第二章:ダンジョンを斬り裂く二振りの刀

第31話「一度バズると、真似する輩は必ず出てくる」

「どうもこんばんわ、タクミです。本日もダンジョン攻略に挑んでいくので、どうぞよろしく」


 短い挨拶をドローンのカメラにする。


:相変わらずのそっけない挨拶だ


:でも、なんかもう慣れた


:むしろこれじゃないと落ち着かない


:今更方針転換されても気持ち悪いだけだしな


 ホログラムに映し出されたチャット欄では、ハイスピードでコメントが流れていく。


 同接数三万人、配信を開始したばかりにしては、かなり多い数だろう。


「タクミ君の配信を見ているみなさんもこんにちは! みんなの熱気を昇華して、戦場に降り注ぐ氷の女神! ダンジョンストリーマーのミハルです。今日もよろしくお願いしますっ!」


 ドローンのカメラに映るように、白久さんが隣に入ってくる。


 こうして二人一緒に配信の画面に映るのも、すっかり恒例となった。


「さてと、それじゃあ行きますか」


「小規模なダンジョンだけど、油断しないように行ってきます」


 この場に集まったレイドメンバーたちの確認もしてから、ダンジョンへと潜っていく。


 赤暗い光が降り注ぐ異界の地、降り立つとすぐに遠くから、モンスターの集団が駆けてくる光景が見えた。


「早速お出ましか」


「まだボスモンスターは……いないみたいだけど」


「ひとまずはセオリー通りに魔法で牽制を……」


「いやっ!」


「俺たちに任せてくれ!」


「⁉︎」


 レイドメンバーたちの後方から、急に前に飛び出てくる二人の男子。


 しかも、二人の腰には。


「……ねぇ、あれって」


「鞘、だな……」


 俺と同じように、鞘を携えている。


 そんな二人は鞘から刀を抜いて、


「レッドスライディング!」


「ライトニングソニック!」


 同時に魔法を発動し、その力を剣に


 その様相は、どこかの漫画で見たようなものと瓜二つ。


「どうですか! 俺たちの力は!」


「剣で戦えるのはあんただけじゃないんですよ!」


 魔法を剣に宿して戦う、そんなことができるやつが他にもいるなんて思わなかった。


 いや、理論上は可能なんだろうし、今までやろうとした人がいなかったってだけか。


 確かにあれなら、剣でも敵を斬ることができるかもしれないが……。


「あんたはそこで見ていてください!」


「雑魚モンスターは俺たちがやっつけますから!」


 そうして、先陣を切るべくモンスターの軍勢へと走っていった。


「あいつら……」


「どうする、タクミ君」


「ったく。とりあえず俺があの二人のフォローに入る。他のメンバーの指揮は任せた」


「わかった」


 後の指揮を任せて、急いで二人の後を追う。


「ボスがどんなやつかまだわかってないのに、目の前の敵に突撃するなよ……」


 いくらなんでも無謀がすぎる。


「はぁっ!」


「せいやっ!」


 そんな二人は、一足早く敵陣と接敵し、戦いを始めていた。


「剣の心得は、あるみたいだな……」


 剣を振る動作に迷いがなく、身体に余計な力が入っていないところを見る限りは、剣の扱いに慣れている。


 構えや動きを見るに、剣道かなにかを一通り学んでいるな。


 二人で背中合わせに、死角になる方向をお互いにフォローし合いながら敵と戦っている。


 ただの考えなし、というわけではなさそうだ。


「けど……」


 剣道はあくまで一対一、一対多の稽古なんてしたことないだろうから、集中力がどこまで続くか。


 そんな彼らを少し後方から眺めていると、フッと月明かりに影が刺す。


「っ、お前ら下がれ!」


 空から急降下してくる巨大な怪鳥、その狙いはあの二人。


「「うわっ!」」


 鋭いクチバシによる攻撃は避けたものの、両翼による突風で二人とも吹き飛ばされる。


「まずいっ!」


 彼らの戦い方は、二人一組だったから成立していた。


 それが分断されてしまったら、モンスターに囲まれて袋叩きにされてしまう。


「俺じゃ一人しか……」


 どちらかを助けることができても、もう一人の方を見捨てなくてはならなくなる。


 その選択に、一瞬動けなくなってしまう。


「タクミ君は右を!」


「!」


 背後から聞こえてくる声に、その迷いはすぐに消え去った。


「アクセラレーション!」


 自己加速の魔法で一気にモンスターたちの中へと踏み込んで、


「速翼!」


 神速の横薙ぎを、モンスターたちの囲いに振るう。


「手を!」


 側まで駆け寄って手を掴み、囲いが再び埋まる前に他のレイドメンバーのいる箇所まで後退した。


 もう一人の方は白久さんたちが収容してくれた。


 ボスモンスターへの牽制攻撃も、残ったレイドメンバーたちが引き受けてくれたおかげで、誰一人ディフィートアウトをさせずに済んだ。


「大丈夫か?」


「あ、あぁ……」


「なんとか……」


 顔を青ざめさせてはいるが、ひとまずは無事だ。


「しかしモンスターの大軍に、ケツァルコアトルもどきか……」


 史上最大級の翼竜と言われたケツァルコアトル。


 敵の巨大さからもどきと名付けられたそのモンスターは、三つに開くクチバシを持つ巨大な怪鳥。


 さっきみたいに空から狙われて、地上のモンスターどもに崩された陣形をさらに圧迫されたら、戦線が完全に崩壊する。


「よし、みんなは地上のモンスターたちを相手にしてくれ。あの鳥のバケモノは、俺が相手をする」


「……わかった」


「お前ら二人はみんなの援護だ。みんなを死なすなよ!」


 それだけを言い残して、ビル伝いに屋上まで駆け上る。


「空を飛ぶ敵っていうのは、やっぱり面倒だな……」


 でもそういう敵とは、今まで何度も戦っている。


「スツールジャンパー!」


 そのための、空中起動の魔法。屋上から再び跳んで、接敵を試みる。


 俺の動きに気づいた敵も、地上からこちらへと標的を変えたらしい。


 両翼を大きく広げ、それが一気に閉じられる。


「ぐっ⁉︎」


 生み出された暴風に煽られ、前に進めなくなった。


「ぅわっ⁉︎」


 スツールジャンパーでの抵抗も虚しく、吹き飛ばされる。


「く、そっ!」


 ビルの壁に激突する前に、なんとか体勢を整えるが、衝突は避けられない。


天乃羽衣あまのはごろも!」


 防御を盾にしながら、ビルの窓に突っ込んだ。


「っつ……」


 頭は衝撃から守ったが、シールドウェアでも相殺しきれない衝撃に、身体の動きが鈍る。


「やばっ!」


 しかしそれを認識して、急いでその場からの脱出を試みた。


 敵のクチバシが、俺のいた箇所に突き刺さる。


「あっぶな」


 ちゃんと追撃までしてくるとは……。思っているよりも執念深いな。


 窓から見えていたビルの屋上に降り立って、様子を見る。


『タクミ君大丈夫⁉︎』


 今の一部始終を見ていたのだろう、白久さんから個別通信が飛んできた。


「大丈夫。それよりも地上の様子は?」


『見えている敵はほとんど倒したよ』


「さすが」


 なら、あとは俺があいつを片付けるだけか。


『こっちから援護できることはある?』


「いや……むしろあの怪鳥に近づかないようにしてほしい」


『それって……』


 白久さんの言葉が続く前に、ビルに突き刺さったクチバシを引き抜いて、ケツァルコアトルがこちらに振り向いた。


「こっちだ!」


 怪鳥に背中を向けて、ビルの屋上を伝って逃げ出す。


「まじか……」


 アクセラレーションを使っているのに、向こうの方が速度が速い。


「スツールジャンパー!」


 背後からのクチバシの突きを、左に大きく跳んでかわす。


「距離を離すのは無理か……」


 これじゃ鬼ごっこにすらならない。ならば、取れる手段は一つ。


「ついてこいよ?」


 再びスツールジャンパーを使って、今度は真上に跳ぶ。


 紅月に手が届く距離──というのはただの比喩表現だけど、赤色の空に身を乗り出してから、ひるがえって地面へと向く。


「ギャアアアアアアアアッッッ‼︎」


 小さく見えるビルの街から、猛スピードで俺を追ってくるケツァルコアトル。


 俺自身もゆっくりと落下しているから、その姿がどんどんと大きくなる。


「ふー……」


 勝負は、一撃で決まる。


 その刹那を、勝ちへと導くため、意識も魔力も集中する。


「──孤風!」


 鞘にしまった刀に手を伸ばし、込めた魔力と共に一気に引き抜いた。


 一瞬の剣光が収まったとき、ケツァルコアトルとすれ違う。


 その尾までが通り過ぎると、呻き声と共にその胴体が横に真っ二つになって、黒い靄となって消えていく。


 孤風。


 目に見える限り、敵と見定めたもの全てを二つに断つ剣技、その横薙ぎ。


 地上で使うには、周囲の建物を巻き込む可能性があって使えない剣技だが、空中であれば気兼ねなく使うことができる。


 間合いを無視できる剣技であっても、射程が無限というわけではない。だいたい五十メートルくらいだろうか。


 だからここまで上空に逃げれば、ビルも人も、その射程から外れてくれると考えた。


「っと」


 このままだと、地面に墜落する。


「スツールジャンパー」


 空中起動の魔法を複数回踏みつけて、落下速度を無理やり落としていく。


「クリスタルダスト!」


 氷の流砂が俺の身体を渦巻いて、俺の身体を受け止める。


「タクミ君!」


 彼女の魔法で安全に降り立つと、地上で待っていた白久さんをはじめ、レイドメンバーたちみんなに囲まれた。



     *



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