第14話「彼を見つめる友人たち」

 クラスメイトをごまかせても、教師たちまで……とはいかず。


 六限目の授業が終わった時に、校内放送で名指しで呼び出されてしまった。


「失礼します」


 生徒指導室に入ると、さっきの先輩たちもいた。


「さて、話を聞こうか」


 彼らからはすでに話を聞いたのだろう、俺が事の顛末を話す間、ただ黙っているだけだった。


 もっとも、彼らがどんな証言をしていようと、こちらには録画映像がある。


 それに俺は自分を守るために魔力を使用しただけで、彼らには指一本手出しをしていない。


 どちらの罪が重いかなんて、言うまでもなく明らかだ。


「……なるほど。大体の事情は把握した」


 最終的な処分として、先輩たちには一週間の停学となり、俺は厳重注意程度に留まった。


 けど先輩たちが先に退室させられてから、なぜか小一時間ほどぐちぐちとお説教される羽目になったが。


「……失礼しました」


 生徒指導室の扉を閉めて、大きなため息を吐いた。


「お説教というか、俺に対する愚痴か何かだろ……」


 途中から今回の一件というより、ダンジョン攻略とか配信とか、なぜかそっちの方に話が波及していった。


 果ては、刀で戦ってることにもアレコレ文句をつけてきた。


「まさか……」


 これも白久さんと親しくしてるから、なんてことないよな?


 いくらなんでも教師たちまで俺を妬んでる、そんなことはないと思いたいんだが……。


「さてと、保健室に行かなきゃか」


 放課後にもう一度見せに来いと言われてるんだった。


 指示に従って保健室に行くと、お昼にも対応してくれた養護教諭が待っていた。


「ま、覚醒者ならこの程度すぐに治るでしょう。痛みがひどいようなら病院へ行くように」


 そう念を押されて、湿布を貼られて包帯を巻かれる。


「ありがとうございました、失礼します」


「お大事に」


 保健室を後にして、置きっぱなしのカバンを取りに教室へと向かう。


「大人しく帰るか、この状態だしな。白久さんは先に帰っただろうし、歩いて帰るか」


 道は覚えているけど、学校から白久さんの家までは、歩いたら小一時間はかかる。


 今までは毎日歩いて登校していたから、小一時間のウォーキングくらいはどうってことはない。


 でもここ最近、白久さんと一緒に近くまで車に乗せてもらっているせいで、ほんの少しだけ面倒だなという気持ちも出てきたけど。


「そういう意味では、彼女に色々と依存し始めてるな俺……あれ?」


「あ、やっと来た」


「三峰君!」


 教室の扉を開くと、白久さんと朔也が残っていた。


「なんで二人が残って?」


「三峰君を待ってんだよ」


「そうそう、いったいどんなことがあったのか、ぜひ話を聞かなくちゃと思ってね」


 白久さんは俺を心配して残ってくれていたんだろう。朔也の方は、単なる野次馬根性だなこれは。


「別に、聞いたところでなにも面白くないけど」


「「い、い、か、ら」」


 二人に迫られて、諸手を挙げて降参した。


「……わかったよ」


 仕方なく、食堂を出たところで先輩たちに囲まれ、校舎裏に連れて行かれて、魔法で襲い掛かられたことを簡単に説明した。


「なにそれ、なんでそんなことに?」


「さぁ。あの人たち曰く、剣士の俺が目立っているのがムカつくんだと」


 白久さんに責任を感じてほしくないから、彼女のことについては伏せる。


「じゃあその怪我も、その時に……?」


「あーいや、これは……」


 どうにかして誤魔化す方法を考えるが、白久さんのまっすぐな視線に屈した。


「……俺が逃げ出さないように結界を周囲に張ってたみたいで、それを魔力を込めた拳で壊したから」


「大丈夫なの? まだ痛むんだよね?」


「これくらいなら平気だよ、明日には治ってるだろうし」


 今は、手を握り込むと軽く痛む程度。


 ラガッシュと戦った時と比べれば、はるかに軽症だ。


「それでも、あんまり無茶はしないでね……?」


 優しく、右手を握る白久さん。


「お二人さん、仲いいね」


「「!」」


 パッと、お互い手を離して顔を背ける。


「しっかしタクミは話題に事欠かないね。勝手に面白いことに巻き込まれてくれるんだもん」


 反対に、俺の悲劇を心底楽しんでいる様子な朔也。


「あのなお前……」


「日野君……」


「ただの冗談だってば。でもやっぱり、タクミに目をつけておいてよかった。やっぱり僕の目は正しかったね」


「どういうこと?」


「だって、ダンジョンにたった一人、剣を携えていくんだよ? そんな命知らずな人に注目しないわけにはいかないでしょ! 結果、今やタクミは世界中が注目してるダンジョンストリーマーになった。いやぁ最初からタクミに目をつけていて、本当に良かったよ!」


「えーっと……」


「気にするな白久さん。こいつはこういうやつなんだ」


 自称、日本一のダンジョンストリーマーオタク。


 自分も覚醒者のくせにダンジョン攻略には一切参加せず、なのにダンジョンストリームには全てチェックを入れている。


「だからタクミに目をつけた白久さんは、実にお目が高い! 彼は今後もっと伸びるって思うよ」


「俺を通販の商品みたいに言うな。気にしないでくれ、白久さん」


「……私だって、ずっと前から三峰君のことを見てたのに」


「白久さん?」


「えっ? な、何か言った?」


「いや、なんかブツブツと呟いてたから」


「ううん、なんでもないっ」


「?」


「ま、そんな話は置いておいて。タクミも災難だったね、いわゆる出る杭は打たれるってやつに巻き込まれてさ」


「いずれそういう連中が出てくることは予測してたけどな。流石に学校でとは思わなかったけど」


「だろうね。でもこれは序の口だって思うよ。まだもう一悶着くらいはあるんじゃないかな」


「おいおい、変な予言をするのはやめてくれ。お前の言うことは恐ろしいくらいに当たるんだから」


「それほどでも、あるけど!」


「…………」


「とにかく、気をつけるに越したことはないね」


「……まぁ、確かに」


 朔也の予言じみた発言はともかく、言ってることは概ね正しいから、より厄介だ。


「さてと、そろそろ帰ると……」


 朔也が椅子から立ち上がった瞬間、ビーッビーッとアラートが鳴る。


「……ダンジョン発生の通知」


「それもここからかなり近い……」


「そうだろうね。大規模ダンジョンを除いて、通知はダンジョン発生箇所の近くにいる攻略者に向けて送られるし」


「どうする? 三峰君」


「行くよ、というか行かない選択肢なんてない」


「だろうね、タクミならそう言うと思った」


「けど、その手じゃ……」


「大丈夫だよ、これくらいなら。それに最悪、左手だけでも剣を振れるように稽古をつけてもらってるし」


 利き腕でなくても剣を扱えるように、親父にそう言われてかなり訓練した。


 おかげで、左手だけでも右手と遜色ない程度には剣を振ることが出来る。


 雑魚敵を相手にする程度なら、これでも問題ない。


「でも、タクミもたまには休むってことを覚えた方がいいと思うよ」 


「確かに、日野君の言う通りだって私も思うな。三峰君、全然休もうとしないから」


「そうそう、そうだよね。タクミって今まで、行ける範囲のダンジョンには全て参加してたし」


「やっぱりそうだったんだ。毎日バイトしたり、その後にダンジョンに参加したり。三峰君って休むことを知らないんじゃないかって思う」


「うんうん、タクミは休みの大切さを知るべきだって思うな。頭いいのに、そういうところはバカなんだよね」


「わかる。ダンジョンでも自分から危険な役割を引き受けて、ちょっとは自分のことを大切にするべきだよ」


「えぇ……」


 二人からこんな息ピッタリ罵倒されるなんて思わなかった。


「それにしても、白久さんって随分タクミのこと理解してるんだね。それにここ最近、すごく仲良くなってるし。もしかして……二人ってやっぱり付き合ってるんじゃないの?」


「つきっ⁉︎」


「はぁ?」


 なにを言い出すかと思えば……。


「なななな、なっ、何を言ってるのかな日野君⁉︎ わ、私たちが、そ、そんなっ、こと……」


「そうだぞ、朔也。お昼休みも言っただろ、白久さんはクラスメイトで同じダンジョン攻略者だから、話が合うだけだって。本人を前にして失礼だろ?」


 なにを勘ぐりたいのか知らないけど、流石にそろそろしつこい。


「ふーん……。って、それよりも、早くダンジョンに行かないとじゃない?」


「お前が余計なこと言ったせいだろ。行こう白久さん。……白久さん?」


「む〜……」


 なぜか頬を目一杯膨らませて、俺を睨みつけてくる。


「ほら、白久さんも、早く行ったほうがいいよ」


「……はぁ。うん、そうだね」


 なぜか肩を落として、トボトボと教室の出口へ向かう。


「頑張ってね、二人とも。応援してる」


「あぁ、それじゃあまた明日」


 朔也と別れ、職員室に預けている刀を取りに職員室へと向かう。


「そういえば、日野君ってダンジョン攻略には参加しないんだね」


「あいつは見る専なんだよ」


「見る専? でも日野君も覚醒者だよね? 目の色が左右で違うし」


「そうだよ。でもあいつ曰く、『自分はあんまり強くないし、見てるほうが楽しい』んだと」


「そうなんだ? でも二人はすごく仲がいいんだね」


「まぁ、この学校で数少ない友達だからな」


 朔也はみんなと仲がいいけど、あいつが話しかけてこなかったら、俺はこの学校で友達ができなかったかもしれない。


 接客業をしていたし、人と会話すること自体はできる。


 でも俺自身、人付き合いが良くない自覚はあるし、さっきみたいに軽口で会話できる友達はほとんどいない。


 だからなんだかんだ、あいつの存在には感謝してる。


 たまにさっきみたいに、ひどい目に遭うけど。


「ふーん……。……いいなぁ」


「いいって、なにが?」


「ううん、なんでもない。それよりも急ごう?」


「そうだな」


 職員室に預けていた竹刀入れを受け取って、ダンジョンが発生した現場に急行した。



     *



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