ただでさえ白久さんとも仲良くしてるのに。
そんな意味が混じった、突き刺さるような視線がそこら中から飛んできて、目を明後日の方向にそらす。
羽月は幼馴染なんだからしょうがないだろう、なんて言い訳は通用しない。
「なんかデジャブだ」
前にも似たようなことがあったっけ。
「はぁ……早く放課後にならないかな」
ため息を吐きながら、彼らの視線に耐えるしかなかった。
*
「なんでこうなった?」
右側に羽月が、左側に白久さんがいる。
二人とも別々に会話しているのに、ふと目を合わせるとキッと視線が鋭くなる。
なんだか妙なプレッシャーに挟まれて、ご飯が喉を通らない。
「それにしても、匠がお弁当を作っているなんて思わなかった」
「あ、あぁ。まぁね」
俺が作ってるというか、白久さんが作っていて、そのおこぼれをもらっているというか。
でもそれをこんな人前で言うわけにはいかないからなぁ。
「ま、健康には気をつけてるってことだ」
「匠にしては意外ね、でも感心したわ」
「なんで上から目線なんだよ」
その言葉を聞いて、白久さんが小さく笑いながら顔を向けてくる。
「(私のおかげだよね、勝った!)」
「?」
一体何に勝ったんだ?
「でも、ここの食堂ってメニューが多いのね、ワタシがいた高校ではそんなことはなかったのに」
「先生たちも利用するからな、ここ。そのせいか、先生たちの方が食堂に力を入れることに積極的だ」
「やっぱり都会に近いと、そういう自由度が高くなるの?」
「羽月が通ってた高校って、やっぱりあそこか?」
「そうよ」
「そりゃそうか。道場の近くだと、ほとんど選択肢ないしなぁ。それに羽月はわざわざ遠くまで行こうとはしないだろうしな」
道場に通っていたほとんどの学生が、同じ道を辿るからな。
「そうだ。大野さん、ちゃんと大学に受かったわよ」
「そうなのか、あの人あんまり勉強できないイメージだったけど……」
「師範に怒られてた、勉強しろって。一時期、剣道場出禁になったくらいだし」
「あぁ、そういうことか」
あの人なら、それくらいのことはするよなぁ。
「……あ」
またやってしまった。
周囲からの冷ややかな視線で、我に返る。
「本当に、三峰くんと仲がいいんだね……」
「まぁ……」
「そうね、幼馴染だから」
羽月は幼馴染って言葉を、便利に使いすぎじゃないかな。
「森口さんって──」
他の質問が羽月に飛んできて、それに応える。
「……ん?」
「(負けた……)」
隣の白久さんが暗く沈んでいた。
一体何に負けたんだ?
*
お昼休みはワイワイと賑やかな中で過ぎていって、五限目、六限目と授業が続く。
「これで終わりか」
六限目の後のホームルームが終わって、大きく背伸びをする。
「さて、匠。帰りもホームルームも終わったことだし、そろそろ案内して欲しいのだけど」
「案内?」
「決まってるでしょう? あなたが剣の腕を磨いている、剣道部に」
「は、い?」
想定外のことを言われて、一瞬思考が止まる。
「どうして驚いているの?」
「だって俺、別に剣道部に所属してるわけじゃないし……」
「え? そうなの? どうして?」
「どうしてって言われても、逆になんで俺が剣道部に所属してると思った?」
「決まってるでしょう? 剣道部しか、剣を鍛えられる場所がないからよ。それに、この学校の剣道部は、それなりに実力があるって聞いたから」
「なるほど……」
確かに、この学校の剣道部は、毎年ちゃんと成績を残している。
特に今年主将の黒谷さんは、今年は全国大会に進むだろうと確信されているほどの腕だそうだ。
剣道のルール下で戦ったら、俺も勝てるかわからない。
「でも俺は剣道部には入ってないよ。ずっと、ダンジョン攻略にかかりきりだから」
今の剣の腕は、全て実戦で培っている。
「そうなのね。でもここの剣道部には興味があるから、連れていってもらえる?」
「いいけども、俺は剣道部にツテがあるわけじゃないからな?」
「連れていってくれれば十分よ、他のことは自分でできるから」
「わかった」
荷物をまとめて、一緒に廊下を歩いていく。
「それ、防具か?」
キャリーカートに乗せている、かなり大きめな袋。肩には竹刀入れも担いでいる。
「運ぶの、手伝うか?」
「これくらいは大丈夫よ」
そのまま体育館の一階にある剣道場に案内すると、
「初めまして、森口羽月といいます。早速ですが、ワタシとお手合わせしていただけませんか?」
……初手から喧嘩を売る羽月だった。
*
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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