第13話「予測していたリアクション」

 先輩たちに囲まれて、連れてこられたのは校舎裏の暗い場所。


 ここは滅多に人が立ち寄らず、周囲は木々とに囲まれている。


 学園の敷地の外とは、柵で仕切られているため、向こうからこちらを見ることはできない。


 これから起こることに使うには、便利な場所というべきだろう。


「さて、三峰匠くん。単刀直入に言うが、ミハルさんと関わるのをやめてもらおうか」


 そんな場所で、先輩たちに囲まれて、リーダー格の人が威圧しながらそう告げてきた。


「やっぱりそれですか……」


「は?」


「いえ、こんなことも起こるだろうなと、予測のうちにあったので」


 流石に学校で、ということまでは予測できなかったけど。


「その余裕タップリな態度はムカつくな。予測してたから怖くもなんともありませんって言うつもりか?」


「まぁそうですね。別に怖くはないです」


「チッ、テメェ!」


「舐めてんのか!」


「まぁ待て、お前ら」


 取り巻きが先に激発しようとしたのを止める、リーダー格の先輩。


「俺たちも紳士だ、お前の返答くらいは聞いてやるよ。それで、返答は?」


 どこが紳士なのか、一度辞書で紳士の意味を調べたらどうだろう。


 少なくとも、六人で一人の後輩を囲む人のこと、なんて記載はないはずだ。


 そんな正論を言っても相手の頭に血がのぼるだけだから、うんざりしながらも彼らの質問に返答する。


「ノーに決まってますが。先輩たちこそ、俺の答えを予想してるのでは?」


 なんでこんな人たちに、俺の行動を制限されなくちゃならないのか。


「だろうな、いや安心したよ。そうでなくちゃ、わざわざ六人も集めた意味がなくなっちまう」


 その言葉を皮切りに、俺を取り囲む六人から魔力の昂りを感じる。


「こんなところで魔法を使ったら、騒ぎどころじゃ済みませんが?」


「んなこた知ってるよ! これは俺たちからのセミナーだ、俺たちがお前を指導してやるよ! おら喰らいやがれ!」


 火蓋を切るように、雷の魔法が飛んでくる。


天乃羽衣あまのはごろも


 彼らの攻撃を受けるつもりもないので、防御術でしっかり防ぎ切る。


 先に手を出したのは彼らの方、俺が魔法を使っても正当防衛と言えるだろう。


「この距離で、しかも俺が避けたら仲間に魔法が当たるかもしれないのに、よくやりますね」


「はっ、取り囲まれてる状況でよくも余裕ぶっこいてられるなおい!」


「……あぁ、なるほど」


 つまり彼らは、すでにシールドウェアを装着済みと。


「テメェにシールドウェアを起動させる余裕なんて与えねぇけどな!」


 右から左から、前から後ろから、次々と魔法を打ち込んでくる先輩たち。


 確かに放たれた魔法を認識してそれをかわすことだけに集中させられては、シールドウェアを起動することはおろか、助けを呼ぶことさえ難しい。


 でも彼らは知らないのだろうか、俺が魔力を脚力に傾ければ彼らの背丈はゆうに飛び越えられる、移動補助の魔法を使えることを。


 そう考えて、チラッと空を見上げるが。


「残念だったなぁ、ここに踏み入った時点で結界魔法が発動してんだよ。ご自慢の脚力は意味をなさないぜ」


 流石に対策されているらしい。道理でさっきから、遠くの景色がボヤけて見えると思った。


 けどこの結界、どこかで見た記憶があるな。確か半年くらい前のダンジョン攻略で……。


「よそ見してんじゃねぇ!」


 彼らが放つ魔法が一度も俺を捉えないことに、苛立ちが募ってきたのか。


 顔がだんだんと険しくなるにつれて、攻撃が苛烈になる。けど、


(経路探索をするまでもないな)


 雑魚敵に囲まれて袋叩きに合う場面は、これまで何度も出くわしてきた。


 その時に比べれば、この程度は怖くもなんともない。


 予鈴が鳴るまで、あと五分弱。


 この攻防にはもう飽きたけど、仕方ないからそれまでは付き合ってあげるとしよう。


     *



「な、なんで……」


 囲んでいる彼らの方が、先に音を上げてしまいそうになっていた。


 五分以上も魔法を打ち続けて、俺をさっぱり傷つけられないのだから、段々と絶望の感情の方が増しているだろう。


 時間が経つにつれ、味方への誤爆の回数が増えてきたおかげで、彼らの戦意や絆も少しずつ削がれている。


「こいつ、どうなってんだ……」


「バケモノかよ……」


 人をバケモノ扱いするのはやめてほしい。


「なんでと言われても、連携がまるでなってないからですかね」


「なっ──」


 俺の言葉に絶句する先輩たち。


 なぜなら彼らは全員、俺のことしか狙おうとしないから。


 俺の動きを先読みして退路を断ち、その上で魔法を打ち込めば、俺も相応の対応を迫られていただろう。


 でもそんなことはなかった、だからかわすのもいなすのも容易。ただ、それだけだ。


「さてと、予鈴も鳴ったみたいなので、そろそろ俺は失礼させていただきます」


「あ?」


 さっき遠くから鳴っているのが聞こえてきた。


 授業に遅れたくはないし、変な勘繰りもされたくないので、もう帰らせてもらおう。


「ふ、ふざけんじゃねぇぞ!」


「だいたいここは結界が……」


「だったら、突破すればいいだけです」


 この結界の弱点は、一点突破の火力。


 以前この結界がダンジョン攻略で使われた時、ボスモンスターの強力な一撃で、穴を穿たれた。


 だから同じことをすればいい。


 しかしここには、俺の刀も武器になるようなものもない。


 であれば、頼るべきは己の拳。


 イメージするのは、ラガッシュが放ったあの一撃。


「ふっ──」


 右足の震脚によって、ズトンッと音を立てて地面が抉れる。


「はぁっ!」


 右手に魔力を一点集中し、正拳を放つ。


 剛拳を受けた結界にたちまちヒビが走っていき、崩壊し始める。


「な、なぁっ⁉︎」


「う、嘘だろ⁉︎」


「あの結界を、一撃で……?」


 俺の一撃を見た彼らは、顔を青ざめさせる。中には腰を抜かしたのか、地面に尻餅をつく先輩までいる。


 こういう場面だと朔也あたりは、


『ザマァないですね先輩方!』


 とかなんとか言って、高笑いの一つでも決めるんだろうなぁ。


 趣味が悪いから、俺はやらないけど。


 ただ、何も言わないままこの場を立ち去るのは、それはそれでちょっと癪だから。


「というわけで、この結界みたいになりたくなかったら、今後はバカみたいなことを考えないでくださいね?」


「「「「「「…………」」」」」」


「あと、今の一部始終は俺のRMSでビデオ撮影してたので、あなたたちがどんな言い訳をしても無駄ですから」


 食堂から出て彼らが前に現れた時点で、先んじてRMSのカメラを起動させていた。


 ここまでのことになるとは思っていなかったけど、先に手を打っておいてよかったな。


「それじゃあ、俺はお先に」


 そう告げて離脱する俺に、背後から攻撃する気力は彼らにはなかったようだ。


 彼らの視界から逃れて、物陰に入った。


「〜〜〜いっだぁ‼︎」


 その場で跳ね回って、右手の患部に息を吹きかける。


 魔法のくせして、ちゃんと物理的な効力もあったあの結界。いやそうじゃなきゃ、閉じ込めるって目的にそぐわないんだから当然なんだけど。


「いくら魔力を込めてたからって、シールドウェアも纏ってないのに殴って破壊するなんてバカだった……」


 それなりに鍛えているつもりはあるけど、別に筋肉モリモリマッチョマンってわけじゃないし、身体の耐久値は一般人とそう変わらない。


「保健室……行こう」


 ただの打撲とはいえ、放っておいたらもっと悪化するやつだこれは……。 



     *



 教室に戻ったのは、五限目が始まって少し経った後だった。


「すみません、ちょっと保健室に行ってたんで」


 保健室でもらった、アイシング用の氷を見せながら事情を伝えて、自席に戻る。


「で、どうしたのさそれは」


 五限目が終わると、いの一番に朔也が寄ってきた。


「ちょっとぶつけただけだよ。軽く腫れてるから、冷やすものをもらってきた」


「ふーん? ところでさっき、校舎の裏でなんか一悶着あったらしいんだけど。タクミ、何か知ってる?」


「いや初耳だな。なにがあったんだ?」


「詳しくは知らないけど、なんか生徒同士の喧嘩みたいなのがあったらしいよ。喧嘩というか、一対六の集団リンチに近かったらしいけど」


「なんだそりゃ、酷い話だな」


「でも一人の方が、ひたすら六人の攻撃をかわしてたせいで、先に六人の方が根を上げたんだって」


「そりゃすごい防御術だ、ぜひその技術を教えてほしい」


「で、タクミはほんっとうになにも知らないの?」


「知らない。俺は保健室に行ってたし。見てみたかったな、その防御術」


「へー……。そ、まぁタクミがそう言いたいのなら、そういうことにしておいてあげる」


「なんのことかさっぱりわかんないけど。そりゃどうも」


 と、白久さんが心配そうに俺を見つめてきていることに気づいた。


(大丈夫、これくらいどうってことないよ)


 そんな意味を含めて、軽く微笑んでおいた。



     *



本日(2024/9/19)、10000PVを突破しました!

読んでいただいた皆さん、本当にありがとうございます!

まだまだ続く匠と晴未の物語を、ぜひよろしくお願いします!


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