第25話「いわくつきのダンジョンの先で待つ者」
ダンジョンのゲートをくぐった先、そこはいつも通りのビル街と、紅月に照らされた赤い空。
「嫌になるくらい、空気が淀んでいるな」
まだ姿を見せていないが、そこらじゅうに敵がいることだけはハッキリとわかる。
『ようこそおいでくださいました、異世界のニンゲン方。まずは歓待申し上げます、ようこそ我らの世界へ』
「なんだ⁉︎」
「声が……?」
急に響き渡る、何者かの声。
「何者だ! 姿を表せ!」
『残念ですが、その要望にお応えするには、ワタクシの元まで来ていただかないといけません』
「なんだと?」
『アナタ方の場所からまっすぐ先に進んだ場所にあるドーム、ワタクシはそこでお待ちしています』
現実世界にもある、この道をまっすぐ進んだ先にある野球ドーム。そこに来いと言うことか。
『あぁそれと、アナタ方の探し求めている少女も、ここでお預かりしております』
「んなっ⁉︎」
まさか敵の方から、情報をもらうことになるなんて。
でもこれで、探す手間が省けた。
「おい、今のって……」
「まさか、ミハルさんのことか?」
「あいつの言ってたことって、冗談じゃなかったってことか?」
それまで俺に対して疑念を抱いていた他の攻略者たちも、俺の言ったことが事実だと認め始める。
『ですので、お早い到着をお待ちしておりますよ、もっとも』
パチンッと、指を鳴らす音が聞こえる。
それを合図に、陰に潜んでいたモンスターたちが一斉に出てきて、行く道を阻む。
『ここまで来られればの話ですがね。それでは、健闘を祈ります』
声はそこで途切れる。
その代わりに、モンスターたちが一斉に動き出した。
「チッ、なんだよこの数は!」
「くそっ、やるしかねぇのか」
「なんなんだよ、これは!」
困惑を拭いされないまま、構えるレイドメンバー。
「この状況、出し惜しみしてる場合じゃなさそうだ」
俺も刀を引き抜いて、弓を引くように構えた。
「──蒼天!」
矢を放つように、刀で敵を突く。
天に穴を穿つ、飛翔する刺突剣、蒼天。
間合いを無視したその刺突は一直線に飛翔し、彼方にいる敵までも吹き飛ばしていく。
「な、なんだ今のは⁉︎」
「あんな遠くにいる敵まで……」
「今のを、本当に剣で……?」
普通の魔法ではあり得ない規模の敵を一撃で吹き飛ばしたのだから、レイドメンバーの動揺は当然のことだろう。
そしてそれは、敵側も同じ。出鼻をくじかれて、狼狽えが見える。
「とりあえず、俺が先行する。できる限り敵は斬っていくけど、残敵処理は任せた」
「え、あ……?」
「それじゃあ」
「お、おい⁉︎」
彼らを置いて単身、蒼天で拓いた道を駆ける。
「ふっ──」
再び行手を塞ぎ出す雑兵たち。
それらを一振りの剣戟で、まとめて斬り伏せていく。
「あれか」
行く道の先、朧げに目的地であるドームを視認した。
「シャアアアッ!」
背後から振り下ろされる敵の爪。
「不意打ち上等!」
もっとも、一度こちらが認識してしまえば、それは不意打ちとは呼べない。
故に左に攻撃をかわし、こちらの刀を地面スレスレの位置から掬い上げるようにして、敵の胴を二つに分かつ。
「しかし、よくもまぁ……」
目的の場所へと続く道、そこはすでに敵がひしめき合うおぞましい光景と化していた。
数えるのも嫌になる、無駄に集めたものだ。
数の力は、戦いにおける有利条件の一つ。
どれだけ一騎当千の力を誇ろうとも、数による波状攻撃が続けば消耗し、いずれ力尽きるのは道理だろう。
俺にとっての、弱点の一つがそれだ。
しかしそれはあくまで、奴らが正しく統率されていればの話。
これまでの戦いでもそうだったが、奴らは周囲と連携をとることはない。
ただ自分たちの欲求を満たすためだけに、攻撃するだけ。戦いの機微なんて、元から知らないと言わんばかりの、単調な行動。
要するに、兵の運用がまるでなってない。
「は……」
馬鹿らしい。こちらが刀を振るだけで、一体、また一体と敵が消えていく。
当然だ、奴らの攻撃のパターンは全てインプットしてある。遅れを取る理由は、どこにも存在しない。
これはもう、戦闘と呼べるものじゃない。こちらによる一方的な虐殺だ。
「──ふん」
そんな同情に似た感情を、鼻で笑って消しとばす。そして再び構えて、刃向かう敵をことごとく斬り捨てていく。
「俺の道を邪魔するのなら、全て斬るまでだ」
俺の目指す場所は、追いかけるべき理想は、この道を進んだ先にあるのだから。
「そこをどけッ!」
故に道を塞ぐものたちに向けて吼え、刀を振るって突き進む。
*
「ここか……」
一体どれだけのモンスター斬ったのか、数えるのが億劫になるほどの敵を相手にしながら、目的地のドームに辿り着いた。
「入り口は……ここか?」
現実のドームには一度も訪れたことがないから少しばかり道に迷いつつ、中への侵入口を見つけた。
この先に敵が、そして白久さんがいるはずだ。
「ふー……よしっ」
一旦刀を鞘にしまって、扉を押して中へと入る。
踏み入ると、灯りがないためか薄暗いが、今いる場所が観客席であること、ホーム側と呼ばれる場所であることくらいは認識できる。
軽く周囲を見渡すが、人影は見当たらない。
ひとまずぐるりと一周して、状況を確かめるかと思った矢先。
「随分と遅い到着だな」
そんな声と共に、天井のライトが一気に点灯する。
一瞬、視界が白光に包まれ目を瞑ってしまう。
薄目で少しずつ明るさに慣らして、改めて目を見開くと。
「あれは……影森?」
ちょうど向かい側、外野の一階席に立っていた。
白久さんがダンジョンに連れ去られた時、奴と一緒だったらしいから、こちらに来ているのはわかっていたことだが。
「なんでお前がここにいる? さっきの声の主はどうした? それに、白久さんはどこだ!」
「質問が多いな」
「答えろ!」
「やれやれ、余裕がないヤツはモテないぞ?」
相変わらずの、人を舐めるような態度、イライラさせられる。
しかしそれでこちらの感情を乱されるのは、向こうの思う壺だ。
「まぁいい、答えてやるよ。オマエの探してるやつは、あそこにいるぞ」
奴が指差す向こう、外野の二階席に横たわっている白久さんがいた。
「白久さん!」
「動くな!」
駆け出そうとしたところを止められる。
「下手に動いたら、オレの炎が彼女を焼くぞ?」
「なんだと……?」
何か仕掛けをしているのか? いや、そんなことよりも。
「なんでそんなことをするんだ! 彼女はお前のフィアンセだろ!」
「アイツはもうフィアンセなんかじゃない。それに、彼女はオレを裏切った、その罰はくれてやらないとな」
「……は?」
罰、だって……?
「アイツはオレに対してはちっともなびかなかった。そればかりか、オマエなんかをパートナーに選んで、仲良くしちゃってさ。そんな裏切り者、罰されて当然だろ?」
「何を言って……」
「まぁそんなことはどうでもいいんだよ。オレの目的はオマエなんだからな」
「俺……?」
「あぁそうだ! テメェのせいで、オレがこれまで積み上げてきたものがみんな崩れちまったんだ! オレの人生は、テメェのせいで台無しなんだよ!」
「台無しって……先に仕掛けてきたのはお前のほうだろ。今の状況は、お前の自業自得だ」
「黙れッ! この殺人未遂犯がッ‼︎」
こちらの正論を怒号で封じてくる。
「……やっぱりお前が、あの噂を」
「あぁそうさ、オレがお前を陥れるように誘導した」
「なんでそんなことを!」
「決まってるだろ! オレがドン底まで落とされてるのに、オマエはそのままだなんて不公平だ! だからオレがオマエの罪を裁いてやるよ。もっとも、オマエに下す判決は死刑以外にないがな」
高笑いする影森。
「だからって、なんでダンジョンでこんなことをする? わざわざこんなところまで連れてくるなんて、狂気の沙汰としか思えない」
「……なんだオマエ、まだ気づいてないのか?」
「気づいてない?」
「こいつは滑稽だな! この状況は全てオレが作り出したんだよ!」
「なん……⁉︎」
何を言ってるんだ、こいつは。
この状況を、作り出した……?
「……じゃあ、ダンジョンを発生させたのも」
「あぁ、全部オレの意思さ」
「なんで、そんなことを……。向こうではまだ、多くのダンジョン攻略者がモンスターと戦ってるんだぞ!」
「あぁ、そうだろうな。ご苦労なことだ」
「ふざけるな! 俺に恨みがあるなら、俺だけを狙えばいいだろ! 他の攻略者を巻き添いにする必要がどこにある!」
「いやあるね。どいつもこいつもオレを批判しやがって、オレが陥れられる原因を作った連中ばかりだろ。だからアイツらにも罪を償ってもらわなくちゃなぁ?」
「こいつ……」
薄々わかっていたが、もう正気とは思えない。完全に錯乱してる。
「でもオマエだけは、オレの手で殺してやるって決めてるんだよ! わかったらとっととかかってきやがれ!」
両手から炎をたぎらせて、全身から魔力を吹き出す影森。
最初から分かっていた事だが、奴とは話し合いで解決できなさそうだ。
意を決して、抜刀した刀の鋒を奴に向ける。
「……なら俺は、お前の愚かな行為を止めて、白久さんを救い出す」
俺の肩には、ここへ送り出してくれた中川さんや執事さん、協力してくれたダンジョン攻略者全員の思いが乗っている。
「いざ、参る‼︎」
*
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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