第3話「大規模ダンジョンの悪夢」
大規模ダンジョンの発生。
バイトの帰りに緊急の通知が来て、急いで引き返して現場に向かった。
ダンジョンが発生した周辺は自衛隊や警察によって完全に封鎖され、ダンジョン攻略者のみがその中に入ることを許される。
「でかい……」
現れたゲートの大きさで、ダンジョンの規模は大体把握できるが、目の前にあるゲートはビル二階分はゆうに超える高さ。
年に一度出現するかしないかという規模、緊急の参集連絡が流れてくるのも納得だ。
「しかし、通知が来てから一時間も経ってないのに、かなりの人が集まってるな」
流石に大規模ダンジョン、普段からダンジョン攻略を行っているベテランの姿もかなりいる。
その中には、トップストリーマーたちの顔もだ。
周囲がダンジョンに入る準備を始めるのに合わせて、俺もRMSを装着し、竹刀ケースにしまってある刀を左腰に装備する。
瞬間、針のような視線が周囲から一斉に飛んできた。
「あいつ剣士か?」
「なんでこんな剣士風情がここに」
「こいつも戦いに参加するつもりか?」
「なんでもいいけど、俺たちの邪魔だけはしないでもらいたいものだな」
「そうだな、端の方で大人しくしていれば、文句は言わん」
そんな陰口がきこえてくる。
初心者だけでなく、ベテランのダンジョン攻略者たちからでさえ、こういった扱いを受ける。
もう慣れたけど、やっぱり居心地はよろしくない。人が多いダンジョンでは特にそうだ。
「タクミ君?」
ふと、背後から女の子の声がした。
「しろ……いや、ミハルさんか」
そこにいたのはクラスの、そしてダンジョンストリームのアイドル。白久さんことミハルさん。
数時間前まで同じクラスで過ごしていたせいで、実名で呼ぶところだった。
ダンジョン攻略に臨む際は、たとえ旧知の仲でもストリーミングに登録した名前で呼び合うとのが礼儀とされている。
だからダンジョンに入る前には、レイドメンバー同士で自己紹介をする。
ちなみに彼女のストリーマーネームはミハル、俺と同じように名前をもじったんだろう。
「緊急の呼び出し、タクミ君も来たんだね」
「あぁ、うん。一応」
「タクミ君と一緒になるのは久しぶりだね。お互い頑張ろう!」
「そうだな、応援してる」
「なんで応援⁉︎ タクミ君だって戦うのに」
冗談かなにかかと思って笑うミハルさん。
クラスメイトだからというのもあるだろうけど、俺のような剣士に対しても分け隔てなく話してくれることには、素直に好感を抱く。
「おーい、ミハルさーん!」
「はーい! それじゃあまたね」
俺に手を振って、他の配信者たちの元へ駆け寄っていくミハルさん。
トップストリーマー唯一の女の子であるミハルさん、それを囲うレイドメンバーの姿はまるで、オタサーの姫そのものだ。
「っ──」
なぜお前のような底辺プレイヤーが、ミハルさんと仲良く話しているんだ。
そんな意味が混じった、突き刺さるような視線を周囲から受けて、目を明後日の方向にそらす。
彼女から話しかけてきたんだからしょうがないだろう、なんて言い訳は彼らには通用しない。
「さっさとダンジョンを片付けて、早く帰りたい……」
ため息を吐きながら、彼らの視線に耐えるしかなかった。
*
「それじゃあみんな、いくぞ!」
臨時レイドの指揮を取るのは、ストリーミング人気ランク第一位、名前はグレイストーカー。
彼に鼓舞され、この場に集まった全員が意気揚々と声を上げながらゲートへと進んでいく。
そんな彼らの背中を見届けてから、俺も一番最後にダンジョンのゲートを通った。
「……見た限りはいつも通りか」
空は紅月夜、場所はさっきまでいたビルの森と瓜二つ。
ひとまず周囲に、モンスターは見られない。
「!」
不意に、月の光に影が刺した。
「上だ!」
全員が反応して、距離を取る。
そしてそれは、轟音を響かせ、大地を揺るがし、俺たちの目の前に落着した。
「……あれがこのダンジョンの」
「ボスモンスターか」
地に拳をついた状態から、ゆらりと立ち上がるモンスター。
五メートル近くはある巨大な体躯、腕や足の筋肉は丸太を直に据え付けたような無骨さ、背中には悪魔のような羽が生えている。
そんな敵の目が怪しく光って、周囲を見渡し、
「……フハハハハッ! ゾロゾロとやってきたな、侵略者どもよ!」
高らかに笑い声を上げる。
「……喋った?」
他のレイドメンバーもざわつく。
今まで鳴き声や雄叫びを上げるモンスターはいたが、人の言葉を喋るモンスターはこれが初めてだ。
「聞けいっ! 異界の人間共よ! 我が名はラガッシュ! 我らが偉大なる魔王パンテオン様の忠臣にして、魔の将! ここで我と相見えた貴様らに生きる道はない! 大人しく我らに殺されるがいいっ!」
その場の全てを揺るがすような大声、否、衝撃波が繰り出された。
(こいつは……)
今までに感じたことのない異様な圧に、鳥肌が立つ。
「魔王? なんだそれ」
「つかあいつ、俺たちのことを侵略者って言わなかったか?」
「バカな、あいつらモンスターが俺たちの世界に侵略しにきてるのに」
しかし他のレイドメンバーは、ラガッシュと名乗った敵の言に、ただ困惑するだけ。
「ゆけ! 我が眷属たちよ! ここにいる人間共を皆殺しにせよ!」
ラガッシュの影が伸びて、そこから大量のモンスターたちが湧き上がる。ゴブリン、オオカミ、オーガ、種類は様々。
「っ、戦闘開始だ!」
いきなりのモンスター出現に、ようやく我を取り戻したレイドメンバーが、グレイストーカーの指示で一斉に動き出す。
そんな彼らの戦いを、一番後ろで眺める。
この大規模ダンジョンに集まった人数は五十人強。
しかもベテランばかりが集まったこの状況なら、そう簡単に戦線が崩れたりはしないだろう。
何より戦闘を指揮するのは、あのグレイストーカーなのだから。
俺の戦闘スタイル的にも、まずは後方から見学させてもらう。
……それに、今俺が出て行っても、どうせ邪魔者扱いされるだけだろうし。
「左右からの攻撃を通すな! 魔法で弾幕を張って押しとどめろ!」
俺が状況を観察している間、彼らは緻密な連携によって魔法の弾幕を形成し、モンスターたちを倒していた。
流石はベテランばかりが集まっているレイドだ。
そして何よりも、指揮者たるグレイストーカーの的確な指示と、
「スローンガーデン」
無数の針の山を形成する、グレイストーカーだけが扱う魔法によって、モンスターは次々と串刺しにされていく。
「ほう、やるではないか」
そんな状況に、ラガッシュと名乗ったボスは卑しく目を光らせ、ニヤリとした表情を見せた。
「なっ!」
「飛んだ⁉︎」
同時に、背中の羽を広げて飛翔、グレイストーカーの目の前に着地する。
「貴様が指揮官のようだな。ならば貴様からだ!」
グッと後ろへ引かれた右手に、黒く禍々しい力が宿る。
「舐めるなよデカブツが!」
再び棘の山を形成し、振り抜かれた敵の拳に向かって攻撃を仕掛ける。だが、
「その程度の魔法が我が拳に通用するものかッ!」
「なにっ!」
針の山は敵の拳に次々と破られていく。
「ダメだ! 下がれ!」
しかし俺の声が彼に届くことはなく──
「カハッ……⁉」
──敵の右手がグレイストーカーの腹を貫通し、赤い鮮血が噴き出た。
*
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